『チェンソーマン』はなぜジャンプ作品の中で異彩を放ったのか 欲望を解き放つ愛の形
劇場版『チェンソーマン レゼ篇』(以下、『レゼ篇』)が9月19日に公開された。
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本作は、藤本タツキの漫画『チェンソーマン』(集英社)を原作とするアニメシリーズの最新作。『チェンソーマン』は悪魔が跋扈する日本を舞台に、少年・デンジがチェンソーマンに変身して悪魔や魔人と戦う姿を描いたオカルトアクションバトル漫画だ。2018~2020年に『週刊少年ジャンプ』で第1部が連載され、2022年からは『ジャンプ+』で第2部が連載されており、頭のネジがぶっ飛んだ暴力描写と卓越したコマ割りの演出によって漫画表現を更新し続けている。
2022年にはアニメ制作会社MAPPAがテレビアニメ化したことで、より幅広いファンを獲得した。そして、今回の『レゼ篇』はコミックス第5巻の中盤から第6巻にかけての内容を映像化したものとなっている。
『鬼滅の刃』と『呪術廻戦』のアニメ映画が大ヒットしたことで、ジャンプ漫画原作のアニメ映画が続々と作られ、快進撃が続いている。しかし、他のジャンプ作品と比べると『チェンソーマン』は暴力描写や性描写が生々しく、青年漫画に近い作品だったため、多くの観客から支持されるアニメ映画となるのかは未知数だった。だが、蓋を開けてみると、公開6日間で興行収入20億円を突破する大ヒットとなっており、どこまで興収が伸びるのか注目されている。
筆者が足を運んだ映画館では、学校帰りの高校生が多く、若い世代の心を確実に掴んでいると感じた。荒唐無稽な設定で世界観が複雑なため、敷居が高い作品に思える『チェンソーマン』だが、一方で本作は青春漫画として分かりやすい作りとなっており、10代の若者、特に思春期の男の子にとっては他人事とは思えない切実な作品となっているのではないかと感じる。
極貧生活の中、デビルハンターとして悪魔を狩っていたデンジは、親が残した借金を返すために臓器を売ってなんとか暮らしていた。そんな彼の夢は普通の生活をすることだったが、借金取りのヤクザの裏切りにあって命を落としかけたことをきっかけに、チェンソーの悪魔・ポチタから心臓をもらい、チェンソーマンとしての力に目覚める。
その後、デンジは公安のデビルハンターとして悪魔と戦うことになる。本作では、血まみれの闘いを強いられるバトル漫画の要素と、マキマ、パワー、姫野といった魅力的な女性が次々と登場し、デンジが男の子として翻弄されるエッチなラブコメ漫画的要素が同時に描かれてきた。
ジャンプのバトル漫画として『チェンソーマン』が異質なのは、デンジの敵として立ちはだかる悪魔の多くが女性だということだ。映画内の台詞にもあるが、デンジが知り合う女性は全員、彼のことを殺そうとするのだが、自分のことを好きなんじゃないかと思った女性のことをデンジはすぐに好きになってしまい、愛した女性と殺し合うことになる。
また、デビルハンターの任務はとても過酷で、知り合ったばかりの仲間が次の瞬間にはあっけなく殺されてしまう。新しいエピソードが始まり、新キャラが登場したかと思うと数ページ後にはあっけなく死んでいるのが『チェンソーマン』の世界で、悲しむ余裕さえ与えてもらえない理不尽さが本作の根底にある。
『レゼ篇』にはそんな『チェンソーマン』の特色が、凝縮されている。
デンジがカフェで働く少女・レゼと仲良くなり、夜の学校に忍び込んで探検した翌日に花火を見に行ってキスをするまでは、甘酸っぱい恋愛映画のど真ん中を行く王道展開となっている。だが、キスの最中にレゼがデンジの舌を噛み千切った後、爆弾の力を操るボムとしての正体を現し、血まみれのアクションホラーバトルに物語は突然切り替わる。
前半と後半で物語のトーンが全く違うものへと変わる唖然とする展開だが、この前半から後半への移行こそが『チェンソーマン』の本質だ。
アニメ映画では、上田麗奈の声が加わったことでレゼの実在感はより強まっており、漫画よりも色気のある話となっている。その分、デンジの痛みも観客に伝わりやすくなっているのだが、映画を観ながら少年にとって女性は、ちょっとしたことで女神にも悪魔にも変化する恐ろしい存在で、だから支配されないために戦うしかないんだよなぁと、思春期の頃に自分の中に渦巻いていた異性に対する歪んだ感情を思い出した。
フィクションの作り手の多くが社会的な正しさを志向し、物分かりが良くなっていく中で『チェンソーマン』が異彩を放っているのは、少年の中に渦巻いている暴力や性欲の衝動に対して作者が正直で、その欲望を解き放つことによって生まれるカタルシスを第一に考えているからだろう。
アニメスタッフもその衝動を大事にしており、だから『レゼ篇』の後半はデンジとレゼの悪魔的な暴力衝動が解放されていて、とても気持ちがいい。最終的に殺し合うしかないデンジとレゼの姿はとても悲しいが、悪魔の力をぶつけあう二人の姿はどこか楽しそうで、こういう形の愛もあるのかと感じた。
(文=成馬零一)

