名前を聞いてもピンとこない…「無名の世界遺産」が近年次々と登録されている納得のワケ【眠れなくなるほど面白い 図解 世界遺産】

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世界遺産は「世界の多様性」を映す鏡

 世界遺産条約は、欧米を中心に設立された国連の専門機関ユネスコにおいて採択されました。条約の原文が英語とフランス語で書かれていることからもわかる通り、その理念や活動に対する考え方には欧米の歴史観や文化的背景が反映されています。

 私たちはつい、欧米の価値観を「世界の基準」と考えてしまいがちです。しかし、世界には無数の文化や価値観が存在し、視点を変えれば物事の見え方も変わるはずです。何が「価値」か、何を「守るべき遺産」とみなすかは、さまざまな物差しから測る必要があります。世界遺産においても、保存性の高い石造建築を軸に登録制度が発展してきた経緯があり、石造りの城や教会が多い欧米に有利に働いてきました。一方、木や土を用い、建て替えや修復を繰り返しながら受け継がれてきた地域の文化はその価値が評価されにくい側面があります。実際、世界遺産全体の半数近くがヨーロッパと北米に集中しています。

 こうした偏りを是正するため、近年では世界遺産リストの地域的・文化的な不均衡を見直す「グローバル・ストラテジー」に沿った登録が進められています。その結果、名前を聞いてもピンとこないような遺産が登録されることも珍しくありません。それは価値の低い世界遺産が増えたからではなく、これまで光が当たらなかった文化や歴史にも目を向け、世界遺産を「世界の多様性」を映す鏡に近付けようとしているからです。もし、「無名」に思える世界遺産が存在するのであれば、それは私たちがまだ知らない視点が世界に残されている証拠かもしれません。

2025年は26件が追加登録された

2025年にフランス・パリのユネスコ本部で開催された第47回世界遺産委員会では、文化遺産21件、自然遺産4件、複合遺産1件の合計26件が登録されました。気になった世界遺産があればぜひ調べてみてください。

文化遺産

ファヤの先史景観(アラブ首長国連邦) 先史時代のサルディーニャ島の葬送の伝統:ドムス・デ・ヤナス(イタリア共和国) ホッラマーバード渓谷の先史遺跡群(イラン・イスラム共和国) インドのマラーター王国の軍事景観(インド) ムルジュガの文化的景観(オーストラリア連邦) マンダラ山脈のディ・ギッド・ビィの文化的景観(カメルーン共和国) カンボジアの記憶の場:抑圧の中心から平和と反省の場へ(カンボジア王国) ミノア文明の宮殿群(ギリシャ共和国) 17世紀ポート・ロイヤルの考古学的遺跡群(ジャマイカ) 盤亀川沿いの岩面彫刻群(大韓民国) 古代ホタールの文化遺産群(タジキスタン共和国) 西夏王陵群(中華人民共和国) バイエルン王ルートヴィヒ2世の宮殿群:ノイシュヴァンシュタイン城、リンダーホーフ城、シャッヘン城、ヘレンキームゼー城(ドイツ連邦共和国) サルディスとビン・テペのリュディア墳丘墓(トルコ共和国) パナマの植民地時代の地峡横断ルート(パナマ共和国) カルナックとモルビアン沿岸の巨石群(フランス共和国) イエン・トゥー・ヴィン・ニィエム・コン・ソンおよびキエップバックの記念碑と景観の関連遺産群(ベトナム社会主義共和国) ムランジェ山の文化的景観(マラウイ共和国) セランゴール森林公園 マレーシア森林研究所(マレーシア) 聖地群を経てウィリクタへと至るウィハリカの道(タテウアリ・ウアフイエ)(メキシコ合衆国) シュルガン・タシュ洞窟の岩絵群(ロシア連邦)

自然遺産

ビジャゴス諸島の沿岸・海洋生態系:オマティ・ミンオ(ギニアビサウ共和国) ゴラとティワイの複合地域(シエラレオネ共和国) ムンス・クリント(デンマーク王国) ベルアス川渓谷(ブラジル連邦共和国)

複合遺産

金剛山(朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮))

【出典】『眠れなくなるほど面白い 図解 世界遺産』監修:宮澤 光

【監修者紹介】
宮澤 光(みやざわ・ひかる)
NPO法人世界遺産アカデミー主任研究員。北海道大学大学院博士後期課程を満期単位取得退学。仏グルノーブル第Ⅱ大学留学。2008年より現職。跡見学園女子大学非常勤講師。世界遺産に関するさまざまな書籍の編集・執筆・監修を手掛けるほか、「チコちゃんに叱られる!」(NHK)などの多くのメディア出演や、全国各地で100本を超す講演・講座を実施している。著書に『13歳からの世界遺産』(マイナビ出版)、『世界遺産のひみつ』(イースト・プレス)など。