悩みに対する正しい対処法は何か。精神科医の樺沢紫苑さんは「鼻が低いというコンプレックスを持っている人が本当に困っているのは、『自分に自信が持てないこと』であることが多い。そもそもの『悩みの設定』が間違っていると、根本解決には全くつながらない」という――。

※本稿は、樺沢紫苑『言語化の魔力 言葉にすれば「悩み」は消える』(幻冬舎)の一部を再編集したものです。

写真=iStock.com/Yue_
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Yue_

■「地震は怖い」はコントロール可能な悩み

「将来、大地震が起きるかもしれない。すごく心配だ」

地震などの災害を心配する人は、少なくありません。

南海トラフを震源地とする巨大地震が、30年以内に起こる確率は70%だそうです。それによって、高さ10メートル以上の津波が発生し、被害規模は東日本大震災の10倍以上。

テレビの大地震の特番を見てその危険性を知れば、「大地震が起きたらどうしよう」という不安にかられてもおかしくありません。

では、「大地震が起きたらどうしよう」という悩み。コントロール率は何%でしょうか?

個人の努力によって、「大地震が起きないようにする」ことは不可能です。ですから、「大地震をコントロールできる可能性は0%」と思うでしょう。

ならば、コントロールできないことで悩んでもしょうがない。コントロールできない悩みは、あきらめるしかないのですが、「地震で死ぬかもしれない恐怖」はいつまでもなくなりません。

私の考えでは、「地震の悩み」についてのコントロール率は100%です。

「地震を防ぐ」ではなく、「地震の被害にあわないこと」に悩みを再設定すれば、大地震の不安は100%防ぐことが可能です。

対処法の1つとして、地震のない国に移住すればいいのです。地震のない国に住めば、被害にあう確率は0%に限りなく近づきます。

しかし、「海外移住するのは無理です」という人もいますね。海外が無理なら、地震の少ない県、たとえば富山県、佐賀県、山口県に移住するのはいかがでしょう。

私がここで言いたいのは、実際に今すぐ「移住する」かではなく、「地震が心配」というまったく「コントロール不能」に思えた悩みが、実は「コントロール可能」であった、という点です。

でも、ほとんどの人は、「地震が怖い」からといって移住はしませんね。もし、「地震が怖い」が、あなたの人生の最大の悩みとするならば、さっさと移住して「不安のない生活」を送ればいいのです。

しかし、「地震が怖い」だけで移住する人はまずいないでしょう。

つまり「地震が怖い」は、さほど深刻な悩みではない、ということです。

■「悩みの再設定」で「なんとかできる」悩みへ

改めて「大地震が起きたらどうしよう」という悩みを、再設定してみます。

「大地震が起きるのが心配」といいますが、仮に自分や自分の家族の命に別状がなく、家や家財に被害がないとするならば、それほど心配することではありません。

つまり、この悩みを詳細に分解してみると、「地震によって、自分や家族の命が失われたり、怪我したりしないか心配。家屋が倒壊したり、家財が失われたり、経済的な被害が心配」。

地震の際、直接の死亡原因第1位は、「圧死」です。

ならば、

▼家屋の耐震性を強化する
▼「耐震基準」に合格した住居に住む
▼金具や突っ張り棒を使って大きな家具を固定する

これらの対処法で、「圧死」はほぼ防ぐことができます。

津波の被害も心配ですが、海の近くに住んでいるならば、避難場所を確認しておく。大地震が起きたらすぐに避難する。

経済的被害については、保険を確認しましょう。そもそも地震保険に入っているか、把握していない人も多いのでは? 保険に満額で入っておけば、家財の被害への心配は、多少は減じられるでしょう。

他にも、災害避難用グッズを買っておく。1週間分の飲料水、食料を備蓄する。携帯用トイレを準備する。

風呂の水はすぐに捨てずに溜めておき、停電してもスマホが使えるようにソーラー電池を買っておく。会社から自宅への避難経路の確認。電話以外での家族との緊急連絡法を決めておく……。

やるべきことはたくさんあります。それらを全て実行していれば、「大地震が心配!」という悩みは、ほぼ解消することができます。

準備できること、行動できることは、全てやりきる! この「やりきった感」が、自信となり、恐怖や不安を払拭するのです。

「どうにもならない」「どうしようもない」と思えるコントロール不能の悩みを、「悩みの設定」を変えるだけで、「コントロール可能」な「なんとかできる」悩みへと変換できます。

これが「悩みの再設定」です。

■「身長が低い」悩みの根本原因を見つけられるか

「身長が低い。そのせいで彼女ができない」

身長155センチ、30歳の独身男性Fさんがいます。彼の最大の悩みは、「身長が低い」ことです。Fさんは常々、こう嘆いています。

「身長が低いせいで、30年間、一度も女性と付き合ったことがない」

さて、「身長が低い」という悩みのコントロール率は、何%でしょう? 30歳になって、これ以上身長が伸びる可能性はなさそうです。

写真=iStock.com/RichVintage
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/RichVintage

海外では、足の骨を切って、その間に金属を入れて少しずつ身長を伸ばす「骨延長手術」というのがあると聞きましたが、極めて高額で現実的ではありません。整体で身長が伸びるという話も聞きますが、せいぜい数センチでしょう。

30歳で身長を伸ばせる確率は極めて少ない。ほぼ「0%」でしょうか。

しかし、私が見る限り、Fさんの「身長が低い」という悩みは、コントロール率100%です。十分に、なんとかなると思います。

Fさんが、本当に困っていることは何でしょう?

Fさんは「身長が低い」と悩んでいますが、それはFさんの最大の悩みなのでしょうか? Fさんの本当の悩みは、「モテないこと」「30年間、彼女がいないこと」だと直観します。

自分がモテない理由を、「身長が低い」ことにしている。

心理学的には、これを「自己正当化」といいます。

Fさんは、素敵な彼女ができても、「身長が低い」と悩み続けるでしょうか? その素敵な女性と結婚して、可愛い子供が2人生まれたとしても、Fさんの人生最大の悩みは、身長が低いことでしょうか?

Fさんは、身長が低いというコンプレックス(劣等感)を持っている。人生がうまくいかない場合、その理由を「コンプレックス」のせいにしたがるのが、人間の無意識の心理なのです。

モテる、モテないというのは、身長だけで決まるわけではありません。対処法はあります。

▼気遣いのできる、優しい人間になる
▼髪型やファッションに気を配り、外見をかっこよくする
▼スポーツで結果を出す
▼仕事を頑張って、仕事で結果を出す
▼お金持ちになる

「モテる」要素というのは、「身長」以外にもたくさんあるわけです。実際、身長が低くてもモテている人は、たくさんいますよね。

人間は100個のパラメーター(変数)からなっている。そのうちの1つが極端に低いからといって、悲観する必要はないのです。

「身長が低い」という悩みの設定を変えると、実は「モテない」ことが悩みだと気付きます。

身長が伸びなくても、素敵な彼女ができれば悩みは解消します。そして、「モテる」ようになるためには、あなたの長所を伸ばすことです。容姿で勝負できなければ、容姿以外の部分、内面性などを磨けばいい。仕事や勉強で結果を出すのもいいでしよう。

「コントロール不能」な悩みは、「悩みの設定」を変えるだけで、一瞬で「コントロール可能」な悩みに変換できるのです。

■悩みを再設定する3つの質問

あなたの「悩み」はズレている。だから、悩みを再設定しよう!

そう言われても、どのように「正しい悩み」「真の悩み」を設定すべきか、わからない人がほとんどでしょう。そこで、「悩みを再設定する3つの質問」を教えます。

1 本当に困っていることは何ですか?

「大地震が起きるかも。たいへんだ! 心配だ!」

仮に大地震が起こっても、死者も被害者も出ないのであれば、それほど心配はありません。つまり、あなたの本当の悩みは「大地震が起きる」ことではないのです。

しかし東京に住んでいるあなたは、漠然と「大地震が心配」なので、佐賀県に移住しました。

地震の心配は、ほとんどなくなりました。しかし、あなたは思います。

「大規模な台風がきたらどうしよう?」

あなたが本当に、困っていることは何ですか?

「地震が起きること」や「台風で被害を受けること」ではなく、「いろいろなことが心配になる性格」ではありませんか? 私が思うに、「テレビの不安を煽る報道に影響されやすい」「ネガティブへの注目が強い」ことが、本当の問題なのです。

そう考えれば、対処法は明確です。

▼不安を煽るテレビのニュースは避ける
▼テレビやネットの視聴時間を減らす
▼ポジティブ日記を書いて、ネガティブ集中の癖を直していく

これらを3カ月も続ければ、「地震が起きるかも」「大災害に巻き込まれるかも」という不安は、かなり軽減しているはずです。

多くの人は「○○したらどうしよう?」「○○が心配だ」と言いながら、何一つ対策を講じていないのが実情です。「災害が怖い」と言いながら、防災グッズや食料の備蓄をしている人はどれだけいるでしょう。結局のところ、「心配症」なだけなのです。

あなたが本当に、困っていることは何ですか?

この問いによって、あなたの「自己洞察」は深まります。

自分と向き合って「本当に困っていること」「本当に改善したいこと」を発見しましょう。

■身体的な劣等感が整形で解消できない理由

2 その悩みが解消すると、あなたは満足しますか?

「鼻が低いのがコンプレックスです」

先述のFさん同様、身体的な特徴に劣等感を持つ人は、とても多いです。Twitter調査によると、83.1%の人が、さまざまな身体的な劣等感を持っていました。みんな何かしらのコンプレックスを持っているもので、珍しいことではありません。

それでも、どうしても鼻が気になるので、美容整形外科手術を受けました。手術は成功し、鼻筋がスーッと通り、美しい鼻を手に入れることができました。

その結果に、「いやあ、本当に手術してよかった。これで幸せに生きられます」と、あなたは満足するでしょうか。

実は、ほとんどの人は、そうなりません。今度は「一重のまぶた」が気になります。「目の手術もしないと……」とキリがないのです。

あなたが本当に困っているのは、「鼻が低い」ことではなく、「自分に自信が持てないこと」ではないでしょうか。容姿をいくらいじっても、自分の自信にはつながりませんから、あなたはいつまでたっても満足できない。

つまり、「悩みの設定」が間違っていたのです。

出典=『言語化の魔力 言葉にすれば「悩み」は消える』

では、どうするか。

「自分に自信が持てない」が、あなたの真の悩みであれば、自分に自信を持てるようになればいい。自分の行動、努力によって、自分が成長した瞬間に「自信」は生まれます。

「鼻が低いせいで、彼氏がいない」ということであれば、「料理教室に通って料理の腕を磨く」というのはどうでしょう。

仮に彼氏ができなくても、「何かが上達した」という体験は、あなたに自信をもたらします。

ウジウジした自分とは違う、別次元の自分に変われるはずです。

■悩むべきは「地震」ではなく「睡眠・運動・朝散歩」

3 その悩みが解消すると、幸せになれますか?

「地震が怖い」

あなたが死ぬまでの間に地震が起きなければ、あなたは「幸せな人生だった」と思うでしょうか。きっと思いませんね。

では、あなたが地震や災害にもあわず、事故や大きなトラブルにもあわず、大きな病気もせずに、健康に90歳まで生きられたとしたらどうでしょう?

おそらく、「幸せな人生だった」と思えるのではないでしょうか。

あなたの悩みは、「地震が怖い」ではなく、「健康や安全が失われることが怖い」だったわけです。であれば、「地震が怖い」といった些細な心配に時間を費やすのではなく、「睡眠・運動・朝散歩」などの健康増進活動に時間をかけるべき、と気付くはずです。

■あなたが幸せになる魔法の質問

前記の「悩みを再設定する3つの質問」。自分に問うことで、「自分の悩み」が自分にとって「最も重要な悩み」「本質的な悩み」ではないことに気付くことができます。

しかしながら、ここまでの方法を実践しても「自分は本当は何をしたいのか」「何を望んでいるのか」について迷う人もいるかもしれません。

そこで、「あなたが本当に望んでいるものは何か?」を明らかにする魔法の質問を教えます。

あなたが本当に望んでいるものが手に入るのですから、「あなたが幸せになる魔法の質問」といってもいいでしょう。

『アラジンと魔法のランプ』の話は、ご存じですか? ディズニーでも『アラジン』というタイトルで、アニメ化、映画化されているので、観たことがある人も多いはずです。

あなたは今、「魔法のランプ」を手に入れました。ランプをこすると、魔神が現れて、「あなたの願いを3つだけ叶えよう」と言います。

どんな願いでも叶えてくれるのですが、「3つ」だけです。あなたは何を願いますか?

「大地震が起きませんように!」と願いますか? 絶対に、願わないでしょう。

もっと他に、叶えたい願い、願望があるはずです。先ほどまで、「大地震が心配だ!」と言っていたのに、不思議ですね。

つまり、「大地震が起きるか心配」という気持ちは、あなたのなかにあるのでしょうが、それはあなたの解決したい「3つの願い」には入らない。つまり、「たいした悩み」ではないのです。もし本当に深刻な悩みであれば、第一にお願いするはず。

低身長で悩んでいる方は、どうでしょう。「身長が180センチになりますように」と願うでしょうか。

魔法のランプを手に入れたFさんは、魔神に言いました。

「僕の身長を180センチにしてください」

Fさんの願いは叶い、高身長を手に入れました。しかしながら、Fさんの性格や人間性はまったく変わらないまま。自分勝手なFさんは、女性から好かれることもなく、一生、彼女もできずに、独身で過ごしましたとさ。めでたし。めでたし?(「カバップ寓話」より)

■「時間」と「精神エネルギー」を投入して取り組むべき真の悩み

◎魔法のランプの質問A

「3つの願いを何でも叶えてくれるとしたら、その『悩み』を解消しますか?」

高身長になったからといって、モテない人が急に「モテる」ようにはなりません。それだったら、「身長」にこだわらずに、性格や人間性に磨きをかけるべき。

「魔法のランプの質問」を自分に投げかけると、その「悩み」があなたにとって、「本質的な悩みなのか?」「最優先の悩みなのか?」が、一瞬でわかるのです。

◎魔法のランプの質問B

「どんな願いでも3つ叶います。あなたの願いを3つ書いてみましょう」

次に、あなたの「願い」「願望」「夢」を3つ書いてみましょう。

書けば必ず実現する、という設定です。

「貧乏ゆすりが直りますように」「対人恐怖症が治りますように」「認知症になりませんように」と書く人は、ほとんどいないはずです。

「対人恐怖症が治りますように」と思っている人は、「みんなと楽しくコミュニケーションできますように」と願った方がいいでしょう。対人恐怖症が治ったからといって、友達や恋人ができるとは限らないからです。

「貧乏ゆすりをやめたい」「抜毛癖を治したい」というような、「自分の悪い癖を治したい」という悩みは多いです。しかし、あなたの人生の「3つの願望」には、入らないのではないでしょうか。

あなたの真の望みは「貧乏ゆすりをやめたい」ことではなく、「他の人から奇異な目で見られたくない」「変な人と思われたくない」。つまり、「たくさんの人と円滑な人間関係を築きたい」が真の願望なのでは?

樺沢紫苑『言語化の魔力 言葉にすれば「悩み」は消える』(幻冬舎)

もしそうなら、最初から「人間関係がうまくいきますように」と願えばいい。そして、「人間関係がうまくいく対処法」を調べて、1つずつ実行するのです。貧乏ゆすりの癖は、「円滑な人間関係の構築」を妨害するものではないと、気付くはずです。

自分が抱える「悩み」は、今この瞬間において「極めて深刻」「極めて重要」に思ってしまうものです。しかし、長い人生において、最優先、最重要の問題ではない場合がほとんど。

「魔法のランプの質問」を自分に投げかけることによって、自分の悩みの設定が「間違っていた」あるいは「ズレていた」ことに、一瞬で気付くことができます。やがて、何を目的、目標とすべきかも見えてくるはずです。

悩みを再設定することで、コンプレックス(劣等感)という呪縛から解放されます。

あなたが、「時間」と「精神エネルギー」を投入して取り組むことは、「その悩み」ではありません。

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樺沢 紫苑(かばさわ・しおん)
精神科医
作家。米・イリノイ大学への留学を経て樺沢心理学研究所を設立。YouTubeやメルマガで精神医学の情報を発信。著書に『学びを結果に変えるアウトプット大全』『精神科医が教える ストレスフリー超大全』ほか。
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(精神科医 樺沢 紫苑)