介護人材確保に向けた国の手立ては有効か? 都道府県「新プラットフォーム」の実効性と現場が抱えるギャップ

写真はイメージ(buritora/Shutterstock.com)
近年の医療・介護制度では、生産年齢人口が激減する「2040年」を視野に入れた見直し論議が本格化している。これまでは人口的にボリュームが大きい「団塊世代」が75歳以上を迎える「2025年」を意識した制度改革が目指されていたため、一つの節目を迎えたことになる。さらに、最近の物価上昇で医療・介護事業所は経営難となっており、これまでとは違う施策も展開されようとしている。本連載では、「分水嶺」を迎えつつある医療・介護制度の見直し論議や現場の動向を追う。
本稿では、介護人材に関する最新の政策動向を取り上げる。具体的には、介護人材の確保に向けて、2025年12月の審議会文書では、都道府県を中心とした関係者のプラットフォームを作る考えが盛り込まれており、その政策の有効性を問う。さらに、国からは表立って示されていない選択肢として、過疎地などで高齢者が集まって住む「集住」の必要性も指摘する。
厚労省が描く「新プラットフォーム」の新機軸、地域の実情に応じた対応に期待
広く知られている通り、介護現場の人手不足は常態化しており、全産業平均と比べて低水準にとどまる給与の引き上げ策が10年以上にわたって講じられてきた。その結果、月額平均で10万円以上の給与アップが実行された。
しかし、近年は物価上昇と他の産業の賃上げが進み、事業所の経営悪化が顕在化している。このため、2025年補正予算と2026年当初予算でも最大で月額1万9000円の給与引き上げが図られたほか、2027年度に予定されている介護報酬改定に向けて、高市早苗首相は「介護サービス事業者の経営状況などをきめ細かく把握した上で、物価や賃金の上昇などを適切に反映するための対応を実施していく」と述べている。
さらに、ケアに直接関係ない記録業務を中心に、デジタル技術を活用して効率化を図る「生産性向上」、外国人労働力の拡大、元気な高齢者などに働いてもらう「介護助手」の拡大──などの施策も進められている。
このほか、厚生労働省は「プラットフォーム」という新機軸も打ち出した。これは別掲図の通り、都道府県を中心に関係団体が連携しつつ、「地域の実情」に応じて課題解決を探ることが想定されており、2026年特別国会に提出した介護保険法改正案では、プラットフォームを各都道府県で設置するための根拠規定が盛り込まれている。

ハローワークや養成施設も連携する「2層構造」、プラットフォームが目指す絵姿
図に込められた意味については、このように整理できる。都道府県が中心となり、介護保険財政を運営する市町村、専門職で構成する職能団体、ハローワーク(公共職業安定所)、厚生労働省所管の介護労働安定センター、事業者団体、介護福祉士の養成施設などが連携する「第1層」の会議体を組織してもらう。
さらに、第1層よりも狭い圏域を対象に、「人材確保・定着」「職場環境の改善、生産性向上・経営支援」「介護のイメージ改善、理解促進」などテーマごとに課題を話し合う第2層の会議体を置くことで、「地域の実情」に沿った施策をきめ細かく進める――。
絵姿は非常に美しく、論理的にも間違っていない。しかも、検討過程では同様の取り組みを独自に進める京都府などの事例も審議会で報告されており、絵空事とは言い切れない。
つまり、介護保険の運営主体は市町村だが、過疎地や小規模な団体を中心に、単体で人材確保に取り組むのは難しい。さらに、いくら行政が旗を振っても、看板や掛け声だけで終わってしまうため、業界団体や養成施設との関係構築が欠かせないし、ハローワークなど労働部門との連携も必要になる。
しかも、同じ都道府県の中でも地域の状況次第で人材確保を巡る課題は違うし、対応策も異なる。このため、広域自治体である都道府県に「音頭」を取ってもらい、それぞれの「地域の実情」に応じて、市町村や現場を支援するための体制を構築してもらおうというわけだ。

2025年12月に行われた社会保障審議会の介護保険部会(写真:共同通信社)
「地域の実情の実情」に迫る、現場から乖離した都道府県に対応は不可能?
ただ、厚生労働省の意図通りに事が運ぶか、もう少し「地域の実情の実情」を細かく見る必要がある。結論を先取りすると、厚生労働省が期待している役割を都道府県が果たせるか、筆者は疑問に感じている。
そもそも介護保険における都道府県の役割は限定的だった。これまで都道府県の権限というと、多くの介護保険サービスに関して、事業所の指定権限を持っているほか、3年に一度の「介護保険事業支援計画」も作ることになっている。
しかし、事業所が提供している介護サービスの中身に接しているわけではないし、介護保険事業支援計画に関しても、現実は運営主体である市町村が策定した介護保険事業計画を「ホッチキス」で止めているような状態である。いわば都道府県のスタンスは「受け身」であり、厚生労働省が描く絵姿と都道府県の現状にはギャップが存在する。
こうしたギャップは制度改正の経緯でも説明できる。実は、前回の見直しに当たる2024年度改正に際して、厚生労働省は都道府県に対し、現場からの相談に応じるワンストップ窓口の設置を促していた。
これが図中央の「第1層レベル」の右側に小さく出ている「介護生産性向上総合相談センター」(以下、相談センター)であり、当時の担当者は専門誌のインタビューに対し、「地域の関係者によるコンセンサスに基づいて、相談窓口も含めて推進体制をつくってほしい」と述べていた(2023年1月1日『シルバー新報』)。
ところが、わずか3年後に相談センターを包摂させるような新たな組織を作る方針が示されたことを考えると、一部の例外を除き、相談センターが機能していなかった可能性が浮き彫りになる。介護人材の確保の難しさを考えると、「屋上屋を重ねるような見直し」と皮肉るのは気が引けるが、新しい組織を作っても事態が改善するとは思えない。
さらに、こうした点を筆者が痛感する一幕もあったので、紹介したい。
今年前半、業界団体の県支部から招待をいただいた際の出来事である。イベントは筆者による講演の後、県の担当者と業界団体、施設経営者の意見交換に移った。
その県では人口減少が進んでおり、危機意識を持っている現場から生産性向上や人材確保に関して次々と質問や意見が寄せられ、県の担当課長は「回答できること」「分からないので、確認すること」「できないこと」を明確に分けつつ、非常に丁寧に対応されており、好感を持った。
しかし、答えの大半は国の制度解説であり、現場の悩みに寄り添うような内容とは言い切れなかった。この場面を見て、「現場や事例に接していない都道府県の担当者に多くを期待するのは酷なのでは」という思いを強くした。
要するに、現状では厚生労働省が期待するような役割を都道府県が果たすのは相当、難しいと言わざるを得ない。恐らくプラットフォームが形成されたとしても、全体としては、実質的な議論が深まらないまま、形式主義的な運用にとどまる可能性が高く、生産性向上を支援するコンサルタントに丸投げするような展開さえ予想される。
プラットフォーム成功に不可欠な、自治体の「思考と行動の転換」
しかし、筆者は都道府県が「能力がない」とは全く思っていない。むしろ、25年前の地方分権改革を経て、自治体の政策立案能力は高まっていると思っている。実際、新型コロナウイルスの病床確保やワクチン接種などでは、右往左往する厚生労働省を尻目に、独自の対応策を実践した自治体が多く散見された。
むしろ、重要なのは「能力の向上」ではなく、「思考と行動の転換」である。つまり、今までの都道府県の職員は国の法令や通知を丹念に読み込み、「国の制度で対応可能なこと」「国の制度で足りない部分」について、独自の施策が展開できるか検討していた。あるいは隣の自治体を含めて、実施されているかどうかチェックし、「好事例」を模倣することが多かった。
これに対し、プラットフォームの運営では「地域の実情」を丹念に見た上で、関係者と協議しつつ、それぞれの地域の優先順位を設定することが欠かせず、今までとは異なる発想と行動が求められる。こうした都道府県が1つでも増えるように、伴走的な支援を国や地元大学の有識者、コンサルタントなどに期待したい。
住民の関係性を断ち切らない高齢者の「集住」という新たな選択肢
介護人材の確保と並んで必要な対応策として、高齢者の「集住」の選択肢も挙げる。
集住というと、これまでもコンパクトシティの必要性が強調されており、新味性は少ないように映るかもしれない。実際、国土交通省が「まちなか居住」に向けた都市計画制度の見直しなどに取り組んできた。
しかし、筆者は従来の意見について、違和感を持っていた。批判を覚悟しつつ、これまでの議論を要約すると、「人口減少地域に住んでいると、インフラなどの維持管理コストが高くなるので、中心部に集まって下さい」という論理に立っており、こうした言説を述べることに筆者自身、躊躇を感じていた。
水害常襲地帯の大都市部に人が住めるのは江戸期から営々とインフラを整備・更新してきたためであり、こうした蓄積の上に住む人間が「田舎に住むのは非効率」と述べるのは「上から目線」に感じられた。
これに対し、筆者が意識する「集住」では、要介護状態の高齢者や家族に対し、「人口減少が進んでいる中、人材確保には限界があるため、安心な暮らしを確保するため、住み慣れた地域の近くで、集住の選択肢を検討してください」というメッセージになるため、「都会の論理」が持つ傲慢さは一定程度、薄れると自認している。
しかも、集落の人々が遠く離れた場所にバラバラに移住するのではなく、近隣の中小規模都市に集落ごと移れる選択肢を用意すれば、住民同士の関係性を断ち切らずに済む。
もちろん、憲法で保障された「居住の自由」の関係で、自治体が住民に対して移住や集住を強制できない。それでも例えば自治体が人口3万〜5万程度の中心部に高齢者住宅を整備した上で、医療や介護サービスを確保するという選択肢を示すことは可能と思われる。
国としても、モデル地域の指定などを通じて、自治体や現場に対する支援策を展開する時期にきている。
筆者:三原 岳
