“疑惑の選書”が市民やネット住民から批判されている武雄市図書館の棚にはこのように関東圏のラーメン本がズラリ…

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8月上旬、図書館巡りをライフワークにしている週プレ編集・ホヅミからケータイに着信があった。プライベートで佐賀県を旅行中のようだが、何やら息が荒い。

「さっきまで武雄市の“ツタヤ図書館”にいたんですけど、モヤモヤが止まりません!」

その正体はこれだった。

「館内にスタバがあるんですけど、ここで高校生がポテトチップをバリボリ食べながら漫画本を読んでるんです。隣の席ではコーヒーを飲みながら夫の愚痴をこぼしあってるオバサングループ。館内のテーブル席を見回ったら、図書館の活字の本を読んでいる人はあまりいなくて、若い人はだいたい受験勉強組なんです」

だが、モヤモヤの最たる要因はこちらだった。

「ネット上でも批判されている通り、『食』コーナーの書棚を埋めていたのは、なぜか埼玉県のラーメン本。館内のスタッフに聞いたら『当館の選書方針に則って購入しています』って(苦笑)。いやいや、武雄で埼玉のラーメン事情を知ったところで意味ないんじゃ…」

“ツタヤ図書館”とは、DVDレンタル大手『TSUTAYA』を展開するカルチュア・コンビニエンス・クラブ(以下、CCC)が武雄市から委託を受けて運営している『武雄市図書館』のこと。2013年4月に“ツタヤ図書館”としてリニューアルオープンすると、従来の公立図書館にはないユニークな運営手法が注目された。

年中無休で開館時間は朝9時から夜9時まで。館内に書店とDVDレンタルコーナー、スターバックスまで併設し、販売用・貸出し用とも本をスタバに持ち込んで“立ち読み”することもできるなどオシャレで便利と評判に。リニューアルオープン後は来館者数が3.6倍に増えたという。

だが、その屋台骨を揺るがす問題が浮上したのは今年8月のこと。

武雄市民による情報開示請求で、リニューアルオープンの準備段階で購入した書籍のリストが明るみになり、ツイッター上で拡散すると「“ゴミ本”ばかり購入している」「TSUTAYAの在庫を押し付けられている!」などと疑惑の声が持ち上がり、一部の市民が『説明責任を果たせ!』と裁判所に訴える騒動に発展したのだ。

武雄の町で私憤を爆発させたホヅミは、最後にこう言って電話を切った。

「こんなの図書館じゃないっすよ」





武雄市図書館を所管する武雄市教育委員会の担当者によると、「リニューアルオープンの準備段階で仕入れた資料(書籍、雑誌など)は約1万冊。約1958万円で購入した」とのこと。その原資はもちろん税金なのだが、購入リストを見ると、やはり、公共図書館に置くには資料価値が低いと思われる本が多数混ざっていた。

この”疑惑の選書”について、武雄市図書館を何度も視察している、図書館問題に詳しい慶応義塾大学の糸賀雅児(まさる)教授にも検証してもらった。

まずは、ネット上でも「この選書はひどい」と批判されまくっているグルメ本『ラーメンマップ“埼玉”』シリーズから。武雄市図書館は2巻、4巻、5巻、6巻、8巻、9巻、10巻、11巻と歯抜けで購入していた。ちなみに、武雄市と埼玉県は1千km以上離れていて、姉妹都市協定を結んでいるわけでもない。

糸賀教授「例えば、札幌ラーメンや博多とんこつなど全国のラーメンに関連する資料を網羅的に収集しましょうという図書館の選書方針があるのなら埼玉のラーメンマップがあってもおかしくありませんが、武雄市図書館でそんな話は聞いたことがありません」

『ラーメンマップ埼玉』2巻の出版年度は1997年。すでに閉店しているラーメン店もかなり多そうだ…(苦笑)。続いては、古すぎる試験問題集『公認会計士第2次試験“2001”』(01年2月出版)。

糸賀教授「公認会計士の資格を目指している人は、武雄市にも一定数はいるでしょうから、その問題集が2001年分だけ欠号していて、それを埋めたというのなら理解はできます。でも、武雄の場合はそんな風にはやっていないのではないでしょうか」

事実、武雄市図書館の公式HPで資料検索してみると、やはり『2001年版』しかヒットしない。試験では必須知識となるであろう、企業の会計基準や関連法は01年以降も改正されている。『ブックオフ』でも店頭に2015年度版が並んでいるというのに、どうしてこんなに古い問題集を購入したのだろう…。

他にも、『エラーが分かるとWindows98/95に強くなる』(1999年3月出版)、『パソコン検定試験“P検オフ”99』(2004年出版)など「今さら誰が読むの?」と突っ込みたくなる本が多数並んでいた。

糸賀教授「家庭医学の本、特にダイエット本が異様に多い点も気になりますね」

確かに購入リストには『食べてやせる寿司ダイエット』(2008年12月出版)、『男のダイエット』(1999年6月出版)、『世にも美しいダイエット』(1994年4月出版)、『息するだけダイエット』など、これまた古すぎる本、怪しげな本がズラリ。

糸賀教授「ネット上では『TSUTAYA書店の売れ残り本の捌け口になっているのでは?』なんて声も挙がっていますが、現在、全国にある約3200の図書館のうち、武雄市のように民間企業に運営を委託している図書館は約1割で、紀伊国屋書店や丸善といった大手企業も参入しています。そういった民営図書館では少なからず、内容を吟味せずに不要な本が購入されるケースが見受けられますが、武雄市図書館の場合はちょっと”ヒドイ”なと」

そこで、CCCを直撃した。

―なぜ、購入本の中に埼玉のラーメン本やWindows95のガイド本が?

CCC広報「選書にあたっては、『食』や『旅行』『ビジネス』といったジャンルを中心に幅広く収集することを意識しました。その中で、本はいずれ絶版となりますので“世の中からなくしたくない本”というのを大事にしすぎた点もあり、これが多くのご批判を招く結果につながったのではないかと考えております。今後は改善していきたいと思います」

―選書は、CCCの裁量で?

CCC広報「まず弊社で選書し、そのリストを武雄市役所に確認してもらい、承認を得た上で購入しています」

―ネット上では「蔦屋書店の在庫処分ではないか」という指摘もあります。

CCC広報「そうした声が出るのは非常に残念ではございますが、まったくの事実無根です。(リニューアルオープンの)準備段階で用意した1万冊については、すべて『ネットオフ』から購入したものです」(※『ネットオフ』は全国から宅配買い取りで本を仕入れてオンラインで販売している中古本専門サイトだが、その運営会社・リネットジャパングループ[愛知・大府市]は2010年にCCCがグループ傘下におさめている)

―蔦屋書店ではなく、身内の中古書店の売れ残り在庫から選書した?

CCC広報「同じグループだからということは一切ありません。中古本市場の中でも、最も品揃えがいいところだと認識していたので『ネットオフ』から購入しました」

武雄市から委託を受けたCCCが、市民の税金(約1958万円)で身内のネット中古書店から大量の本を買い込むこと自体、不公平感や疑問も生じざるをえないが…。他の市立図書館の司書がこう話す。

「蔵書の購入先の決定は基本的に図書館の運営者に一任されるので法的には問題はありません。ただ、”地域住民のための選書”が行われているかどうかは問われるべきところです」

果たして、CCCは武雄市民のための選書を行なったのだろうか。『ネットオフ』の中古本の販売価格は最低価格108円から3千円程度と幅広い。そこで、同サイト上で武雄市図書館が購入した本を検索してみたところ…、

『「エラー」がわかるとWindows98/95に強くなる』…108円、『ラーメンマップ埼玉』2巻、5巻、6巻、8巻、9巻、10巻、11巻…108円、『公認会計士第2次試験2001』…108円、『食べる寿司ダイエット』…108円、『男のダイエット』…108円

と、“100円本”ばかり! その他に選書した本も調べてみたが、『3分で金運がついた。』(04年1月出版)158円、『最強マフィアの仕事術』(2011年5月出版)255円、『運が開ける姓名判断』(05年10月出版)208円など、やはり激安本が多かった。

例えば、『ネットオフ』で販売中の『ラーメンマップ埼玉』シリーズ最新号は17号(2013年出版、570円)だったのだが、こちらは武雄市図書館の購入リストに含まれていない。こうなると、単価の高い本=新しい本はなるべく避け、安い本=古い本を選んで購入したんじゃないか?と疑いたくもなる。

糸賀教授「武雄図書館は、事務室だったフロアを開架スペースにしたり、書棚を天井まで高くするなどして蔵書の収容スペースを大幅に拡大しました。蔵書数を20万冊に増やし、代官山蔦屋書店(東京・渋谷区)のように“本に囲まれた非日常空間”を演出することにこだわったのです。

しかし、棚を増やしたところでオープン後にスカスカな状況では格好がつかない。つまり、不要と思われる本を大量に購入したのは、蔵書の中身より、短い準備期間で棚を埋めることを優先した結果なのではないかと」

この“ツタヤ図書館”は、10月1日に神奈川県海老名市でもリニューアルオープンする。その後も宮城県多賀城市、宮崎県延岡市と、続々開館予定だ。CCCには、見た目や採算性よりも、市民を第一に考える図書館運営が求められている。

(取材・文/興山英雄)