「他人の妬みが、一番怖いんだよ」…〈資産1億円超〉でも値引きシール付き「半額寿司」に喜び、コンビニでバイト。72歳男性が「あえて普通の年金暮らし」を貫くワケ【CFPが解説】
老後のお金の不安が語られることが増えた現代。その一方で、表には出さず、静かに資産を築いている高齢者も存在します。周囲から見れば「質素な年金生活」にしか見えないのに、実際には「億超え」の金融資産を保有している――。そんな“ステルス・リッチ”と呼ばれる生き方を選ぶ70代男性。彼が資産を隠して暮らすのには、ある理由がありました。FPの小川洋平氏が詳しく解説します。
資産1億円超のリッチ・シニアが「普通の年金生活」を送るワケ
佐藤逸男さん(72歳・仮名)は、地方都市で妻と二人暮らしをしています。会社員を定年退職した後、両親から受け継いだ実家をリフォームし、穏やかな老後生活を送る日々です。
夫婦の愛車は軽自動車。毎日夕方になると、その車でスーパーへ向かいますが、狙うのは惣菜や刺身に値引きシールが貼られる時間帯です。
「今日は半額の寿司があってラッキーだったな」
そんな会話をしながら買い物をするのが日課でした。しかも、逸男さんは週に2〜3回、近所のコンビニでアルバイトもしています。
「年金だけだと不安だし、まだ身体も動くしな」―― 周囲にはそう話していました。どう見ても、ごく普通……むしろ少し生活が厳しいようにも見える暮らしぶりです。
しかし、実は逸男さんは、家(不動産)を除いても1億円を優に超える金融資産を保有していました。
それでも、逸男さんと妻は、高級車に乗ることもなければ、高級腕時計を見せびらかすこともありません。旅行に行くときも、近所には何にも話はしません。
“お金を持っているように見せない”。それが、逸男さんの徹底した生き方でした。
「他人からの妬みが一番怖いんだ」
逸男さんが資産を築くことができた理由は、若い頃から続けてきた投資でした。勤務先の持株会やストックオプション制度を活用し、自社株を長年保有。さらに、リーマンショックのときにもコツコツと日本株へ投資を続けてきました。
その中には、数十倍に成長した銘柄もあり、現在では配当収入だけでも年間400万円近く。年金と合わせれば、生活費にはまったく困らない水準です。
それでも、逸男さんは自分の資産状況を周囲に話さず、生活も質素です。その理由は明確でした。
「そりゃあ、だって……他人からの妬みが一番怖いんだよ。わかるでしょう?」
逸男さんはそう漏らします。それ以上は言いませんでしたが、過去に、お金の話で嫌な思いをしたことがあるのだといいます。
実際、地元へ戻ってから交流している同級生や近所の友人たちの中には、年金が少なく、生活に不安を抱えている人も少なくありません。退職金がほとんど無かった人、住宅ローンが老後まで残った人、子どもの援助で苦しい人……。そんな中で、自分だけが「資産1億円あります」などと話せば、“あちら側の人”として見られてしまいます。
「そうなれば、急に距離を置かれることもあるだろうし。最悪、お金を貸してほしいって話にもなりかねないでしょう」
お金によって周囲からの見方が変わり、面倒に巻き込まれる――それを逸男さんは恐れていました。だからこそ、あえて質素に暮らし、“普通の年金生活”を送っているのです。
経済状況が二極化する中で「見せない豊かさ」を選ぶワケ
かつては「一億総中流」と呼ばれたこともあった日本。しかし現在では、高齢者の間でも資産格差は明確になっています。
金融広報中央委員会の「家計の金融行動に関する世論調査(二人以上世帯調査)(令和5年)」によると、60代で貯蓄300万円未満の割合は15.1%の一方で、3,000万円以上の人は19.0%。70代でも、貯蓄300万円未満の割合は14.8%の一方で、3,000万円以上の人は18.9%。つまり、「高齢者はみんなお金持ち」でも「みんな困窮している」でもなく、経済状況は二極化していることが見て取れます。
現役時代の職業、退職金の有無、年金額、住宅ローン、子どもの教育費……。さらに、若い頃から投資や資産形成をしてきたかどうかでも、老後の経済状況は大きく変わります。
逸男さんのように、長期投資によって大きな資産を築いた人もいれば、予定利率が高かった時代の生命保険商品を長期保有し、大きな返戻金や年金を受け取っている高齢者もいます。その一方で、予定していた老後資金が足りず、不安を抱えて暮らしている人も少なくありません。
「お金がある人は、何の心配もなくて幸せそう、羨ましい」そう思う人もいるでしょう。しかし、周囲との距離感を適切に取らなければ、トラブルに巻き込まれる可能性がある。そうした中で、逸男さんのようにあえて資産を表に出さず、日々の節約をゲームのように楽しんで静かに暮らす――いわゆる「ステルス・リッチ」と呼ばれる生き方が広まっているのです。
お金があるからこそ「あえて節約、あえてアルバイト」を楽しめる
逸男さんの場合、実際には配当収入だけで夫婦の生活費をほぼ賄える状態であり、年金もあるため、資産は今も減るどころか増え続けています。しかし彼にとって、“資産を隠すこと”は、自分と家族の平穏を守るための戦略でもありました。
それともう一つ。逸男さん夫婦にとっては、「いかに賢くお得に生活するか」は、我慢ではなくゲームのような楽しみでもありました。
「確かに資産を隠して、トラブルから身を守りたいのもあります。でもね、実は『お金がない』って思うほうが、工夫しがいがあって面白いんです。でも、節約もアルバイトも、自分からやってるから苦にならないんでしょうね。もし経済的に差し迫った状態だったら、考え方は変わっていたのかもしれません」
「自分たちが望む生活を実現できるか」
資産運用が広まり、「いつの間にか資産が1億円を超えていた」という人も増えている中、「ステルス・リッチ」と呼ばれる生き方は、合理的で賢い選択肢としてますます増えていくのかもしれません。
ただし、この「ステルス・リッチ」にも注意点はあります。周囲の目を気にするあまり、家族(子ども世代)にまで『お金がない』と嘘をつき通して心配をかけたり、節約に執着しすぎて医療や介護など必要なところにまでお金を渋ってしまっては本末転倒です。
隠すのはあくまで「周囲の雑音から身を守るため」。身内への情報共有や、自分たちの健康のための支出は惜しまない、というメリハリが不可欠です。
また重要なのは、他人と比べることではなく、自分たちが望む生活を実現することができるかどうかです。人の数だけ事情があり、人の数だけ価値観があり、「みんな同じ」である必要はありません。
お金は見栄を張るためではなく、自分らしい人生を送るために使うものです。人からどう見られるかではなく、自分たちの生きたい人生のために活用していくことが大事です。
小川 洋平
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