『誰だって無価値な自分と闘っている』(JTBC公式サイトより)

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 ク・ギョファンの最新作『誰だって無価値な自分と闘っている』がNetflixで独占配信された。映画監督を志して奮闘するも、20年経っても自分だけが下積み生活から抜け出せず、かつては同じスタートラインに立っていたはずの映画仲間たちからも疎まれるようになってしまったファン・ドンマン(ク・ギョファン)。監督デビューを果たした友人たちの前では虚勢を張る一方、日の目を見ないシナリオを大事に抱え、うまくいかない現実に絶望するなか、仕事でストレスを抱える映画会社のプロデューサーであるピョン・ウナ(コ・ユンジョン)と出会い、心の平安を取り戻し再生していくヒューマンストーリーだ。

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※以下、ネタバレを含みます

 のっけから、ドンマンをわずらわしく思っている映画監督パク・ギョンセ(オ・ジョンセ)の恨み節が炸裂する。彼はドンマンを含む映画界の集まり、通称「8人会」のひとりだが、ドンマンの無神経で不遜な態度が気に入らない。それは他のメンバーも同様だったが、誰も彼の態度を改めることができないまま困惑していたある日、見かねた映画会社の代表チェ・ドンヒョン(チェ・ウォニョン)は、オフィスに彼を呼びつける。

 ドンヒョンの下で働いているウナは、預かっていたドンマンのシナリオについて意見するよう誘導され、シナリオをぶった斬る「斧」という別名のごとく、ダメ出し。さらにドンヒョンは、彼の才能のなさを指摘して監督デビューを諦めるよう、残酷な言葉を浴びせるが、「なぜ俺の人生に指図する?」と闘うドンマンなのだった。

 20年も夢を諦めずに生きるのはどんな気持ちだろうか? そのために手放した平穏な道もあったはずだ。そばには成功した仲間がいて、自分だけが取り残されていく疎外感とプレッシャーの中で、映画監督になりたいという夢のかけらを手放せないドンマン。想像を絶する強烈な劣等感を必死で隠し、表面上は平気なふりを装うために、いつしか人前ではシニカルな厄介者となってしまったが、本当は「不安でなくなること」を求めている、弱き者でもある。

 そんな彼にはぶっきらぼうながらも、8人会のアジトに「ドンマン出入り禁止」の張り紙を見つけて闘いに行く、弟思いの兄ファン・ジンマン(パク・ヘジュン)や、8人会の中で唯一、ドンマンに寄り添う友人イ・ジュンファン(シム・ヒソプ)という理解者がいる。そして、疎外感を覚えると鼻血が出てしまうウナは、周りがドンマンの悪口を言う様子を聞いてつい反論してしまうほど、彼を気にかける。ウナ役のコ・ユンジョンはつい最近、福士蒼汰と共演した『恋の通訳、できますか?』できらきらとした女優役を見せていたが、今回は生きづらさを抱える不器用な女性を体現。何より、焦燥するドンマンを演じるク・ギョファンの一挙手一投足に振り回されるほど、彼らの世界に引き込まれる。

 ここで、ク・ギョファンの主な出演作を振り返ってみたい。1982年12月14日生まれの、今年44歳。演技はもちろん、製作から監督、脚本とすべてをこなし、インディーズ映画界で独自の地位を築く。2016年、映画『夢のジェーン』でトランスジェンダー役を演じ、第54回百想芸術大賞の映画部門男性新人演技賞を受賞し、ほかの映画賞でも新人賞などを獲得し俳優として注目を集める。

 確かな演技力が認められ、2020年には腹黒い部隊長役で『新感染半島 ファイナル・ステージ』、2021年には北朝鮮の参事官役で『モガディシュ 脱出までの14日間』、日本では2022年公開の『なまず』はプライベートでも長年のパートナーであるイ・オクソプ監督の初長編映画で、俳優として出演するほか脚本、製作、編集も担当。2023年には殺し屋役でNetflix映画『キル・ボクスン』、2024年には北朝鮮の高官役として『脱走』に出演。さらには2026年5月21日にはヨン・サンホ監督の新作ゾンビスリラー『群体(原題)』が韓国で公開され、ムン・ガヨンとのラブストーリー『サヨナラの引力』は7月3日に日本で全国公開される。

 こうして一部の出演映画を取り上げてみても、ク・ギョファンがいかに多彩な役を演じていて引っ張りだこなのかがわかるはずだ。もちろんドラマの出演も多数あり、第58回百想芸術大賞のTV部門男性新人賞を受賞した脱走兵の追跡部隊(D.P.)役の『D.P. -脱走兵追跡官-』シリーズ(2021年~2023年)、特別出演した2022年の『ウ・ヨンウ弁護士は天才肌』、チンピラ役の2024年の『寄生獣 -ザ・グレイ-』など、日本でも評判の作品ばかりだ。

 独立映画から大作まで、縦横無尽に駆け抜ける、ク・ギョファン。演技から脚本まで務めることができるスペシャルなスキルで独特の異彩を放っている。そんな彼の最新作『誰だって無価値な自分と闘っている』は、『マイ・ディア・ミスター~私のおじさん~』『私の解放日誌』の脚本家パク・ヘヨンと、『椿の花咲く頃』『サムダルリへようこそ』のチャ・ヨンフンが演出を務めていることもあって、身につまされるシーンがありながらも、またもや傑作になる予感しかない。

 エピソード2でドンヒョンに反旗を翻したドンマンは言った。「輝ける者だけで世界を作っても全然輝かない」「俺は無価値さの果てで輝く真実をすくい上げる。俺の輝くストーリーだ。誰にも邪魔はさせないぞ」その言動を見て、初めて満面の笑みがこぼれるウナ。果たして、魂を削る者たちの下克上なるか。ドラマの行方とともに、ク・ギョファンの活躍から目が離せない!

(文=かわむらあみり)