夫にイライラ、職場でもカッ…。ストレスで活性化する<前頭回>とは?脳科学者が教える「怒り」の鎮め方
「人前で思わず怒りが爆発してしまった」「大事な場面で『失敗したらどうしよう』とパニックに陥ってしまった」といった経験はありませんか。公立諏訪東京理科大学特任教授である篠原菊紀先生は「脳は感情に乗っ取られやすく、ダマされやすい側面がある」といいます。<脳のクセ>を見抜き、うまくコントロールするには、どのように考えたらよいのでしょうか。そこで今回は篠原先生の著書『脳を乗っ取る感情(アイツ)からあなたを守る方法』より一部を抜粋し、「感情」から身を守る方法をお届けします。
【書影】コントロールできれば、脳が自己肯定的に働き出します。篠原菊紀『脳を乗っ取る感情(アイツ)からあなたを守る方法』
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負の感情を増幅させないコツ
怒りでカッとしたときの対処法として「イラッときたらそんな自分の体の様子を観察してみる」という意外な方法があります。
このほかにも、そのアレンジ例があります。よくあるケースとして、「妻が夫に対してあれこれむかついている」という場合があります。脱いだ靴下を脱衣カゴに入れない、という類いの怒りにも「観察」を使うことができます。
たとえば悩み相談などを受けて、相手から「こんなことに腹が立つ」という話を聞いたとします。そんな場合、私は「よくわかります。とはいってもどこが本当に問題なのかが今ひとつわからないので、申し訳ないけれど来週1週間、夫のどんな行動でどんなふうに腹が立ったか、観察して書き出してください。できれば腹が立った順にそれらを順位付けしてきてもらえませんか」とお願いします。すると、観察して書き出す、順位付けする、という「外在化」によって、いつもはむかついたらすぐ怒鳴っていたのが、全然違う反応に変わってくるのです。
ウォッチするのも順位付けするのも、やっているうちに面白くなってきます。
こんなふうに怒りを何らかの方法で「表現する」行動に切り替えるのが「外在化」です。外在化すると、怒りをしばらく横に置いておくことができるのです。この書き出す方法に慣れてきたら、その要素に点数を付けてみてもいいでしょう。今まで一番腹が立った出来事を10として、今回のその怒りは何点ぐらい…と点数を付けると、さらに冷静になってきます。
結局のところ、怒りというものはエスカレートしていくことが問題だと思いませんか? こっちが怒ると相手もそれに対して反応する。相乗効果でどんどん怒りが高まっていき、話が超面倒くさくなるのが最大の問題で、そのエスカレーションを予防するのが「観察」の目的です。怒りをそのまま出し放題にしていると、家族や社会というシステムを壊していく場合が往々にしてあります。そういった「怒りの副作用」を抑えることが大事だと私は思います。
「あの体験」が忘れられないのはなぜ
怒りの副作用として、「相手が言った言葉をいつまでも忘れられず、許せない気持ちが高まる」ということがあると思います。これは脳の仕組みで言うとどのような状況なのでしょうか。見ていきましょう。
カッとしているときには脳の「扁桃体」という部位が活発に働いています。扁桃体は、アーモンド(扁桃)のような形をした、小指の先ほどの大きさの部位で、耳の奥のほうに左右に一つずつあります。
扁桃体は、怒り以外でも、楽しい、うれしいなど「快・不快に関する感情」によって活性化します。そして、記憶の保管庫である海馬のすぐそばにあり、海馬と扁桃体は密接にネットワークを作っています。そのため、嫌なことや怒ったことを強く覚えてしまい、怒りの体験を忘れにくくすることにつながっているのです。
海馬を中心としたネットワークで重要なのが「パペッツ回路」で、海馬や帯状回を通るパペッツ回路は、怒りの体験をするとぐるぐる巡り、その記憶が強く刻まれ、増幅していくのです。
いったん扁桃体が発火してしまうと、怒りはその記憶ごと増幅させていきます。ですから、怒りを「観察」することは、扁桃体の発火を最小限に抑える“初期消火活動”と言い換えることもできます。
「待つ」というのは効果がある
ところで、「アンガーマネジメント」が話題になったとき、「6秒待つ」と言われたりしました。6秒という、秒数そのものの根拠はよくわかりませんが「待つ」というのは効果があると思います。
その間、何をすればいいのかというと、呼吸などリラックスできるものならなんでもいいのです。怒っているという状態は、緊張モードの交感神経が優位な状態なので、リラックスモードである副交感神経の活動を高めるようなことをしてみるといいでしょう。寝転ぶ、ご飯を食べる、お酒を飲むのでもいいです。

(写真提供:Photo AC)
腹が立ったときに自分の体の様子を観察してみたり、相手に対して腹が立った気持ちを言葉やリストにしてみたりを1週間続けて、怒りがちょっと収まってきたような気がしてきたとしたら…。次は「どうしてこの1週間、あるいは2週間、そんなに怒りっぽくならなかったのかな」と考えてみるといいと思います。
すると、観察した以外のことで、「相手に言い返さずに漫画を読んだ」とか「気分転換にコンビニに行った」「さっさと寝た」とか、なんらかのテクニックを使っていたことに気づくはずです。それを次のときにも実践していくといいでしょう。
怒ると顔が真っ赤になる
観察で怒りの増幅を抑えつつ、「怒りを抑える行動として自分ができていたこと」を評価していくと、メタ認知(客観的に物事を捉えること)もうまくできていきます。
ちなみに、これらの対策の効果は年齢とは関係ありません。子どもにも大人にも適用できます。たとえば、子どもが友だちとケンカをして相手を叩いてしまったときに「1回目は叩いたのに、どうして2回目は叩かなかったの?」と意識を「自分ができたこと」に向けることと共通しています。
ただ、メタ認知で自分を眺めることは年齢を重ねた人のほうが基本的に上手なはずです。これまでの経験の蓄積と知恵があるので、それらをうまく動員できるからです。問題になるとすればプライドでしょうか。「おれのほうが年上だ、経験値が高い」と思っていると、自分のプライドやアイデンティティーを傷つけられたような気がしたときに怒りが発火しやすくなるかもしれません。それでも、「観察」をしてみることがさらなる副作用を抑えることになります。
余談ですが、怒ると顔が真っ赤になるのはどうしてなのでしょう。よく、「頭に血が上る」といいますね。怒りで交感神経が活性化すると、末梢の手先、足先の血管を縮めて、闘ったり、逃げたりするために脳や筋肉に血液を集中させます。脳の血流量が増え、顔の筋肉や頬などが赤くなることも起きます。一方、怒ると顔が青ざめる人もいて、これは頬などの血管が収縮しているのでしょうね。
私たちの研究室で、人に悪口を言うなどのストレスをかけて、ストレスをかけられた人の脳の表面の活動を調べたことがあります。すると、我慢に関係する右の額あたりにある「前頭回」が活性化しました。面白いのは、我慢できなくなり怒りだしたときに前頭回の活動が一気に低下したのです。いわゆる「堪忍袋の緒が切れる」というやつですね。頭にきたときは、右のこめかみの前あたりを押さえて「頑張ってくれてるね」と話しかけてみるといいかもしれません。おまじない程度ですが。
※本稿は、『脳を乗っ取る感情(アイツ)からあなたを守る方法』(日経BP)の一部を再編集したものです。
