こうして「まつ毛美容液」というニッチな金脈をがっちり掴んだ…2代目バチェロレッテの超ロジカル戦略
※本稿は、木下勝寿『なぜあの商品、サービスは売れたのか? トップマーケッターたちの思考』(実業之日本社)の一部を再編集したものです。

■「ブランド」が作りたかったから、「メディア」から始めた
【木下勝寿(北の達人コーポレーション社長)】尾さんといえば「バチェロレッテ2」の方というイメージが強いかもしれませんが、今回はバリバリのD2C企業の経営者としてお話を聞かせてください。
尾さんはブランドを生み出す前から美容メディアの事業をやられていますが、なぜメディアをやろうと考えたんですか?
【尾美紀(DINÉTTE代表)】私は2017年の大学4年の時に起業しているんですが、本当は当時からブランドがやりたかったんです。だけど冷静に考えて、ただの大学生がいきなりブランドを作っても絶対売れないじゃないですか。だから商品を出した時に一定は買ってくれる人たちがいるコミュニティを先に作っておこうと考えてメディアから始めたんです。
【木下】先に「ブランドを作ろう」という目的があって、準備が整ってから参入した感じですか?
【尾】そうですね。
【木下】賢いですね(笑)。
【尾】その時はただ闇雲で、大学生なので融資も受けられないからお金もないし、まずは安定して得られるミニマムの売り上げを作っておいて、法人としてお金を調達できたり、なんならエクイティ(株式による資金調達)もできるかもという状態にした上で商品を作った方が、良いものを限りなくこだわって作れると思ったんですよね。
お金がない中で商品を作ろうとすると「これしか作れない」となってしまいそうだし、何より一番最初に出す商品で顧客の心をつかめないと、その後に出すものを買ってもらえなくなるリスクも高いと思ったので、ある程度キャッシュがある状態でやりたいと思っていたんです。
【木下】それを大学生の時に考えた?
【尾】はい。
【木下】今まで登場いただいたゲストの中で一番頭がいいかもしれないですね(笑)。
■メディア立ち上げ2年で初めて商品をローンチ
【尾】そんなことないです(笑)。たまたま大学生の時にインターンしていた会社でものづくりの現場を見たんですよ。
SNSマーケの仕組みとかも勉強させてもらって。そこで商品自体に力がないとリピートもされないし、ブランドとしても好きになってもらえないという現実を見ていたので、自分がブランドを作るとしたら1年目とかではないだろうなと思ったんですよね。

【木下】ほ〜……いや、すごい。そこからブランドを展開されていくわけですが、どのようなタイミングでブランドを作ったのでしょうか?
【尾】美容メディアを通じてお客様にアンケートを取り続けていて、お客様が美容についてどんなことに悩んでいるのかのインサイトが溜まってきたタイミングで初めて商品をローンチしたんですが、それが2019年です。
【木下】今ではメディアよりプロダクトの方がメインですか?
【尾】売上の比率でいうとブランドというかプロダクトがメインで、今はフィービービューティーアップとルメールビューティーという2つのブランドを展開しています。
【木下】どんな商品を展開していますか?
【尾】最初に作ったのがヒーロー商品(お客様に自信を持っておすすめできる商品のこと)でもある『アイラッシュセラム』というまつ毛美容液で、そこからの派生プロダクトなどラインナップをいくつか加えてきています。
【木下】今も『アイラッシュセラム』の売上比率が高いんですか?
【尾】はい。今後は次のヒーロー商品の開発や既存商品のクロスセル(顧客がすでに購入している商品やサービスに関連する商品やサービスを、追加で販売すること)やアップセル(顧客が購入しようとしている商品やサービスよりも、より高価なグレードや上位モデルの商品を提案すること)をどうやって上げていくかもそうですし、ブランドコンセプトに基づいた商品作りをどうしていくかが、目指す“ブランド”にするためにすごく重要なことかなと考えています。
■ニッチマスなところでヒーロー商品の重要性
【木下】では今はまだ“ブランド”というよりは、「商品」という感じの位置付けですか?
【尾】個人的には少しずつブランド化してきたなという感覚はあるんですけど、それこそ名前を聞いただけで様々な商品が想起されるような他のブランドと比べると、まだまだ1商品に頼りがちなので、商品開発の体制も含めて組織を変えていっている段階ですね。
【木下】とはいえ、ブランドでも結局のところ看板商品がほしくなってくるんですよね。なので無理矢理ブランド展開していくよりは、ヒット商品として伸ばせるだけ伸ばした方が良い気もします。
【尾】私のイメージもそれに近くて、ニッチマスなところでヒーロー商品がいくつかあって、その結果トータルでブランドになってきたよね、とできれば良いなと思っています。
例えばスキンケアでいうと化粧水のような王道の市場でヒーロー商品を作ることはハードルが高いので、それこそまつ毛美容液のようなニッチなところから入っていって、ヒーロー商品ができて、その結果ブランドとして底上げされていくようにしたいですね。
■「目に関する悩みが多い」というインサイト
【木下】具体的にどんな人がブランドのターゲットですか?
【尾】ブランドコンセプトが「be me」、つまり「自分らしく」とか「自分」にフォーカスしたブランドになっていて、まずは「自分の素の状態を自分が好きになる」、その自分にさらに上乗せしていけるものを商品として出していくということを決めています。
「ベースの部分を整える」ということでいうと、まつ毛美容液の『アイラッシュセラム』やスキンケアから始まり、ベースメイク、メイクアップという流れで展開してきたので、ターゲットとなるペルソナ(ユーザー像)は全ての女性。
ただその中でも悩みは人それぞれなので、様々な悩みを解決できるようなラインナップ構成を意識しています。
【木下】なるほど。最初にまつ毛美容液を作ったのにはどんな理由があるんですか?
【尾】運営するメディアで顧客にアンケートを取り続けているんですが、『アイラッシュセラム』はそこで得たインサイトから生み出された商品なんです。
アンケートを取るまで、私自身女性にとってメイクや美容に関する悩みで最も多いものってニキビをはじめとした肌に関するものだと思っていたんですよ。でも私が思っていた以上に、目に関する悩みが多かったんです。

【木下】目ですか。
【尾】そのアンケート結果は2018年当時のものですが、「すっぴんの状態で目を大きく見せたい」とか「目力をつけたい。存在感のある目になりたい」といった悩みが多くて。そういった悩みの解決策としてどのようなプロダクトがあるか調べてみると、アイプチとかマスカラとか色々あったんですけど、私たちはベンチャーなので、参入直後から数%のシェアが取れるニッチな市場を狙いたいと考えました。
それでまつ毛美容液を調べてみると、当時50億円だったんですよ。
【木下】マーケットが?
【尾】はい。まつ毛美容液の商品自体をSNSでもあまり見ないし、アフィリエイトの案件でも見たことがないし、実店舗に行ってまつ毛美容液のコーナーを見てもあんまりない。だから参入しやすいだろうと思ったんです。
■「50億円の市場で数%のシェアを獲る」という戦略
【木下】競合がない=市場がないかもしれないわけじゃないですか。そこはどう判断したんですか?
【尾】当時まつ毛美容液市場は50億円だったんですが、50億円の数%でもシェアを獲れれば数億円にはなるので、まずはそこでヒーロー商品を作って、まつ毛美容液のブランドとしての認知を獲得してから、その認知度を元に色々な商品を出していこうと考えました。
【木下】なんか本書で登場している今までの男性のゲストに比べて一番ロジカルですね。
【尾】そんなことないです(笑)。
【木下】もっとみんな気合い先行でやってましたよ(笑)。
【尾】でも結構気合いです。その時、銀行から3000万円の融資が下りたんですよ。それを含めて持っていたキャッシュを全部まつ毛美容液に投資したので、それが滑ったらもう終わりみたいな状態で。だけどこれならいける! って最後は勘で突っ込んでいった感じです。
【木下】その時にあった競合の商品の中にはそんなに強いものはなかったんですか?
【尾】二極化していて、1つは1万円くらいする海外の高単価商品で、かつ成分も強いため人によっては色素沈着する可能性のあるもの、もう1つが2000〜3000円くらいのマス向けの商品で、ただ成分とかを見ると「ん?」みたいな(笑)。
【木下】本当に効果あるのかみたいな。
【尾】そうです。4000〜5000円くらいで色素沈着もしない成分で、かつちゃんとお客様が効果を実感していただけるような商品があんまりなかったのと、当時SNSでインスタ映えが流行っていたんですが、そこで取り上げられるまつ毛美容液がなかったんですよ。
【木下】なるほど。
【尾】なので、全部ミックスすればいけると思ってミックスしました。
■完全に新規の潜在顧客からアプローチ
【木下】その高単価のマーケットと低単価のマーケットがあって、中間のマーケットを開拓していくにあたって、低単価のマーケットから顧客を引っ張ってくるのか、それとも高単価のマーケットから連れてくるのかでいうとどっちですか?
【尾】それでいうと、完全に新規を取りに行くイメージでした。
その50億円の数%のシェアを取るって言いましたけど、市場自体も成長していくと考えていたので、まつ毛美容液を使ったことがない人、もしくは両極端だから買うのをやめていた完全に新規の人を主に狙いたいと思って、まずはSNSにいる人たちを中心に広げていきました。
【木下】SNSでそういう人たちを啓蒙していったという感じ?
【尾】そうですね。自分たちの持っているDINÉTTEというメディアと、DINÉTTEガールズというユニットがあったので、その辺を全部駆使していかにお金をかけずにリーチできるかという感じで初期は頑張って拡散しました。
【木下】いきなり結構売れたんですか?
【尾】それがいきなり予想を超えるくらい売れたんですよ。ありがたいことに選んだプロダクトもタイミングも運もすごくよくて、初年度から伸びてこられましたね。
ただ、先ほども言ったように目指すブランド像からはまだまだですし、次のヒーロー商品を作ることもそうですし、そこに向けて組織作りも含めて頑張っているのが今、という感じですね。
■定価5000円から「20円セール」でも売れない理由
【木下】実際に商品を作る時にはどんな苦労がありますか?
【尾】「納得のいく良い商品」を作るために私の要望を限りなく詰め込むと、原価がめちゃくちゃ高くなってしまったり、でもブランドとしては妥協できないといった部分のせめぎ合いや、中身に関しても今ある成分だと思うようなものを作れないとか……本当に納得のいく良い商品を作るという点は、ずっと苦労しています。
【木下】容器って結構苦労しません?
【尾】しますします。容器は海外のものが多いんですが、納期がズレてローンチに間に合わないとか、日本のものだけだとバリエーションがなくて新規性が出せないとか難しいですね。
【木下】とはいえ、メディアやSNSをやっているとすでに固定の顧客がいるので、売れ行き自体は大体読めるんじゃないですか?
【尾】大体は読めるんですけど、めちゃくちゃ外したこともあって。今はもうないんですけど、まつ毛美容液の次にフェイスマスクを作ったんです。
アンケートでニキビとか毛穴とかクマとかくすみとか、スキンケアの悩みが多いことはわかっていたので、それら全部を解決できるフェイスマスクを作ったらいけるだろうと。市場とかろくに調べずに4枚入り5000円という謎に強気の価格で出したら見事に売れなくて。20円セールとかもやったんですが、全然売れなかった(笑)。

【木下】20円セール⁉
【尾】死ぬほど安くしたらいけるのかと思って(笑)。でも逆に安心感がなかったのかダメでした。
【木下】20円のものを顔に載せるのはちょっと……ってなりますね(笑)。
【尾】すごく当たり前のことなんですけど、お客様の声を鵜呑みにして、そのまま商品開発するのは良くないなと反省しました。
そこからアンケートをベースにした顧客インタビューを強化するようになりましたし、市場の分析ができる組織体制もここ1年くらいで整ってきました。
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木下 勝寿(きのした・かつひさ)
北の達人コーポレーション社長
1968年、神戸生まれ。株式会社エフエム・ノースウェーブ取締役会長。リクルート勤務後、2000年に北海道特産品販売サイト「北海道・しーおー・じぇいぴー」を立ち上げる。2002年、北海道・シー・オー・ジェイピーを設立(2009年に北の達人コーポレーションに商号変更)。史上初の4年連続上場。株価上昇率日本一(2017年、1164%)、社長在任期間中の株価上昇率ランキング日本一(2020年、113.7倍、在任期間8.4年)。著書に『売上最小化、利益最大化の法則 利益率29%経営の秘密』(ダイヤモンド社)など。
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尾 美紀(おざき・みき)
DINÉTTE代表取締役CEO
大学在学時に芸能活動を行い、美容に触れる機会が増え、自身も興味を持ち始める。就職活動で大手企業から内定をもらうが、自分のやりたいことのために起業を選択し2017年3月に大学卒業とともにDINÉTTE株式会社を設立。美容メディア「DINÉTTE」とコスメブランド「PHOEBE BEAUTY UP(フィービービューティーアップ)」など複数ブランドを運営。2020年4月には「Forbes 30 under 30 Asia(Retail&Ecommerce部門)」に選出される。2代目バチェロレッテ。
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(北の達人コーポレーション社長 木下 勝寿、DINÉTTE代表取締役CEO 尾 美紀)
