@AUTOCAR

写真拡大 (全6枚)

訪れた歴史的な節目

BMWのプロダクトをベースに、よりハイパフォーマンスで、かつラグジュアリーなモデルをプロデュースしてきた『アルピナ』。

【画像】もうすぐ買えなくなる最後の純血アルピナ!『BMW アルピナD3 Sリムジン』 全26枚

正確には創業者の名前を掲げた『アルピナ・ブルカルト・ボーフェンジーペン』という社名を持つ、この世界でもおそらくは最も小さな自動車メーカー。同社にまさに歴史的な節目が訪れることが世界中のカスタマーやファンに告げられたのは、2022年3月のことだった。


2025年末をもってアルピナ・ブランドの商標権はBMWへと譲渡された。    佐藤亮太

それは2025年末をもってアルピナ・ブランドの商標権はBMWへと譲渡され、同時にアルピナ自身による新型車の開発や生産を終了するという衝撃的なもの。それを聞いた多くの者は、「なぜ」という言葉を発するほかはなかったはずだ。

その後BMWには、『BMWアルピナ』という新たなブランドが設立され、同社はそれをロールス・ロイスとBMWの間を担うブランドとしてポジショニングする。

先日イタリアで開催されたコンコルソ・デレガンツァ・ヴィラ・デステでは、早くもそのBMWアルピナの将来を示唆する流麗な2ドアクーペのコンセプトカー、『ヴィジョンBMWアルピナ』を発表。BMWアルピナが確実に未来に向けての歩を進めていることがアピールされた。

新会社では独自モデルを少量生産

一方のアルピナは『アルピナ・クラッシック』の名のもとで、これまで生産したモデルのメンテナンスやパーツ供給を継続するとともに、新会社として『ボーフェンジーペン』を設立。ここから独自のモデルをやはり少量生産するプランを打ち出している。

ファーストモデルとなるのは、昨年のヴィラ・デステで実車が初披露された『ザガート』。その名のとおりザガートのデザインによるこの99台の限定生産車のベースは、BMW M4だった。ボーフェンジーペンもまたその新型車開発のベースには、今後も変わることがないだろうBMWとの友好的な関係があったのである。


昨年のヴィラ・デステで発表された『ボーフェンジーペン・ザガート』。    ボーフェンジーペン

このような事情を知れば、今回レポートするモデルが、今後いかに貴重な存在として語られるかがクリアなものになるだろう。既にブッフローエにある本社工場でアルピナの生産は行われていない。

だから純血種とでも表現できるアルピナが、これまで伝統的に受け継いできた確固たる哲学を正確に受け継ぎ、そして彼らがもうひとつの誇りとするクラフトマンシップが生み出した新車を購入することはできなくなる(編集部注:日本では在庫限りといった状況)。

2022年にあの発表があって以来、筆者は最後に乗るアルピナの新車は何になるのかを常に考えるようになった。

ブランド譲渡前のラストモデル

また、アルピナの新車をドライブすることができる。そのチャンスが訪れたのはつい先日のことだった。

アルピナが最後に生産を計画してラインオフされたという『BMWアルピナD3 S』と『BMWアルピナB4 GTグランクーペ』がそれで、これらはもちろんブランド譲渡前のラストモデルとなる。まずはD3 Sからそのレポートを始めることにしよう。


まずドライブしたのは、アルピナ・ブルーの『BMWアルピナD3 Sリムジン』。    佐藤亮太

日本には4ドアセダンの『リムジン』と、5ドアワゴンの『ツーリング』が輸入される最後のD3 Sだが、今回ドライブしたのはアルピナ・ブルーのエクステリアカラーに、アイボリーホワイトのメリノ・フルレザーインテリアというコンビネーションのリムジンだ。

20本のスポークでデザインされた前後ホイールは20インチ径。フロントとリアに備わるエアロパーツは、これまでのアルピナがそうであったように控えめなデザインだが、それによってより優秀なエアロダイナミクスを実現するとともに、アルピナらしいエレガントな印象を醸し出している。

リアのアンダースポイラーへと導かれる4本出しのエキゾーストパイプは、このD3 Sが秘めるパフォーマンスをさりげなく主張するアイテムといったところだろうか。

優しい気分になる

ドライバーズシートに身を委ねてみると、アルピナの魅力はさらに明白になる。

人間は最上級のものに身を包まれると優しい気分になるとは良く聞かれる言葉だが、D3 Sのキャビンはまさにその典型的な例だろう。センターコンソールにはモデル別のシリアルナンバーが刻まれたプレートがフィットされ、それもまたオーナーの気分を高揚させる。


アイボリーホワイトのメリノ・フルレザーインテリアを組み合わせた取材車。    佐藤亮太

液晶のディスプレイメーターはアルピナ独自のデザイン。ベースの現行3シリーズとは異なり、クラッシックなギアセレクターを採用していることも大きな特徴だ。

フロントのパワーユニットは、2992ccの直列6気筒DOHCディーゼルツインターボエンジンに、48Vのスタータージェネレーターを組み合わせたもの。BMWはこれを286psの最高出力と650Nmの最大トルクというスペックで『330d xDrive』などに搭載しているが、アルピナはそれを355ps、730Nmにまで強化。

ミッションはアルピナ・スイッチトロニック付きの8速ATで、駆動方式は前後トルク配分を可変制御する4WDとなる。リアに電子制御方式のLSDを標準装備するのも見逃せない。

どのような速度域からも俊敏で力強い加速

D3 Sのパフォーマンスは、これまでツーリングでは体験していたものの、リムジンのそれはさらに魅力的なものだった。

1750〜2750rpmというレンジでフラットに発揮される最大トルクは、どのような速度域からでも常に俊敏で力強い加速を実現し、さらに高速域ではディーゼルエンジンとは思えないほどのスムーズさを感じさせながら、355psというスペックが一瞬信じられないほどの刺激とともに、ドライバーを至福の時間へと導いてくれる。


高速域ではディーゼルエンジンとは思えないほどのスムーズさを感じさせる。    佐藤亮太

スイッチトロニックの制御も実に素晴らしかった。ドライブモードの選択やシチュエーションに応じて常にベストなタイミングでシフトを実行してくれるから、パドルによるマニュアルシフトを必要とする場面は限られてくる。

これもアルピナが伝統とするラグジュアリーな乗り心地は、ラストモデルのD3 Sにまで確かに受け継がれていた。ドライブモードで『スポーツ』や『スポーツ+』を選んでもその印象が大きく変わることはなく、とはいえコーナリング中にはロールをほとんど感じさせないフットワークの力強さを披露してくれるのだから、これはまさに感動以外の何物でもない。

アルピナの哲学と技術を凝縮

試乗車に装着されていたピレリPゼロは、アルピナのための専用開発タイヤで、サイズはフロントに255/30ZR20、リアに265/30ZR20という設定。これだけの偏平タイヤにもかかわらずこのライド感を演出してくることには驚かされる。

0→100km/h加速で4.6秒、最高速では273km/hを誇る、アルピナD3 Sリムジン。まさにアルピナの哲学と技術が凝縮されたともいえるこのラストモデルが持つバリューは、これからも変わることはないだろう。


20本のスポークでデザインされた前後ホイールは20インチ径。    佐藤亮太

アルピナとしてのクルマ作りは終わりを迎えてしまったが、その哲学はBMWアルピナで、そしてもちろんボーフェンジーペンで正確に受け継がれることを切に望みたいところだ。

*もうすぐ買えなくなる『最後の純血アルピナ』(2)に続きます。