激務で限界寸前…それでも働きながら「ハーバード大の単位」を取れたワケ。追い込まれた元・米メガバンク管理職が使った、気合も根性もいらない「集中力を各段に上げる方法」
「重要な仕事が山積みで終わらない」「忙しいのに達成感がない」……。そんな停滞感を打破する鍵は、根性ではなく「脳の使い方」にあります。今回ご紹介するのは、時間を忘れて何かに無我夢中で没頭する「フロー」という状態を活用した方法です。フローとは、ある行動に完全にのめり込み、周囲のことが気にならなくなるほどの深い集中状態を指します。米国の金融業界で20年以上管理職を務め、ハーバード大学のエクステンション・スクールで認知神経科学を学んだエグゼクティブコーチの吉川ゆり氏によれば、この高いパフォーマンス状態は、人間の脳の特性に沿った「仕組み」によって意図的に作り出すことが可能です。同氏の著書『なぜ、あなたは時間に追われているのか』(日経BP)より、フロー状態ののカラクリと、より効果的な活用方法、反対に活用すべきではない場面について解説します。
忙しい人こそ「フロー」状態が成果を伸ばす
この方法※が特に効果的なのは、クリエイティブな仕事や、アイデアを形にしたい人、あるいは、プレゼン資料の作成やデータ分析、プログラミングなど、発想力が求められる重要な業務に取り組む人だと思います。仕事だけではありません。時間がないなかで集中して勉強に取り組みたい人、例えば仕事をしながら大学院に通っている方などにもおすすめです。
※編集注 具体的なフローへの入り方
1.誘惑を断ち切る:なかなか集中できずストレスがかかる段階を乗り越えるため、スマホを別室に置く、カレンダーをブロックして電話や会議を入れないなど、集中できる環境を整えます。
2.煮詰まったら短い休憩を取る:誘惑を断ち切って作業を続けることで、情報伝達がスムーズになり、良いアイデアが浮かび始める準備段階を促すため、一度作業を手放して深呼吸や散歩(1km程度)をすることで、脳をリセットさせます。これにより、無意識のうちに脳が課題を整理し、ひらめきが生まれやすくなります。
3.「ストレッチゾーン」の課題を選ぶ:自分のスキルに比べて「少しだけ難しい」課題にチャレンジするのが最適です。簡単すぎると退屈し、難すぎると不安や恐怖を感じて集中できないためです。
4.趣味をトリガーにする:スポーツや楽器演奏など、自分がフローに入りやすい習慣を意識的に持つことで、脳が「没頭の仕方」を学習し、仕事でもフローに入りやすくなります。
私は2025年の前半に、米ハーバード大学で脳科学の授業を受講しており、試験勉強、レポート執筆、ディベートの準備が重なってものすごく忙しいときがありました。
「もう絶対に終わらない、単位を落としそう……」と追い込まれていたのですが、1ブロック2時間でフローと休憩を繰り返し、勉強に取り組んだところ、なんとか終わらせることができ、無事に単位を取得することができました。
会社勤務の方なら、出勤のない日(土曜日など)を「今日はフローに入る日にする!」と決めて、朝から何もしないでそれだけに取り組むことをおすすめします。
“丸一日フロー状態”が効果的な3つの理由
この方法は、科学者が研究したフローの法則を応用したもので、すべてのメカニズムが解明されているわけではありませんが、注意の集中、意思決定の削減、十分な回復という観点から見ると、この方法が効果を発揮しやすい理由は説明できます。
1.注意を分散させる要因が減る
まず、1日に取り組むテーマを1つに絞り、他の選択肢を排除することで、注意を分散させる要因が大幅に減ります。人の注意は有限であり、何度も判断を求められると、それだけで認知的なエネルギーが消耗します。あらかじめ「今日はこれしかしない」と決めておくことで、注意を一点に向けやすい環境が整います。
2.認知負荷が下がる
次に、意思決定を極力減らすことで、認知負荷が下がります。何をするか、どう進めるかをその場で考え続ける必要がなくなるため、作業そのものに没頭しやすくなります。その結果、習熟したスキルや判断がスムーズに働き、フロー状態に入りやすくなります。
3.「回復」がセットになっていることで、高密度のアウトプットができる
そして、集中と回復を意図的にセットで設計している点も重要です。高い集中状態は、脳にとって負荷の大きい状態ですが、十分な休息を挟むことで、その状態を無理なく繰り返すことができます。この「集中→回復」というリズムがあるからこそ、短時間でも高密度のアウトプットが可能になるのです。
つまり、この方法は気合や根性に頼るものではなく、人間の注意と脳の特性に沿って、自然に高い集中が生まれるよう設計されたやり方だと言えるでしょう。少なくとも、私にはとても大きな効果がありました。
フローは“万能”ではない
ただ、非常に疲れるため、頻繁には実践できません。本当に大切な仕事で「ここぞという集中が欲しいとき」や、停滞している仕事を一気に動かしたいときに、この方法を取り入れています。月に1回程度で十分です。すべての人に効果があるとは限りませんが、一度試してみる価値はあるのではないでしょうか。
また、この方法は、誰にでも、いつでも万能に効くわけではありません。理解しておきたいのは、フローは脳にとって高負荷な状態だということです。そのため、次のような人や状況では、慎重に行ってください。
睡眠不足、勉強途中…フローをしてはいけない人の3つの特徴
1.慢性的な睡眠不足や強い疲労状態にある人
まず、慢性的な睡眠不足や強い疲労状態にある人です。フローに入るには、一定の注意力やエネルギーの余裕が必要です。回復が追いついていない状態で無理に高い集中を引き出そうとすると、パフォーマンスが落ちるだけでなく、心身の不調につながることもあります。
2.タスク内容が十分に理解できていない
また、タスクの内容がまだ十分に理解できていない段階でも、この方法は向いていません。
フロー状態では、習熟したスキルや判断が自動的に使われやすくなります。そのため、やり方そのものを学んでいる最中の作業や、基礎が固まっていない分野では、かえって混乱することがあります。まずは通常のペースで理解と練習を重ねることを優先してください。
3.フローを「逃避手段」に使う
さらに注意したいのは、フローを「逃避手段」として使ってしまうことです。フローは心地よい状態ですが、そればかりを追い求めると、地味だけれど必要な調整作業や対話、振り返りを後回しにしてしまう危険があります。この方法は「重要な仕事を一気に進めるための戦略」であって、日常のすべてを置き換えるものではありません。
大切なのは、「今日はフローに入る日なのか」「今は回復や準備が必要なタイミングなのか」を見極めることです。
フローは、常に追い求めるものではなく、必要なときに呼び出す強力なエースのようなものです。だからこそ、頻度は少なく、意図的に使う。自分の状態を無視して使わないことが、この方法を長く生かすためのコツだと言えるでしょう。
吉川 ゆり
Mental Breakthrough Coaching™スクール 代表
