壱番屋 秘書 中村由美さん

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ビジネスの場面では、作家のような文章力はいらない。要点をまとめる論理力。数字を駆使した説得力。読み手の興味をかきたてるコピーライター的センス……。達人によるビフォーアフターで、「通る文書」のつくり方を身につけよう。

壱番屋の会長と社長の秘書を長年務めて参りましたが、懇親会などでご挨拶した方々にお礼状を出す際、まず心がけるのはメールとの使い分けです。最初に、先方の秘書の方、あるいは同席された次席の方に「ありがとうございました。後ほど会場でのスナップ写真をお送りします」とその日のうちにメールを送ります。あまり矢継ぎ早にならないよう、2、3日空けて上席の方にプリントアウトした写真を添えたお礼状をお送りします。

字に自信があれば手書きがベストでしょうが、パソコンで作成する場合は、手書き風のフォントを使うだけでも、手をかけた感がにじみ出て感謝の気持ちが伝わりやすいでしょう。

文中には、その場で本人が興味深かったことや感動したことを書きます。次につなげるためには、先方に「あなたに興味がある」と伝えることが大切だからです。

「中国展開のお話が興味深かった」など、ビジネスに発展しそうな要素があればぜひ盛り込んでおきたいですね。素直な表現で「今後も機会がありましたら、ぜひ勉強させていただきたいと思います」などと書き添えておけば、相手側に今後の「攻め場所」をピンポイントで伝えることができます。

お礼状の中で「もう一度○月○日にお会いしたい」などとお願いするのは厚かましく映ります。さらりと感謝の意を記しておいて、次の機会に、「中国に行って御社の支店に思わず立ち寄りました」などと伝えれば、相手は興味さえあれば必ず動いてくれるはずです。

数年前、社長がある食品会社を訪問した際、併設の具材工場を見学させていただく機会がありました。私は同行しませんでしたが、社長に感想を聞き、訪問時のコーディネート役に、ツアーのよかった点や、「メニューのイメージが湧きました」と記したお礼状を送りました。

すると、同じような工場をお持ちのお得意先や、それまで取引のなかった企業にまで波及し、今は工場のラインの見学が定例化して、弊社へのメニュー提案を得る機会が増えることになりました。

その場にいなくても、社長や同行者から感想などを聞き、文中に盛り込むようにしています。お礼状を通じて感謝の気持ちが伝わり、ビジネスが自然に広がっていく。後から新商品ができていくのを見て、改めてそう確信します。

■壱番屋 秘書 中村由美氏が添削!

【×BEFORE】

(1)お礼状のフォントには、明朝体・ゴシック体は使わない。毛筆や楷書・行書にしたほうが、より気持ちが伝わる。

(2)一つの単語や名前の途中で改行すべきではない。文節が最低限。フォントの大きさなどで行末を調節する。

(3)通り一遍ではない、リアルで臨場感のあるエピソードが欲しい。思い当たらなくても、貰った手土産を「使わせていただきます」と記すだけで印象が違う。

(4)やや厚かましい印象。「何かにつけ」と平仮名を増やしたり、「〜の機会も増えるかと存じますが」と柔らかく。

(5)同じ言い回しを使いすぎ。どうしても使いたい場合は、真横に並ばぬよう位置をずらすなどの工夫をしておく。

【○AFTER】

(1)紙の質やサイズも工夫ができる――普通はA4だが、B5サイズを利用したり、会社のカラーがあれば、その色合いに合わせて淡い色使いの和風の紙の使用もアリ。目上の方や行政関係には白い礼紙を。迷ったときは白い紙が無難。

(2)手書きに近いフォントで丁寧に――「お礼」の文書では、より手書きに近い毛筆・楷書、時には行書のフォントを使用し、心を込めた丁寧な印象に。

(3)改行によってリズム感を出す――文面をリズミカルに読みやすくするため、改行をうまく使うとよい。また、フレーズを考えながら、改行個所をフォントの大きさで調整する。

(4)“次”につなぐために誘い水を打つ――特に興味を持ち感動した点を素直に、具体的に書く。これが“次”のビジネスの誘い水となる。書くトーンは、「○○を勉強したいと思う」程度で十分。直球的な依頼は厚かましい印象を与えるので、お礼状では避ける。

(5)手書きの署名は太めの筆記具で――署名は万年筆か、もしくは1〜1.2mmの太めのボールペンを使うと、力強い印象を与えられる。

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壱番屋 秘書 中村由美
愛知県生まれ。コンサルタント事務所を経て1989年、壱番屋入社。秘書として創業者の宗次徳二(現特別顧問)、妻の直美前会長(現相談役)、浜島俊哉社長の三代につく。96年、日本秘書協会「ベストセクレタリー」に選出。

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(壱番屋 秘書 中村由美 構成=西川修一 撮影=山口典利)