シート高とウォッシャータンク アルピーヌA110 長期テスト(4) 抜かりない軽量化
積算9997km 前後にスライドするだけのシート
アルピーヌA110には、シンプルなバケットシートが据えられている。ドライビングポジションにとって、シートの形状や位置は重要だ。座面の上下や前後、背もたれの角度など、細かく調整できる方が快適な姿勢を取りやすいが、設定に悩むことも多くなる。
【画像】軽量ミドシップを普段使いする アルピーヌA110 ライバルの718ケイマンとエミーラ 全108枚
洗練されたモデルにお乗りでも、ランバーサポートやサイドサポートの位置がいまひとつ決まらない、という経験をお持ちの読者もいらっしゃるだろう。筆者も、過去に実感したことがある。

アルピーヌA110(英国仕様)
ひるがえって、A110のシートは基本的に前後へスライドするだけ。背もたれの角度も変わらない。悩む点が少なく好ましい。ただし、長距離移動は期待したほど快適でもない。
150kmくらい運転すると、オフセットしたアクセルペダルの影響で、右足が徐々に痛くなってくる。300kmも走ると、肩や腰も痛くなってくる。
交通量の少ない道では、クルーズコントロールをオンにし、両足を疲れないポジションに保つことはできる。しかし予期せぬ事態に備えて、ペダルは常に踏める状態にあることが望ましい。
先日、フリーの自動車ジャーナリスト、ダン・プロッサー氏とシートのことで意見を交わすことがあった。彼は最近までA110のオーナーだったが、家族が増えるという理由で、手放すという苦肉の決断をくだした。
それでもA110のファンであることに変わりはなく、今も多くのコンテンツを執筆している。クルマの構造にも詳しい。
ボルトを外しての調整はディーラーで
ロンドンへの移動中にそんなグチを聞いた助手席の彼は、運転する筆者を見ながらこう切り出した。「シートのポジションを下げては?。高さ調整できますが、中間の位置に固定されていますよ」
思わずシートの付け根へ手を伸ばしたが、簡単に調整できるわけではない。レバーで調整可能にすると、その構造が必要になり重量も増えてしまう。クルマを止めて、ボルトを外す必要がある。

アルピーヌA110(英国仕様)
正確にはアルピーヌのディーラーで、適切な資格を持ったスタッフが正規の工具を用いて作業する必要がある。ところが、自宅から最も近いディーラーはグレートブリテン島の南西部、カーディフに位置している。往復でほぼ1日使ってしまう。
構造を確かめると、とても単純。自分で調整しようかと考えたが、アルピーヌからお借りしている車両で、オーナーは筆者ではない。うまく取り付けられなければ、運転できなくなってしまう。アルピーヌへ電話し、積載車をお願いするのは屈辱的だ。
正直なところ、筆者は作業に余り自信がない。自らボルトを固定したシートに、自らの命を預けたいとは思わない。カーディフへ向かうのが最適といえそうだ。
情報を調べた限り、座面の位置が低くなるだけでなく、シート自体が後方へ僅かに傾くようだ。背もたれが倒れ、楽な姿勢を取れるかもしれない。筆者が望む変化が生まれるように思う。
積算1万1711km 滑りやすい路面でも頼もしい
滑りやすい路面で、適切なクルマとはなんだろう。電子アシスト満載の、大型SUVはきっと頼もしい存在になるだろう。
しかし、リアアクスルの直近にエンジンを搭載した、軽量なクルマも安定した走りを披露する。タイヤへ加わる負荷は、制御可能な範囲に留めることが重要といえ、発進や停止、旋回時に加わる質量が小さい方が安定性は増す。実はA110も頼もしい。

アルピーヌA110(英国仕様)
積算1万1766km 小さなウォッシャータンク
アルピーヌA110は、軽量化に抜かりがない。先日、空になったウォッシャー液を補充したのだが、改めてそう感じた。些細なことで、とお思いかもしれないが、少しお付き合いいただきたい。
A110は、人間が快適に移動できる範囲で車重を削りつつ、スーパーカーに乗るような富裕層でなくても手が出せる価格帯へ抑えられている。900万円のクルマと、その5倍の値段のクルマとでは、カーボンやチタンを用いることの意味は大きく違う。

アルピーヌA110(英国仕様)
コストを増やさず軽くするには、エンジニアが知恵を絞る必要がある。隅々までスマートな設計が施されているという事実を、ウォッシャータンクからも見て取れる。
特別な素材は用いられていない。ありきたりなプラスチックとゴムだけ。しかしアルピーヌは、多くのクルマの場合、ウォッシャー液が望んだ場所へ噴出されなかったり、ワイパーが吹く前にガラスから流れ落ちてしまうという事実へ着目した。
ある程度のウォッシャー液は、無駄に消費されてしまう。そのため、タンクは必要以上に大容量になっている。
アルピーヌのエンジニアが編み出した解決策は、無数の穴を開けた専用ワイパーブレードを採用すること。必要な部分にのみ霧状のウォッシャー液が噴霧されるため、無駄を大幅に減らしガラスを綺麗にすることを可能にしている。
つまり、3.5Lのタンクと同じ仕事量を、1.5Lのタンクでこなしている。これで2kgの軽量化につながるわけだ。
軽さは好燃費にもつながる
ほかにも例を挙げると、サイドブレーキは、リアの通常のブレーキキャリパーを利用している。これでバネ下重量を2kg削っている。ブレーキラインの固定パーツも、スチール製ではなくアルミ製。僅か5gの違いだが、アルピーヌは有効だと考えた。
さらに、1100kgを切るという車重を叶えた最大の要因は、ボディ自体がコンパクトだから。主任技術者のデビッド・トゥーヒグ氏は、クルマの体積が1L増える毎に、車重は200g重くなると試算している。

アルピーヌA110(英国仕様)
その成果は間違いなく大きい。仕事柄、スーパーカーへ乗る機会は少なくないが、A110を運転すると毎回特別なクルマだと再確認する。しかも、多くの例よりドライビング体験は素晴らしい。
軽さは好燃費にもつながる。気ままに運転しても、14.0km/Lを下回ることはない。ガソリン代の高騰が続く現在では、想定以上の結果に繋がっていると思う。
テストデータ気に入っているトコロ
普段使いとの相性:筆者の望み通りの、普段使いできるドライバーズカーだ。
見入ってしまうディティール:細部へのデザインのコダワリは、尋常ではない。
気に入らないトコロ
座面の高さ:標準のままでは、シートポジションが高すぎる。変更するにはディーラーへ向かう必要がある。
エンジンファン:さほど暑くない日に運転しても、冷却用のエンジンファンがずっと回っている。
テスト車について

アルピーヌA110(英国仕様)
モデル名:アルピーヌA110(英国仕様)
新車価格:4万9990ポンド(約904万円)
テスト車の価格:5万4144ポンド(約980万円)
テストの記録
燃費:14.2km/L
故障:なし
出費:なし
