2度目は65歳を過ぎて、一個人としての役より、誰かのお母さん、誰かのお婆さんという一人の人間としての固有名詞のない役が多くなった。つまらないな、と思っていた時に『百合祭』(2001年)の話が来た。「これだっ!」って思ったっておっしゃって。『百合祭』って高齢女性の性愛を描いた映画なんですよ。ミッキーカーチスさんとの濡れ場もあるし、ラストでは白川和子さんとのキスシーンもある。吉行さんって本当に勇敢な人なんですね。自分を変えていくことを恐れない。

 それから17年くらいたって、私が菜葉菜さんとか吉行さんのマネージャーさんと飲んでたら吉行さんから「とんでもないばあさんが演りたい」っていうラインが届いたんですよ。私、その時直球で吉行さんの心を受け止めたような気がしたんですね。吉行さんは3回目のターニングポイントを求めている。ならば、受けて立つしかない(笑)。

◆「もうきれいに撮ってもらうのはお終い」ときっぱり

菜葉菜:それが『雪子さんの足音』(2019年)だったんですね。私も共演させていただいて、吉行さんが醸し出すなんとも言えないエロスに、すごいなあと思いました。

浜野:『雪子さんの足音』を観て、吉行さんは「こんなにきれいに撮ってもらうことってめったにないのよ」って喜んでくれたんです。でも、今回の『金子文子 何が私をこうさせたか』に祖母の役で出演をお願いしたら「もうきれいに撮ってもらうのはお終い」ってきっぱり言われたんです。吉行さんの役者としての覚悟が伝わってくるようでした。すごい俳優さんだったと思います。

菜葉菜:本当にかっこいい役者さんでした。

浜野:その吉行さんの心意気は、菜葉菜さんが継いでいってくれると私は思ってるんですよ。

菜葉菜:いや、とてもとても……。

浜野:大丈夫、自尊心をもっていれば何も恐れることはないんだから。

――自尊心って何ですか?

浜野:ものすごく簡単に言うと、自分に絶対嘘をつかないこと。

――むずかしい……。

◆「私は猥褻やってんだよ」中途半端なソフト路線はやりたくない

――ところで監督はピンク映画はもう撮らないんですか?

浜野:最近、ピンク映画もR18じゃなくて、R15というソフト路線がほとんどなんですよ。私、中途半端が嫌いなの。映倫と闘ってその時代、時代の性表現を勝ち取ってきたという自負がある。ピンク映画を撮りながら、芸術だのなんだのという男の監督たちの中で、「私は猥褻やってんだよ」と言い切ってきた(笑)。だから中途半端なソフト路線はやりたくないんですよ。

菜葉菜:監督は自分に嘘をつかないから(笑)。でも日本には、大人の恋愛映画が少ないですよね。ヨーロッパなどでは70歳代の恋愛映画がちゃんとあって性描写もきちんと描かれている。私は以前から、日本には大人の映画が少ないなと思っていました。ただ、女性監督が増えてきたから、これからは少し変わっていくかもという期待はあります。

◆映画がすこしでも起爆剤になってくれれば

――この映画、いろいろなところに爆弾を投げ込みそうですね。

浜野:今の底が抜けたような日本に、いつまでも変わらない男社会に、若い世代の特に女性たちの生き方に、そして日本映画界のあり様に、この映画がすこしでも起爆剤になってくれればうれしいですね。

菜葉菜:私はとにかく、金子文子という実在の人物がいたことを知ってもらいたいです。そして彼女の生き方を通して、自分を見つめ直すきっかけになれば、と。私自身もそうでしたから。

浜野:私の監督人生の集大成とも言える作品です。一人でも多くの人に観ていただければうれしいですね。

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 そして2月28日、渋谷ユーロスペースで映画が公開された。1回目も2回目も満席となり、2回目上映後に舞台挨拶がおこなわれた。

 舞台挨拶では各役どころの話や、浜野監督の印象が語られた。60年近いつきあいの白川和子さんは、若い頃の浜野監督のエピソードを披露、「佐知の映画ならいつでも駆けつける」と語った。

 浜野監督は「みなさんも今日からは、“心に文子”を合い言葉にがんばって生きていきましょう」と挨拶、会場が盛り上がった。

<取材・文&人物写真/亀山早苗>

【亀山早苗】
フリーライター。著書に『くまモン力ー人を惹きつける愛と魅力の秘密』がある。男女関係、特に不倫について20年以上取材を続け、『不倫の恋で苦しむ男たち』『夫の不倫で苦しむ妻たち』『人はなぜ不倫をするのか』『復讐手帖─愛が狂気に変わるとき─』など著書多数。Twitter:@viofatalevio