ギャグマンガでデビューしたマンガ・小説の二刀流作家。「フリがあってオチがあるというつくりは、ミステリーに似ている」【土屋うさぎ インタビュー】
※本記事は、雑誌『ダ・ヴィンチ』2026年7月号からの転載です。

宝島社『このミステリーがすごい!』大賞で大賞に輝き、昨年デビューを飾った土屋さん。実は彼女、マンガ家としても活動する“二刀流”作家だ。
「プロのマンガ家を目指し、2021年頃からおぎぬまXさん(以後おぎぬまさん)のアシスタントをしていました。23年にデビューしたものの、その後なかなかうまくいかなくて。そこで、手筭治虫先生の『マンガからマンガを学ぶな。一流の音楽を聴き、一流の映画を観て、一流の本を読みなさい』という教えをもとに、私も小説をたくさん読むことにしたんです。それを見ていたおぎぬまさんから『マンガの勉強になるし、小説も書いてみたら?』と勧められて。おぎぬまさんご自身も小説を書き、『このミス』最終選考で大賞を逃したことがあったので、それなら私が敵を取ろうと応募してみることにしました」
受賞作『謎の香りはパン屋から』は、なんと土屋さんが生まれて初めて書き上げた小説だそう。ミステリーにはそこまで詳しかったわけではないが、いきなり快挙を成し遂げた。
「『このミス』の過去の傾向を勉強して、おぎぬまさんからミステリーのいろはを教えてもらいながら書き上げました。私はギャグマンガでデビューしたのですが、フリがあってオチがあるというつくりは、ミステリーに似ているんですよね。マンガ制作の経験を生かしつつ、ハードルの高い長編ではなく、短編の連作形式にしたことで書き切ることができました」
■心の謎に迫ることで人との関係が深まっていく
受賞作は、その名の通りパン屋を舞台にしたミステリー。パンとケーキの店〈ノスティモ〉でアルバイトをするマンガ家志望の大学生・市倉小春は、日々遭遇する小さな謎を持ち前の洞察力で解決していく。舞台やキャラクターの設定には、土屋さんの経験が生かされている。
「大学時代、パン屋で4年間アルバイトをしていたので、当時の経験を盛り込みました。主人公の小春には、当初自分を投影していましたが、それだとネガティブになりすぎてしまって。やっぱり主人公には、主人公たり得る何かがないとダメなんですよね。マンガの編集者からもとにかくキャラクターを立たせるよう言われていたので、小説でもその点を意識しました。小春は探偵役ですが、助手がいないため、すべてひとりで推理しなければなりません。そこで、ちょっと人見知りで人の言葉の裏を読むところはあるけれど、前向きなキャラクターにしました」
描かれるのは、人の心をめぐる謎。ひとつ謎を解くごとに小春を取り巻く人間関係が広がっていき、その和気あいあいとした雰囲気も、作品の魅力になっている。
「人の心を描く日常系ミステリーは、『それって隠す必要あった? 最初から話してくれればよかったのに』というお話になりがちです。隠すからにはそれなりの理由がないと、説得力が生まれません。そういった謎を解く過程では、必然的にその人の心に踏み込むことになりますよね。だからこそ、解いたあとにはその人とのつながりも深まります。それもあって、このシリーズではキャラクターを使い捨てにしないよう意識しました。キャラクター性を伝えるために会話も大事にしていて、謎解きとは直接関係のないおしゃべりもなるべく省かないようにしています」
■キャラクターのすれ違いと成長を描いた全5編
待望の続編では、ギャルのレナ先輩、堂前店長といったおなじみのメンバーに加えて高校生の新人バイト・杏樹も登場し、〈ノスティモ〉の毎日はさらににぎやかに。今回も、心の内側に迫る5つの謎が語られる。やる気十分の杏樹が、突然退職を申し出た理由とは。親友のために作ったウェディングケーキは、なぜ崩れてしまったのか。杏樹の先輩が見せた、怪しい行動の意味は? 筆致は軽やかだが丁寧に伏線が張られ、メロンパン、デニッシュなどパンの豆知識とともに謎が解き明かされていく。
「今回も、バイト時代の経験をもとにしたエピソードをいくつか取り入れました。例えば、焼きたてのメロンパンをオーブンから出す時、天板を台に打ちつけて内側の水蒸気を逃すのですが、勢いよく叩きつけるので何も知らない人には怒っているようにも見えてしまう。そういうすれ違いを入り口に、『解いてよかったな』と思える謎を考えていきました。謎解きが甘いと言われないように、ミステリーとしての作り込みを頑張ったつもりです」
いきいきとしたキャラクター描写は、続編にも受け継がれている。漫才のようにテンポのいい掛け合い、居心地のよい世界観も本シリーズの持ち味だ。
「2巻で最初に思い浮かんだのが、レナ先輩と後輩の杏樹ちゃんが売れ残ったフランスパンを奪い合うシーンでした。マンガでも『こういうシーンがあったらいいな』と、歌でいう“サビ”から思いつくことが多いので、小説も似たような作り方をしているのかもしれません。ギャグに関しては、アシスタント時代、おぎぬまさんが『ここ、もうちょっとボケられるな』と試行錯誤しながらボケの精度を高めていく姿を見て、私も影響されました。ユーモアミステリー作家としてのポジションを狙っていきたいです(笑)」
キャラクターの成長も大きな見どころだ。前作でマンガ家デビューが決まった小春だが、なかなか順風満帆にはいかない。悩んだり落ち込んだりしながら、少しずつ前進する姿を見ていると、つい応援したくなる。
「登場人物の成長、キャラクター同士のつながりは、シリーズものの醍醐味ですよね。今回は小春にマンガ家として次のステップを踏ませたいと思い、デビューしたものの続編がうまくいかず、悩む姿を描きました。私もマンガ家としてデビューしたものの、その後はボツが続き、次の読み切りが雑誌に掲載されるまで1年近くかかってしまって。不安定な職業を目指すわけですから、母親と険悪になった時期もあったし、小春と同じように母からのLINEをブロックしていたこともありました。前作は、結果的に“夢”がテーマになっていましたが、今回は“すれ違い”と“成長”を描いた作品になったのかなと思います」
全5章のうち、土屋さんのお気に入りは最終章「涙する塩パン」。かつて〈ノスティモ〉で働いていた湯浅は、塩パン大量発注を店長の許可なく引き受け、無断キャンセルされてしまう。この一件がきっかけで店を離れた彼は、東京で塩パンの移動販売を始めて有名に。そんな彼が大阪に凱旋し、店長に塩パン対決を挑む。勝負の行方、過去の事件の真相など見どころの多い章になっている。
「1章から4章までのキャラが登場する、明るくわちゃわちゃした話になりました。ここまでの集大成として楽しめますし、『そこで解決編が来るんだ』という珍しいつくりになっています。堂前店長が謎を解くのも新しいかな、と。小春は探偵役ですが、あくまでも大学生。周りの力を借りて真相を解明してもいいと思い、店長に活躍してもらいました」
小春たちの会話に笑い、鮮やかな謎解きに唸り、時折挟まれるメッセージにグッとくる。いつまでもこの世界に浸っていたいと思わせるシリーズとあって、末永く続くことを期待してしまうが……?
「シリーズは、あと1、2作で完結させる予定です。小春のマンガ家としての未来、〈ノスティモ〉のみんなの行く末を誠実な形で描けたらと思っています。今後も小説とマンガ、両方続けていくつもりですが、まずはこのシリーズを最後まで見届けていただけたら、うれしいです」
取材・文:野本由起 写真:首藤幹夫
つちや・うさぎ●1998年、大阪府生まれ。2023年よりマンガ家として活動し、『あぁ、我らのガールズバー』『見つけて君の好きな人』『文系のきみ、理系のあなた』『ORB』を発表。24年、第23回『このミステリーがすごい!』大賞で大賞を受賞し、25年、『謎の香りはパン屋から』で小説家デビュー。小説とマンガの二刀流で活動中。

『謎の香りはパン屋から2』
(土屋うさぎ/宝島社) 1650円(税込)
大阪府豊中市にあるパン屋〈ノスティモ〉でアルバイトをする市倉小春は、マンガ家志望の大学2年生。念願のデビューが決まってからも、店長の堂前やギャルのレナ先輩、初めてできた後輩·杏樹とともにバイト生活を続けていた。そんなある日、「来月は毎日でもシフトに入る」とやる気を見せて退勤した杏樹が、数時間後に退職したいと連絡を寄越してきて……。ふっくら温かい〈日常の謎〉連作ミステリー第2弾!

宝島社『このミステリーがすごい!』大賞で大賞に輝き、昨年デビューを飾った土屋さん。実は彼女、マンガ家としても活動する“二刀流”作家だ。
「プロのマンガ家を目指し、2021年頃からおぎぬまXさん(以後おぎぬまさん)のアシスタントをしていました。23年にデビューしたものの、その後なかなかうまくいかなくて。そこで、手筭治虫先生の『マンガからマンガを学ぶな。一流の音楽を聴き、一流の映画を観て、一流の本を読みなさい』という教えをもとに、私も小説をたくさん読むことにしたんです。それを見ていたおぎぬまさんから『マンガの勉強になるし、小説も書いてみたら?』と勧められて。おぎぬまさんご自身も小説を書き、『このミス』最終選考で大賞を逃したことがあったので、それなら私が敵を取ろうと応募してみることにしました」
「『このミス』の過去の傾向を勉強して、おぎぬまさんからミステリーのいろはを教えてもらいながら書き上げました。私はギャグマンガでデビューしたのですが、フリがあってオチがあるというつくりは、ミステリーに似ているんですよね。マンガ制作の経験を生かしつつ、ハードルの高い長編ではなく、短編の連作形式にしたことで書き切ることができました」
■心の謎に迫ることで人との関係が深まっていく
受賞作は、その名の通りパン屋を舞台にしたミステリー。パンとケーキの店〈ノスティモ〉でアルバイトをするマンガ家志望の大学生・市倉小春は、日々遭遇する小さな謎を持ち前の洞察力で解決していく。舞台やキャラクターの設定には、土屋さんの経験が生かされている。
「大学時代、パン屋で4年間アルバイトをしていたので、当時の経験を盛り込みました。主人公の小春には、当初自分を投影していましたが、それだとネガティブになりすぎてしまって。やっぱり主人公には、主人公たり得る何かがないとダメなんですよね。マンガの編集者からもとにかくキャラクターを立たせるよう言われていたので、小説でもその点を意識しました。小春は探偵役ですが、助手がいないため、すべてひとりで推理しなければなりません。そこで、ちょっと人見知りで人の言葉の裏を読むところはあるけれど、前向きなキャラクターにしました」
描かれるのは、人の心をめぐる謎。ひとつ謎を解くごとに小春を取り巻く人間関係が広がっていき、その和気あいあいとした雰囲気も、作品の魅力になっている。
「人の心を描く日常系ミステリーは、『それって隠す必要あった? 最初から話してくれればよかったのに』というお話になりがちです。隠すからにはそれなりの理由がないと、説得力が生まれません。そういった謎を解く過程では、必然的にその人の心に踏み込むことになりますよね。だからこそ、解いたあとにはその人とのつながりも深まります。それもあって、このシリーズではキャラクターを使い捨てにしないよう意識しました。キャラクター性を伝えるために会話も大事にしていて、謎解きとは直接関係のないおしゃべりもなるべく省かないようにしています」
■キャラクターのすれ違いと成長を描いた全5編
待望の続編では、ギャルのレナ先輩、堂前店長といったおなじみのメンバーに加えて高校生の新人バイト・杏樹も登場し、〈ノスティモ〉の毎日はさらににぎやかに。今回も、心の内側に迫る5つの謎が語られる。やる気十分の杏樹が、突然退職を申し出た理由とは。親友のために作ったウェディングケーキは、なぜ崩れてしまったのか。杏樹の先輩が見せた、怪しい行動の意味は? 筆致は軽やかだが丁寧に伏線が張られ、メロンパン、デニッシュなどパンの豆知識とともに謎が解き明かされていく。
「今回も、バイト時代の経験をもとにしたエピソードをいくつか取り入れました。例えば、焼きたてのメロンパンをオーブンから出す時、天板を台に打ちつけて内側の水蒸気を逃すのですが、勢いよく叩きつけるので何も知らない人には怒っているようにも見えてしまう。そういうすれ違いを入り口に、『解いてよかったな』と思える謎を考えていきました。謎解きが甘いと言われないように、ミステリーとしての作り込みを頑張ったつもりです」
いきいきとしたキャラクター描写は、続編にも受け継がれている。漫才のようにテンポのいい掛け合い、居心地のよい世界観も本シリーズの持ち味だ。
「2巻で最初に思い浮かんだのが、レナ先輩と後輩の杏樹ちゃんが売れ残ったフランスパンを奪い合うシーンでした。マンガでも『こういうシーンがあったらいいな』と、歌でいう“サビ”から思いつくことが多いので、小説も似たような作り方をしているのかもしれません。ギャグに関しては、アシスタント時代、おぎぬまさんが『ここ、もうちょっとボケられるな』と試行錯誤しながらボケの精度を高めていく姿を見て、私も影響されました。ユーモアミステリー作家としてのポジションを狙っていきたいです(笑)」
キャラクターの成長も大きな見どころだ。前作でマンガ家デビューが決まった小春だが、なかなか順風満帆にはいかない。悩んだり落ち込んだりしながら、少しずつ前進する姿を見ていると、つい応援したくなる。
「登場人物の成長、キャラクター同士のつながりは、シリーズものの醍醐味ですよね。今回は小春にマンガ家として次のステップを踏ませたいと思い、デビューしたものの続編がうまくいかず、悩む姿を描きました。私もマンガ家としてデビューしたものの、その後はボツが続き、次の読み切りが雑誌に掲載されるまで1年近くかかってしまって。不安定な職業を目指すわけですから、母親と険悪になった時期もあったし、小春と同じように母からのLINEをブロックしていたこともありました。前作は、結果的に“夢”がテーマになっていましたが、今回は“すれ違い”と“成長”を描いた作品になったのかなと思います」
全5章のうち、土屋さんのお気に入りは最終章「涙する塩パン」。かつて〈ノスティモ〉で働いていた湯浅は、塩パン大量発注を店長の許可なく引き受け、無断キャンセルされてしまう。この一件がきっかけで店を離れた彼は、東京で塩パンの移動販売を始めて有名に。そんな彼が大阪に凱旋し、店長に塩パン対決を挑む。勝負の行方、過去の事件の真相など見どころの多い章になっている。
「1章から4章までのキャラが登場する、明るくわちゃわちゃした話になりました。ここまでの集大成として楽しめますし、『そこで解決編が来るんだ』という珍しいつくりになっています。堂前店長が謎を解くのも新しいかな、と。小春は探偵役ですが、あくまでも大学生。周りの力を借りて真相を解明してもいいと思い、店長に活躍してもらいました」
小春たちの会話に笑い、鮮やかな謎解きに唸り、時折挟まれるメッセージにグッとくる。いつまでもこの世界に浸っていたいと思わせるシリーズとあって、末永く続くことを期待してしまうが……?
「シリーズは、あと1、2作で完結させる予定です。小春のマンガ家としての未来、〈ノスティモ〉のみんなの行く末を誠実な形で描けたらと思っています。今後も小説とマンガ、両方続けていくつもりですが、まずはこのシリーズを最後まで見届けていただけたら、うれしいです」
取材・文:野本由起 写真:首藤幹夫
つちや・うさぎ●1998年、大阪府生まれ。2023年よりマンガ家として活動し、『あぁ、我らのガールズバー』『見つけて君の好きな人』『文系のきみ、理系のあなた』『ORB』を発表。24年、第23回『このミステリーがすごい!』大賞で大賞を受賞し、25年、『謎の香りはパン屋から』で小説家デビュー。小説とマンガの二刀流で活動中。

『謎の香りはパン屋から2』
(土屋うさぎ/宝島社) 1650円(税込)
大阪府豊中市にあるパン屋〈ノスティモ〉でアルバイトをする市倉小春は、マンガ家志望の大学2年生。念願のデビューが決まってからも、店長の堂前やギャルのレナ先輩、初めてできた後輩·杏樹とともにバイト生活を続けていた。そんなある日、「来月は毎日でもシフトに入る」とやる気を見せて退勤した杏樹が、数時間後に退職したいと連絡を寄越してきて……。ふっくら温かい〈日常の謎〉連作ミステリー第2弾!
