浮気してくれて、ありがとう…世帯資産3,800万円・家庭を支え続けた58歳専業主婦。夫の「離婚宣告」に“高笑い”した夜
日本では3組に1組が離婚する時代といわれています。実際、厚生労働省の統計によると、2022年の婚姻件数に対する離婚件数の割合は約35%に達しました。とはいえ、収入を持たない専業主婦にとって、離婚はその後の生活を大きく左右する重大な決断です。タイミングを誤れば、老後資金や住まいに不安を抱えたまま再スタートを切ることにもなりかねません。では、もし財産分与や年金分割を十分に見据えたうえで、最も条件の整ったタイミングで離婚が成立したとしたら――。今回は、結果として「狙い通り」ともいえる形で人生を区切った、ある専業主婦のケースを紹介します。
夫の異変を「あえてスルー」した妻
由美子さん(仮名・58歳)は、30年以上専業主婦として生きてきました。夫は会社員として外で働き、収入を得る。妻は家事と育児を一手に引き受け、家庭を回す。役割分担は明確でしたが、夫婦関係は決して対等ではありませんでした。
夫は「俺が養っている」という意識が強く、家の中でも強い態度を崩しません。由美子さんが意見を口にすれば、「誰のおかげで生活できていると思っている」と返される。家計の管理も、資産の状況も、すべて夫の管理下にありました。
離婚が何度も頭をよぎりました。しかし、息子が自立するまでは現実的ではありませんでした。自分に収入がない状態で離婚すれば、その後の生活が立ち行かないことは明らかだったからです。
そんな年月を過ごし、息子は大学を卒業し独立。夫婦2人暮らしになってから数年、夫が55歳の時。ある異変が起きました。夫がスマートフォンを肌身離さず持ち歩き、帰宅時間が不規則に。休日も「用事がある」と外出することが増えていったのです。
そして、由美子さんは夫のスマートフォンの画面に、見知らぬ女性の名前が表示されているのを目にします。それは、家族に向けるものとは明らかに違うものでした。
さらに夫は、自分の行動が由美子さんに察せられていることを、どこかで気づいているような素振りを見せることもありました。それでも、何も言わない由美子さん。夫にとって由美子さんは、「自分に文句を言えない相手」でした。家のことは完璧にこなし、感情をぶつけてくることもない。その沈黙は、夫にとって都合のよいものでもあったのです。
ですが、その沈黙の裏には、由美子さんの冷静な判断がありました。
「夫に捨てられた」はずが、離婚で高笑い
由美子さんは、夫の不貞を理由に離婚を迫ることもできました。しかし、その時点での資産額はまだ十分とはいえませんでした。分割しても、老後を安心して暮らせる水準には届きません。
「今、動くべきではない」 由美子さんはそう考え、夫を責めることも、証拠を突きつけることもせず、ただ待つことを選びました。そして、夫が60歳を迎え、定年退職をしたタイミング。退職金が支給され、預貯金や有価証券を合わせた総資産は約3,800万円に達しました。
いまだに夫の不貞は続いていました。そこで由美子さんは初めて、密かに集めていた浮気の証拠を静かに示しました。声を荒らげることも、責め立てることもありません。「知っていましたよ」 ――それだけでした。
自分から離婚を切り出すことが、不利になることもあると由美子さんは知っていました。だからこそ、これ以上夫婦でいる意味がないという現実を、淡々と示しただけです。
それから数日後、夫のほうから 「もう夫婦としてやっていく意味がない。離婚しよう」と言われました。この言葉だけを切り取れば、「頼りにしていた夫から突然離婚を言い渡された、かわいそうな妻」に見えるかもしれません。
しかし、実際は逆でした。由美子さんは、この言葉を待っていたのです。心の中では高笑いが響いていました。
離婚は「復讐」ではなく「清算」
離婚協議は、驚くほど淡々と進みました。婚姻期間中に築いた財産のうち、共有財産と認められた分を整理した結果、由美子さんが受け取った財産分与は約1,600万円。退職金についても、婚姻期間に対応する部分のみが分割対象となりました。さらに、年金分割により夫の厚生年金の一部を将来受給できる権利も確保しています。
「小さなアパート暮らしで十分なんです。あとは家事代行で働きたい。長い専業主婦生活で、それだけには自信があるので」
感情的な争いはありませんでした。由美子さんにとって、離婚は復讐ではなく、人生の清算だったのです。
「もし夫の浮気がもっと早く終わっていたら、こうはできなかったかもしれませんね。私は何も生み出してこなかったわけじゃない。家庭を守り、子どもを育て、夫が働ける環境を整えてきたんです。その対価をもらって、あとは自由に生きていきます」
専業主婦であっても、婚姻期間中に築かれた資産を分け合う権利があります。離婚は、弱い立場の人が泣き寝入りする制度ではありません。
由美子さんの選択は、誰かを打ち負かすためのものではありませんでした。婚姻のなかで果たしてきた役割と、その積み重ねを法的に整理し、次の人生へ進むための区切りをつけただけです。離婚とは、ときに感情の決着ではなく、人生を立て直すための「現実的な判断」でもあるのです。

