東急不動産の「コミュニティづくり」戦略「マンションを売って終わりにしない」
「我々のマンションブランド『ブランズ』ではハード面に力を入れてきた。管理面も充実させてきた。ただ、本当にそれだけでいいのか。販売して終わりでいいのかという葛藤があった」─こう話すのは東急不動産住宅事業ユニット再開発事業本部上席執行役員本部長の鮫島泰洋氏。
2026年2月9日、東急不動産は分譲マンション「ブランズ」の一部で、居住者を対象に、著名シェフが赴く完全予約制・カスタムメイドで上質な食体験を提供するサービス「マイグランシェフ フォーブランズ」を始めることを発表した。
まず2027年から東京・大崎の「ブランズタワー大崎」に導入、28年には「ブランズタワー横浜北仲」に導入し、その後は設備を整えた首都圏のマンションを中心に展開していく。
居住者限定のサービスで、基本価格は55万円から。価格は人数や食材などによって変動する。スタート時の提携シェフは、中国料理の「4000 Chinese Restaurant」の菰田欣也氏、イタリアンの「シン ハラダ」の原田慎次氏、和食の「賛否両論」の笠原将弘氏の3人。
このサービスを可能にしたのが、世界的刃物メーカー・貝印との提携。貝印は包丁など調理道具の提供によって「食」とは深い関わりを持つ。それだけでなく、食そのものに事業を拡大している。発酵を軸とした食品開発の他、1700以上の料理教室や、レストランの企画運営を通じて、シェフを始めとした食のプロフェッショナルとのネットワークを持つ。
今回の異業種の「異色タッグ」によるサービス導入のきっかけは、鮫島氏が気に入って訪れていたのが、貝印が運営する「麹」を使ったイタリアンレストランだったことだった。
貝印上席執行役員ビジネス開発本部本部長の遠藤加奈子氏は「実力派のトップシェフが出張して食事を提供する。当社のネットワークとノウハウを注ぎ込んだ。唯一無二のサービスではないか」と力を込める。
東急不動産には、冒頭の鮫島氏の言葉にあるように、マンションが「売って終わりでいいのか」という問題意識があった。
通常、デベロッパーはハード面を充実して消費者に販売。その後には、グループの管理会社が入って管理サービスを提供するというのが主な関わり方。東急不動産の「ブランズ」は「デザイン、クオリティ、サポートにこだわり、『環境先進マンション』として認知していただいた」(東急不動産住宅事業ユニットCX推進部ブランド・首都圏販売統括グループグループリーダー・高橋玄氏)
だが今回は、そこからさらに一歩進めて、「様々な体験の積み重ねこそがマンションに重要」(鮫島氏)として、こうした体験を提供するマンションを「未来資産」と定義。その中で今回は、まず「食」に着目した。日本は核家族化が進んできた。特に都市型マンションは利便性が高い分、両親は共働きのため家族で食卓を囲む機会が減少しがちという課題がある。
また、小さい子どもがいる、あるいは高齢で移動が難しいといった理由で外食ができない家庭もある。そうした時にマンションにシェフを呼ぶことができれば、気兼ねなく食を楽しむことができる。
そして、著名シェフが自分たちのためだけに食事をつくってくれるという特別な時間をつくってくれるという「ハレの時間」は「食べた後の満足感、幸福感はこころに刻みつけられる」(鮫島氏)。この「体験価値」を提供することを目指した取り組み。
