豪州戦でW杯デビューを飾ったカンテ(左)。3年前の夏、彼は自身のこの姿を想像していただろうか。圧巻のパフォーマンスを披露した。(C)Getty Images

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 決して華々しいものではなかった。だが、そのパフォーマンスは期待以上のものだった。フランス代表不動のアンカー、エヌゴロ・カンテ。ついにその成功譚は「ワールドカップ編」に突入し、鮮やかにその第1章で勝利を飾ったのである。
 
 攻守両面で数多の好タレントを揃えるレ・ブルー(フランス代表の愛称)。土曜日のオーストラリア戦、カンテは4-3-3システムのど真ん中に位置し、無尽蔵のスタミナと非凡なプレービジョンを駆使しながら、強烈な個性派集団をひとつの生き物のように機能させた。かつて2000年代に活躍したクロード・マケレレに例えられる汗かき役だが、当のレジェンドは「エヌゴロと僕とで運動量に大きな変わりはないだろう。でもカバーする範囲や攻撃面の貢献度など他の側面では、明らかに彼が上を行く。本当に凄い選手だよ」と脱帽する。
 
 絵に描いたようなシンデレラストーリーだ。フランスの年代別代表とはまるで縁がなく、こつこつと実績を積み上げた叩き上げ。カーンでの奮迅の働きが評価され、目利きのプレミアリーグ・クラブ、レスター・シティに請われたのは2015年夏のことだ。移籍金は700万ポンド(約10億5000万円)とまずまずながら、欧州全体で見れば無名に近い存在で、レスターでも開幕前はセントラルMFの4番手の位置づけだった。だがそこから、サクセスストーリーが始まるのだ。

 
 レスターのクラウディオ・ラニエリ監督に抜擢登用されると、瞬く間に中盤で定位置を確保し、チームの快進撃を支える大きな柱となる。史上初のプレミア制覇を成し遂げた陰の立役者で、2016年3月にはフランス代表からも初めてお呼びがかかった。ディディエ・デシャン監督もその総合力の高さに惚れ込み、そのままEURO2016を戦う登録メンバーに名を連ねた。大会後にはチェルシーにステップアップ移籍し、違約金はなんと3200万ポンド(約48億円)! たった1年で評価額はおよそ4.5倍に跳ね上がったのだ。
 
 チェルシーでも1年目でプレミア優勝に寄与。アントニオ・コンテ監督は「ここまであらゆる要素を持ち合わせたミッドフィルダーを私は知らない。申し分ないんだ」と称える。ラニエリ、デシャン、コンテと酸いも甘いも嚙み分ける名将たちを唸らせ続けてきたのだ。
 カンテは今年2月、英衛星放送『Sky Sports』の取材にこう答えていた。
 
「この3年間はあっという間に過ぎ去ったよ。プレミアリーグで身を立て、優勝を経験して、目標にしていたフランス代表にも選ばれた。EUROやチャンピオンズ・リーグの舞台も経験した。出来過ぎだよね。そしてこの夏にはワールドカップがある。自信に満ち溢れたチームの一員として戦えることを誇りに思うよ」
 
 6月16日、オーストラリアとのワールドカップ・デビュー戦。カンテは普段通りに安定感ある動きでピンチの芽を摘み、抜群の機動性能を見せながら、中盤にダイナミズムをもたらした。フランスの2-1リードで迎えた終了間際には、こんなプレーがあった。左サイドでボールをキープしたカンテは、いきなりスピードアップしてボールを前に持ち出し、マーカーを振り切る。そこから裏へ抜け出すオリビエ・ジルーに決定的なラストパスを通し、絶好機を生み出した。誰もがスタミナ切れとなり、足が止まる最終盤にそれだけのビッグプレーを見せられるのが、この27歳MFの真骨頂なのだ。

 
 英国営放送『BBC』で解説者を務める元イングランド代表FW、ガリー・リネカーはカンテの信望者。オーストラリア戦後に自身のツイッターで「今日も素晴らしいカンテが観られて嬉しいよ」と綴り、FIFA(国際サッカー連盟)の公式サイトも「世界的な名声を得てきたカンテが、期待を裏切らない“デビュー”を飾った」と称えた。
 
 自国開催だった1998年以来、20年ぶりの世界制覇を狙うフランス代表。先達マケレレがジネディーヌ・ジダン、ティエリ・アンリ、ユーリ・ジョルカエフら豪華攻撃陣を下支えしたように、今度はカンテが、ポール・ポグバ、アントワーヌ・グリエーズマン、キリアン・エムバペらキラ星を輝かせる番だ。
 
 レ・ブルーが戴冠を果たすとき、カンテはきっと、陰のMVPに指名されるのだろう。