「一億総中流社会」と言われる日本。

容姿、学歴、収入。全てにおいて「中流」の少し上に位置する人間は口を揃えてこう言う。

「上を見ればキリがないが、知らなければいい世界もある。」

この連載では”中の上”に位置する男女に起きた、さまざまな悲劇に迫る。

これまで登場したのは、年収2,000万以上の相手にこだわる代理店女子マユ、読者モデルの裕美、ワセジョの聡子など。今回登場するのは…?




健介、33歳。“中の上”ランクのサラリーマンに取り残された唯一の道とは?


「 “中の上”ランクのサラリーマンにとって、取り残された道って会社での出世だけなんですよ。」

そう語ったのは、大手メガバンクに勤める健介、33歳だ。慶應の経済学部を卒業後、今働いている銀行に新卒で入社した。入社11年目、役職付きで年収は900万円ほどだという。

短く切りそろえられた髪にメタリックフレームの眼鏡。その落ち着いた雰囲気は実際の年齢よりやや上に見える。

大学三年生の就職活動時、彼は金融業界で働くことを志した。「几帳面で何でもそつなくこなすタイプ」の彼は、若くして高収入が望める外資金融を受ける仲間を尻目に、国内のメガバンクや証券系の会社を中心に受けていた。

「商社も一応受けましたけど、最終面接かその前くらいでダメでしたね。」

最終的に内定が出たのは、大手メガバンクと日系の証券会社。悩んだ末、メガバンクへの就職を決めた。

「当時のこの選択は正解だったと思います。僕は一発逆転のホームランは打てないけれど、ミスは絶対しないタイプ。評価方法が“減点主義”の銀行は自分でも性に合っていると思ったんですよ。」

自嘲気味にそう語った。


健介が語る日系バンカーの悲哀とは?


「勝てる分野で着実に勝つ」順風満帆な会社員生活とは?

健介は三重県出身、大学合格とともに上京した。真面目な努力家で、高校時代は生徒会長を務めていた。サッカー部に所属していて友人も多く、ガリ勉ではないバランス型タイプ。

一見大人しそうに見える彼だが、向上心は並大抵のものではない。就職活動の自己分析からも分かるように、自分を冷静に分析し、「勝てる分野で着実に勝つ」というのが彼のモットーだった。

銀行に就職を決めた彼のキャリアは、当初順風満帆だった。

最初に配属された地は仙台。優良支店と知られていたので、「自分は期待されている人材だ」とひとまず胸をなで下ろしたらしい。

仙台では法人営業を担当した。支店内の雰囲気は良く、職場環境は良好。彼の真面目な仕事ぶりは上司からの評価も高かった。

休日は歳の近い先輩たちと観光地を回ったり、お互いの家で飲んだり、充実した日々を送っていた。支店時代の同僚とは今でも交流が絶えない、と当時を思い出し嬉しそうに語る。

また、地方でのメガバンク勤務の肩書きは絶大だった。食事会でも非常にモテたため、女性関係には真面目な彼もこの時ばかりは少し調子に乗ったらしい。

しかし、徐々にそうした生活にも慣れ、「このままでいいのか」という焦りが徐々に芽生えてきた矢先、本部の営業部門への異動の内示が出た。入社5年目、27歳だった。

東大や京大、一橋卒がひしめく同期の中、この歳での本部への異動は栄転だ。

「ここから大きなミスをしなければ、出世街道まっしぐら。心の中でガッツポーズしました。」

当時を振り返って彼はこう語った。

4年ぶりの東京での生活は刺激的だった。地方でのびのびと仕事をしていた分、毎月課されるノルマは厳しかったが、ここでの踏ん張りがこの後の出世レースに大きく影響する。彼はこれまでに増して仕事に打ち込むようになった。


信用第一の銀行員。27歳での結婚


また、プライベートも彼らしく計画的に事を進めていた。信用第一の銀行員。これから激化する出世競争を勝ち抜くためにも、結婚はなるべく早い方がいい。

東京に異動した半年後、仙台で付き合っていた保育士の彼女を呼び寄せ、入籍した。彼女は、東京の女性と比べると垢抜けないが、仙台で出会った中ではトップクラスに可愛いかった。性格も家庭的で「僕が結婚する相手としては最高値」と、冷静な分析のもとの結婚だった。

その後、葛西に家を借り、新生活をスタートした。同期の中でも順調だったはずの出世街道。しかし、想定外の出来事が待ち受けていた。


健介に待ち受けていた出来事とは…?


上司から押し付けられたミス、宇都宮への異動


地道に仕事に取り組んでいたはずの彼に想定外の出来事が起きた。

担当していたプロジェクトで上司のミスが発覚し、その責任を部下である彼に押し付けたのだった。




当時の出来事について詳しくは語らなかったが、当時の心情をこう振り返った。

「信頼していた上司だったので、まさかとは思ったのですが…。その上司も保身に必死だったのでしょう。僕は実直に信頼を得るタイプで、うまく立ち回ることができなかったんです。」

その後、彼は宇都宮に異動になった。周囲は、異動イコール栄転だと送り出してくれたが、彼は「出世街道から外された」と酷く落ち込んだ。

当時30歳だった彼は転職も考えたが、今より条件の良いところは望めないだろうと思いとどまった。激務に耐えかねて転職した同期もいるが、年収は落ちたと皆口を揃える。彼は早く結婚していたので、既に2人の子供がいた。


出世街道から外れた彼の今後のキャリアは…?


「銀行の定年って早いんです。」

彼は寂しそうにそうつぶやいた。定年は60歳だが、役員級の出世クラスではない限り、50代から関連会社への出向が始まるという。出向後の給料は、3割減とも囁かれる。

「出世競争から外れて、このまま会社にしがみつくしか道がないかと思うと…。」

かつて慶應のサークル時代に一番仲の良かった同期の浩平は、最近本部へ異動になった。同じ会社なのでサークル内で比較されることが多く、20代で本部へ栄転した彼は「さすがだ」と言われていたが、今や形勢逆転だ。

「でも、宇都宮はいいところですよ。餃子以外にも美味しいお店がたくさんあるし…。東京も近いので不便はありません。」

まるで自分に言い聞かせるかのようなセリフ。現状に満足しているんだという彼なりのプライドが垣間見えた。

しかし、彼はもうサークルの集まりにも行かないし、Facebookを開くこともない。毎日淡々と業務をこなし、週末に子供と過ごす時間が「唯一の癒し」だと言う。

“中の上”サラリーマンの最後の希望である「出世」。

そこから見放された男は、今後どのような人生を歩むのだろうか。

次週12.10土曜日更新
“中の上”サラリーマン嫁MAX値