「辞めさせたい」態度の悪い「古株」のせいで離職続出、開業医を悩ませるモンスタースタッフ問題 弁護士が示す3つの“処方箋”
開業以来、苦楽をともにしてきたベテランスタッフが、今や組織の成長を阻む最大の壁になっている──。
人手不足が深刻な医療現場で、ある地方都市の開業医が切実な悩みを抱えている。
態度の悪い古株スタッフとの衝突が原因で、ほかのスタッフが相次いで離職しているというのだ。
いわば“モンスタースタッフ”ともいえる存在を、どうすれば辞めさせられるのだろうか。
●開業医「1人辞めさせたら2人雇えるのに…」
弁護士ドットコムニュースの取材に悩みを打ち明けたのは、ある開業医だ。問題となっているのは、開業当時から支えてくれた「ベテランスタッフ」だという。
スタッフたちが離職する際、その理由として、このベテランスタッフに「無視された」といった申告が相次いでいる。被害を訴えるのは1人ではなく、すでに複数人にのぼるという。
さらに、このベテランスタッフの高額な給与も経営を圧迫している。開業当初の大変な時期をともに乗り越えた功績に報いるため、地域の相場を大きく上回る給与を支払ってきたからだ。
開業医は「この1人を辞めさせることができれば、新しいスタッフを2人以上雇うことができる」と頭を抱える。
しかし、仕事自体は適切で、目立ったミスはなく、解雇の理由を見出すことができない。現在は「態度を改めてほしい」と伝えるのが精一杯だという。
「家業の病院を継いだ二代目医師から、先代の時代から働いている古株の看護師のパフォーマンスに問題を感じているものの、『切れない』と同じような悩みを聞くこともあります」
退職者が相次ぐ状況の中、「古参スタッフ」をこのまま放置するわけにもいかない。とはいえ、退職させるにはどうしたらよいのか──。企業の労働問題にくわしい有本喜英弁護士に聞いた。
●医療業界でよく聞かれる「強大な権限を持つ古株スタッフ」
──医療業界において、古株のベテランスタッフの扱いに困っているという相談は珍しいのでしょうか。
決して珍しくありません。クリニックのような小規模な職場は閉鎖的な環境になりやすく、特定のスタッフに業務が属人化しがちです。
開業初期の苦労をともにしたメンバーや古株のスタッフが院内で大きな権限を持ち、院長であっても注意しづらい状態になることは、医療機関の経営における典型的な悩みの一つです。
●業務に問題のないスタッフの解雇は「不当解雇」と判断されやすい
──ほかのスタッフが離職理由として「無視された」「態度が悪い」と話している場合でも、問題のスタッフを退職させることはできないのでしょうか。
日本の労働法制では、業務上の明確な問題がない状態で一方的に解雇すると、「不当解雇」と判断されるリスクが非常に高くなります。
一方で、無視や威圧的な態度が職場の秩序を著しく乱し、「パワーハラスメント」に該当する場合には、経営者がそれを放置すると、ほかのスタッフとの関係で職場環境に対する安全配慮義務違反を問われる可能性もあります。
●「辞めさせる」前提ではなく、ステップを踏む
──相談者にアドバイスをお願いします。
労働契約を終了させるには高いハードルがあります。そのため、「辞めさせること」を前提にするのではなく、態度を改善させて、再び有用な戦力として働いてもらう可能性も含めて、対応を検討する必要があります。
長年クリニックを支えてきたノウハウは、態度さえ改善されれば経営側にとって大きな財産になります。経営者としては、次の3つの段階を踏んで毅然と対応することが重要です。
・事実確認と改善指導
・懲戒処分の検討
・雇用契約終了の検討
まず、被害を訴えるスタッフから具体的な事実関係をヒアリングし、本人に改善指導をおこないます。口頭だけでなく、指導書などの書面を交付して客観的な記録を残してください。
そのうえで、再三の指導にもかかわらず態度が改まらない場合は、就業規則に基づき「戒告」や「減給」などの懲戒処分を検討します。
そのような指導や懲戒処分を重ねても改善が見込めず、そのスタッフの行為を放置すれば職場秩序を維持できないと判断されるような例外的な場合には、最終的に普通解雇や懲戒解雇といった雇用契約の終了を検討することになります。
繰り返しますが、日本では解雇のハードルは極めて高く、安易に踏み切れば無効と判断される可能性があります。
解雇の有効性は厳格に判断されるため、それまでの指導や処分の客観的な記録が不可欠です。適正な手続きを尽くすことが、結果的にクリニックを守る最大の防御策となります。
【取材協力弁護士】
有本 喜英(ありもと・よしひで)弁護士
2020年弁護士登録(大阪弁護士会所属)。企業関係法務、労災事故、一般民事全般を扱う。クライアントの「ニーズ」や思いを把握し、常に最善の解決を目指して事件に取り組みます。
事務所名:弁護士法人ブライト
事務所URL:https://law-bright.com/
