健康のためにダイエットしようと食事を制限し過ぎると、逆に健康をそこねてしまうことがある。医師の玉谷実智夫さんの書籍『医学的に正しい健康長寿365日』(自由国民社)より、長寿のために積極的に摂取したい脂質について紹介する――。

■「脂質は太りやすい」はウソ

脂質というと、太りやすいというイメージがあります。

敬遠している人も多いのではないでしょうか?

写真=iStock.com/kazoka30
「脂質は太りやすい」はウソ(※写真はイメージです) - 写真=iStock.com/kazoka30

実は脂質は、それほど身体に蓄積されません。

たとえば肉の脂身に多い飽和脂肪酸。身体に吸収されにくいため、過剰に摂っても排出されることが多いのです。

脂肪酸はエネルギー源としても使われますから、消費されてしまう分も多いです。

むしろ糖質のほうが中性脂肪に変わりやすく、身体に蓄積されやすいので要注意です。

脂質はメリットが大きい栄養素です。

細胞膜の材料は脂質ですから、臓器や脳の機能に直接関わってきます。

脳の働きを良くしたり、代謝の効率をアップするなどの好影響も得られます。

脂質はまた、ホルモンのように働く生理活性物質という面も持っています。

プロスタグランジンと呼ばれるもので、脂質の種類次第では、炎症しにくい体質になることもできます。

このように、脂質は健康長寿に欠かせない味方。再評価してみてはいかがでしょうか。

■1日50gほど摂取すべき

長寿のための生活習慣に欠かせない栄養素、脂質。

日々どのくらい摂るのが適切なのでしょうか。

具体的な目安としては、成人では1日50g程度でしょう。

1日に摂るエネルギーの約20%〜25%になります。

ただ考え方としては、摂り過ぎないように注意すれば、さほど神経質にならなくても大丈夫です。

なぜなら、脂質はあまり吸収がよくないからです。

たとえば、太りそうなイメージが強い、脂身の多い肉。仮にたくさん食べたとしましょう。

その場合でも、摂った脂質が全て吸収されるということはなく、過剰な部分の多くが体外に排出されます。

■本当は怖い「脂質不足」

むしろ気をつけたいのは、脂質不足。

脂質は細胞膜の材料ですから、細胞の機能を大きく左右します。

細胞の機能が落ちれば、全身の健康が損なわれてしまいます。

摂り過ぎを過度に恐れることなく、長寿のための生活習慣に脂質を積極的に取り入れていきましょう。

実はあまり太らず、身体に好影響が多い「脂質」という栄養素。

しかしその選び方には、ポイントがあります。

というのも、脂肪酸が細胞の材料そのものになるだけに、その質が細胞の機能を大きく左右するからです。

■「オメガ3系の脂肪酸」を摂取しよう

もっとも摂りたいのは、オメガ3系の脂肪酸です。

EPA、DHAはイワシやアジ・サバなどの青魚などに多く含まれています。

写真=iStock.com/JianGang Wang
「オメガ3系の脂肪酸」を摂取しよう(※写真はイメージです) - 写真=iStock.com/JianGang Wang

またα-リノレン酸は、アマニ油やえごま油などに多いです。

いずれも細胞膜の材料や、生理活性物質の材料となりますので、炎症や動脈硬化を抑えてくれる働きがあります。

ちなみにα-リノレン酸は代謝してEPAになりますので、後者を摂るほうがより効率がよいと言えるでしょう。

なおオメガ6系の脂肪酸は、体内ではつくられないため必須脂肪酸と呼ばれています。

確かに大切なのですが、日常摂る機会が多いですし、多すぎると炎症を起こしやすくなりますので、むしろ摂り過ぎに注意したほうがよいでしょう。

植物性ではマーガリンやコーン油、ベニバナ油などに多く含まれますので、気をつけてみてください。

■理想のバランスは「0.6以上」

脂質は「比率」がとても重要な栄養素です。

望ましいバランスで脂質を摂れば、炎症に強くなります。

バランスが崩れれば、逆に炎症を起こしやすくなります。

慢性的な炎症は糖尿病をはじめとした生活習慣病に関係してきますし、それが重なると動脈硬化やがんなどの遠因にもなり得ますから、比率に注意したいところ。

ではどのようなバランスがよいのか? ということですが、「EPA/アラキドン酸」の比率が0.6以上が理想だと言われています。

アラキドン酸は、肉や魚、卵など動物性の脂肪にも含まれていますし、植物性だとコーン油、ベニバナ油などにも含まれています。

オメガ6系の脂肪酸であるリノール酸が代謝することによっても出来ますから、必須脂肪酸だからといって摂り過ぎは禁物です。

EPAは、オメガ3系の脂質です。イワシやアジ・サバなどの青魚などに多く含まれています。

また、アマニ油やえごま油に含まれるα-リノレン酸が代謝することによってもつくられます。

普通の食生活を送っていると、EPAの比率はどうしても低くなりがちですし、逆にアラキドン酸は多くなりがちです。

比率を意識して、炎症に強い体質を目指しましょう。

■トランス脂肪酸は避けよう

健康には望ましくないのに、商業上の理由で広く流通しているのがトランス脂肪酸です。

トランス脂肪酸とは、水素を加えることで固くした植物油のこと。液体だと加工がしにくく保存にも不便なので固めていて、日本では多くの食品に使われています。

脂質は細胞膜の材料になりますので、トランス脂肪酸からつくられた細胞は柔軟性が落ちます。

当然機能も落ち、臓器や代謝の機能も落ちることになります。

トランス脂肪酸によって肥満の増加や冠動脈疾患のリスクが上がることは、よく知られています。

また細胞に糖を取り込みにくくなることから、インスリン抵抗性が高まって、糖尿病になるリスクも上がります。

原材料に「マーガリン」「ショートニング」「植物油脂」「食用精製加工油脂」と書いてあったら、それはトランス脂肪酸です。

写真=iStock.com/EVAfotografie
トランス脂肪酸は避けよう(※写真はイメージです) - 写真=iStock.com/EVAfotografie

ちなみにFDA(米国食品医薬品局)は、トランス脂肪酸の使用を全面的に禁止しています。またWHO(世界保健機関)も、世界の食品から一掃する方針を打ち出しています。

自分の身体は自分で守る。それもまた、長寿のための生活習慣です。

■「悪玉コレステロール」は減らさなくていい

悪玉コレステロールとして知られているのが、LDLコレステロール。

健康診断でも食品のCMでも、文字通り「悪玉」扱いされて、食事から減らすように言われていますね。

しかし実はこれ、誤解なのです。

それを裏付けるように近年、厚生労働省は食事でのコレステロールの上限値を撤廃しました。たとえコレステロールを含む食品を食べたとしても、血中のコレステロール値は上がらないことがわかったためです。

これは2015年のことですから、それまでずいぶん長い間、濡れ衣を着せられていたことになります。

コレステロールは約8割が体内でつくられています。そして食事で入ってくるコレステロールが増えたなら、生産を減らすように調節もしています。

つまりもともと食事は2割程度の比率しかない上に、多少多くとっても生産調整によって濃度は変わらないのです。

むしろ逆に、LDLコレステロールは長寿に欠かせないものです。

ホルモン、ビタミンD、胆汁酸などの材料になりますから、身体が新しく細胞を作るためにも欠かせません。

毛嫌いすることなく、適度に摂っていきましょう。

■「腹7分目」だと見た目も若々しい

栄養も薬も、過ぎれば毒となります。

豊富な食に囲まれた今の時代、カロリーを控えることが病気を避けることにもつながります。

では、どのくらいカロリーを控えればよいのでしょうか?

イメージとしては、「腹7分目」くらいがおすすめです。

アメリカのウィスコンシン大学の研究によれば、カロリーを7割に抑えたアカゲザルは、

・死亡率が半減
・がんの発症率も半減
・見た目も若々しく活動的

となっています。

玉谷実智夫『医学的に正しい健康長寿365日』(自由国民社)

長寿で若々しく、病気にもなりにくいのですから、いいことずくめです。

なお具体的なカロリーの目標数字ですが、たとえばデスクワークが多い成人の場合だと、

・30〜49歳の男性の場合、約1890kcal
・30〜49歳の女性の場合、約1435kcal

ということになります。

量だけでなく質も大切ですが、1つの目安としてご参考になればと思います。

----------
玉谷 実智夫(たまたに・みちお)
医師・玉谷クリニック院長
1960年、兵庫県生まれ。京都大学薬学部、大阪大学医学部卒業。大阪大学医学部附属病院、東大阪市立病院(現 東大阪市立総合病院)で研修した後、最先端医療を学ぶためアメリカ国立衛生研究所(NIH)に留学。帰国後、大阪大学で循環器・糖尿病・脳梗塞・老年病の研究に従事し、博士号を取得。最高権威の「ネイチャー メディシン」はじめ、医療ジャーナルに論文が数々掲載される。2008年に玉谷クリニックを開院。「東淀川区のかかりつけ医」として、高血圧・糖尿病・脂質異常症などで苦しむ10万人以上の患者を診断してきた。健康セミナーやテレビ、YouTubeなどでの発信も行うなど、地域の健康増進に努めている。著書に、『“世界一わかりやすい”最新糖尿病対策』(時事通信社、2021年)、『血糖値がどんどん下がる1分早歩き』(自由国民社、2022年)、『糖尿病の名医が「血糖値」よりも大切にしていること』(サンマーク出版、2022年)などがある。
----------

(医師・玉谷クリニック院長 玉谷 実智夫)