【マンション管理会社の闇】漫画家さかもと未明が悲痛の告白…《匿名の手紙が大量に》《修繕費で全戸60万円の請求》他人事ではない「理事会との壮絶バトル」
「マンションを私物化するな」「クレームばかり言うなら一軒家に引っ越されたらいかがですか?」――。
赤字で乱暴に書きなぐられた紙が、ある日突然、自宅のポストに投げ込まれていたら、あなたはどう感じるだろうか。
漫画家・エッセイストのさかもと未明さん(60歳)は、その辛辣な言葉に絶句したという。
「これは決して他人事ではありません。同じようなことは、日本中のマンションで起きているはず。だからこそ、私の体験を知ってほしいと思ったんです」
修繕積立金を払っているのに「膨大な一時金請求」
近年、マンションの「修繕積立金」と「管理費」をめぐるトラブルは社会問題となっている。たとえば2025年3月に公正取引委員会は、マンションの大規模修繕工事を巡る談合疑惑で、大手を含む施工会社約30社に一斉立ち入り検査を実施した。
さかもとさんも、かつて住んでいたマンションで「信じられないトラブルが起きた」と現代ビジネスに証言する。
2024年、さかもとさんの住むマンションに「設備故障」が見つかった。駐車場の共用シャッターが壊れ、開きっぱなしになっていたのだ。そのままにしておくと、住民の車でなくてもマンション内に入れてしまう。防犯上の問題があることはもちろん、壊れている設備を放っておく道理はない。すぐにさかもとさんは「修理してほしい」と管理組合に連絡を取った。
だが、事態は思わぬ方向へ転がっていく。
管理組合から提示された修繕費は、なんと2700万〜3300万円。しかも各戸あたり約60万円もの「一時金の負担」が検討されるというのだ。
ありふれた設備の故障が、ある日突然、数十万円単位の請求に姿を変える――。これを拒めばマンション全体の安全や資産価値に影響が出かねない。実質的に支払いを強いられた格好だ。もちろん総会の承認が必要だが、何の準備もないまま突きつけられる60万円は、到底軽視できる額ではない。
「耳を疑いました。このマンションは築24年で、これまで毎月管理費や修繕積立金などあわせて5万円超を払ってきたのです。それなのに、なぜいきなりこんな大金が必要になるのか。まったく納得できませんでした。しかも、『シャッター修理はマンションの長期修繕計画に含まれておらず、積立金は使えない』という説明だったんです」
さかもとさんが抱いた素朴な、しかし正当な疑問。それが、2年にも及ぶ孤立と苦悩の始まりになるとは、誰も想像していなかった。
「警察呼びますよ」
ことの発端は、シャッターが壊れて以降で初めて開かれた理事会の出来事である。
当時、さかもとさんの夫も理事の一人だった。マンション内での会議を終え、帰宅した夫に様子を尋ねると、「(シャッターの修繕について)次の理事会で話すみたいだよ」と呑気な返事が返ってきた。
「その頃、近所では闇バイト絡みの強盗殺人事件が起きたばかりでした。誰でもマンションに入れる状態は危ない。来月話し合うなんて悠長なことを言っていないで、毎週でも会議を開いて安全を確保すべきじゃないの、と主人に伝えたんです」
夫に促され、さかもとさんは理事会の会場へ向かい、居合わせた組合員に同様の訴えをした。すると、中年の女性理事長が突然泣き出した上に、その場にいた管理会社の担当者がこう言い放った。
「警察呼びますよ」
話し合いに来ただけの住民に対する、あまりにも異様な対応だった。
「私は多少声が大きいところはありますが、決して怒鳴りつけたわけではありません。『どうぞ呼んでください』と答えました。呼ばれて困ることは何もありませんから」
この一件を境に、さかもとさんは「面倒な住民」と見なされ、孤立を深めていく。
理事会の議事録には「会議終了後、A氏が乗り込んできて怒声」と、議題の趣旨とは異なる記載まで残されたという。
匿名のクレーム文が投げ込まれる日々
その後も、さかもとさんはマンションの資産価値と住民の安全を守るため、意見を言い続けた。
「長年積み立ててきたお金があるのに、なぜそれが使えないのか。そして、マンションの重要設備であるシャッターが大規模修繕計画に入っていない。この2点がどうしても理解できませんでした」
過去の議事録の閲覧を求めると、「(マンションの)所有者でなければ意見は言えない」と登記簿の提出を要求されるなど、不可解な対応が続いた。
それでもさかもとさんは正当な手続きを経て議事録を精査した。そこで目にした内容に、思わず言葉を失う。
本来、責任の所在を明らかにするため、署名人の記名・押印が必要とされるはずの議事録。しかし、いつしか名前は黒塗りにされ、ついには署名欄すらない書面が配布されるようになっていたからだ。
「誰が責任者なのか分からない。これでは何か起きても誰も責任を取らない構造になってしまう。明らかにおかしいと思いました」
意見書を提出しても議事録には一切反映されず、面談も拒否された。訴えは完全に無視されたままだった。
「そこで私は、全戸宛てに意見書を投函しました」
すると、さかもとさんのポストには匿名の誹謗中傷メモが投げ込まれるようになる。差出人は分からない。マンションという閉鎖空間。“犯人”は、隣に住む誰かかもしれない。安らげるはずの居場所に、明らかな悪意が入り込んでくる。逃げ場はなかった。
「『ふざけるな』『勝手に入れるな。返却!』と書かれたものもありました。意見書を出すたびに、です。本当に怖かった」
住民の中には、「みんなのために考えてくれてありがとうございます」と声をかけてくれる人も数人はいた。しかし、「署名を集めたいので協力してほしい」と頼むと、「名前を出すのは勘弁してください」と誰もが口をつぐんでしまう。
「問題に関わりたくない。私がいじめられているのを見て、自分もターゲットになりたくない。そう思ったのでしょう」
それは、現代日本のコミュニティが抱える病巣の縮図のようであった。
「ガバガバのズブズブ」
孤立無援の中、さかもとさんは弁護士に依頼し、過去の議事録や資料を開示させ、マンション管理の実態を調べ上げていく。
そこで見えてきたのは、驚くべき事実だった。
「議事録を読み込んで愕然としました。このシャッター、2018年にも一度壊れていたんです」
当時、約550万円をかけて内部を交換し、「これで10年は持つ」と説明されていた。さらに総会では、シャッターを長期修繕計画に組み入れ、積立金で賄うことが決議されていたという。ところが、実際には長期修繕計画には反映されていない、そして今になって一時金60万円の請求ーー。
2018年の工事の杜撰さも露呈した。数年後の検査では「内部部品は相当に古く、建設時から交換されていない可能性がある」との記録が残っていたのだ。
「10年持つはずの工事は何だったのか。騙されていたのではないかと感じました。第三者による検査の形跡もない。契約書すらない。こんな杜撰な管理がまかり通っているんです。管理会社と理事会の怠慢、あるいは意図的な何かがあったのでは。嫌でもそう考えざるを得ません。残された資料だけを見ると、管理会社と理事会がガバガバのズブズブであると感じました」
問題は個人同士の対立ではない。「管理会社に任せきり」「住民の無関心」「責任の所在が曖昧」――その構造そのものにある。
このマンションでは、管理会社が不要な工事を次々と提案し、住民から集めた管理費を使い切るような運営がなされてきたのではないか。さかもとさんの疑念は、確信へと変わっていった。
こうした問題は、氷山の一角に過ぎない。全国でマンションの老朽化が進む中、不当に高額な修繕費の請求、相次ぐ管理費の値上げ、管理会社と理事会との不透明な関係など、同様のトラブルは後を絶たないのが実情である。
一連のトラブルの末、さかもとさんは住み慣れたマンションを離れ、引っ越す決断を下した。
「住民の皆さんが不当な支出をしないで済むよう声を上げただけなのに。結果として住み続けることが難しくなってしまった。本当に悲しいし、悔しかったです」
結局、2026年4月現在も、壊れたシャッターは修理されないまま、放置されている。
あなたのマンションは大丈夫ですか?
多くのマンションで、管理組合の運営は管理会社に任せきりとなり、住民の無関心につけこんだ不透明な会計や、不必要な高額工事が横行している可能性がある。
「マンションオーナーになった以上、賃貸とは違います。自分の資産は自分で守らなければいけない。理事の役が回ってきても、多くの人は議事録も読まず、管理会社の言うことを鵜呑みにしてしまう。それが一番危険なんです」
さかもとさんは、自らの経験を踏まえ、こう警鐘を鳴らす。
まず、理事になったら過去の議事録に必ず目を通すこと。不自然な金の流れや、過去の決定が反故にされていないかを確認する必要がある。
さらに、管理会社を定期的に見直すことも重要だ。同じ会社に長年任せきりにすれば、癒着の温床になりかねない。
「判断が難しければ、第三者の専門家にチェックしてもらうことも有効です」
そして欠かしてはいけないのが、住民同士の関係性だという。
「隣に誰が住んでいるかも分からない。そんな状態では、いざという時に誰も声を上げられないし、協力も得られません。今思えば、住民の皆さんと素性や顔を知った関係性を築けていれば、悪意の投書を受け取ることもなかったのかもしれません」
現在、さかもとさんは新たな住まいで生活を送っている。
「お隣の方が『お怪我されたみたいで』とお雛様の飾りを持ってきてくださって。『あなたの怪我をお雛様が持っていってくれますよ』と言ってくれたのです。涙が出るほど嬉しかった。人との繋がりの大切さを身に染みて感じています」
マンションの問題は、決して他人事ではない。
弁護士の唐澤貴洋氏はこう解説する。
「管理業者は、推薦してきたシャッター設備を売る業者の価格が果たして正当なものなのかについて判断する基礎を管理組合に提供するためには、複数の業者について相見積もりを取り、管理組合に帰属する財産の適切な使用を目指すことが本来求められよう。
しかし、現状は、管理業者の善管注意義務については、管理業者に寄った裁判例も認められており、管理業者の善管注意義務の高度化については、現状に沿った議論が必要である。昨今の管理組合に帰属する財産について、修繕事業を意図して、工事施工会社が工事内容を誘導するといった事案が確認されており、修繕を行う際に管理組合としては修繕事業内容が適切であるかの判断が求められるが専門家ではない区分所有者にどこまでその役割を問えるのかは根深い問題である」
無関心でいる限り、そのツケは必ず自分に返ってくる。
(取材・文/竹ノ塚豊)
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