三谷幸喜、古沢良太、根本ノンジ……【天下のフジテレビドラマ】人気脚本家でも惨敗する真相
1990年代から2000年代にかけて、日本の若者カルチャーを牽引した “月9ドラマ”を筆頭に、「ドラマのフジテレビ」と呼ばれた時代があった。
トレンディドラマというジャンルを作り出した『東京ラブストーリー』『101回目のプロポーズ』に始まり、木村拓哉主演の『ロングバケーション』『ラブジェネレーション』『HERO』、松嶋菜々子主演の『やまとなでしこ』など、世帯視聴率30%超えを記録する国民的ヒット作が立て続けに放送され、「月曜日の夜9時は日本中がフジテレビを見ている」という神話が存在していた。しかしながら、その栄光の面影はもはや失われてしまっている。
現在放送されているドラマは、どれほど評判が良くても8〜10%台に届けば及第点で、今をときめく人気俳優や有名脚本家を起用しても、3%台前半に沈むケースすら珍しくなくなっている。
その中でもフジテレビのドラマの「惨状」は群を抜いている。特に深刻なのが、同局が新たな鉱脈と位置づけてきた水曜午後10時枠だ。
昨年の秋クールに放送された三谷幸喜脚本の『もしもこの世が舞台なら、楽屋はどこにあるのだろう』は、初回の世帯視聴率は5.4%(ビデオリサーチ社調べ、関東地区)でスタートしたものの、最終回は2.9%という歴史的な惨敗を喫した。
『リーガル・ハイ』脚本家のドラマも惨敗
また、先日まで放送されていた古沢良太脚本の『ラムネモンキー』も失敗に終わった。古沢といえば、『リーガル・ハイ』シリーズや『コンフィデンスマンJP』シリーズ、『デート〜恋とはどんなものかしら〜』など、フジテレビに数々のヒット作をもたらしてきたヒットメーカーだ。
そんな古沢が民放連ドラを手掛けるのは実に8年ぶりということもあり、局全体でさまざまなプロモーションを展開。反町隆史、大森南朋、津田健次郎というアラフィフ実力派俳優をそろえた“1988年の世界を舞台にした男たちの青春群像劇”の触れ込みで、放送前から高い期待値を集めていた。しかし、蓋を開けてみれば、第5話は世帯視聴率2.8%、最終回も3.4%という“爆死”と言わざるを得ない、不名誉な数字に沈んでしまった。
さらに、月9枠で放送された根本ノンジ脚本の『ヤンドク!』も、国民的ヒロイン・橋本環奈を主演において初回こそ世帯視聴率8.1%を記録したものの、次第に視聴者が離れていって最終回では5.9%まで落ち込んでしまった。
なぜ、フジテレビのドラマはここまで落ち込んでしまったのだろうか。大物脚本家を起用しても数字が取れない背景には、さまざまな要因があるようだ。
他局で働くドラマプロデューサーやディレクターたちのコメントを交えながら、フジテレビのドラマが窮地を迎えた理由を挙げていく。
不祥事による大幅な製作費のカット
フジテレビのドラマが視聴者から見放されてしまった要因を、他局でプライム帯(午後7時〜11時)ドラマのプロデュースを手掛けるベテラン社員のA氏が語る。
「最大の要因は深刻な制作費のカットでしょうね。かつては金に糸目をつけず、大規模なセットと有名キャストを揃えるのがフジテレビの流儀でしたが、それが困難になった。
その理由は周知のとおり、局員や出演タレントの不祥事でスポンサー離れが一気に加速したから。かつてフジはプライム帯ドラマの制作費として1話あたり3000万円以上を投じていた時代もありましたが、現在は1話1500〜2000万円近くにまで切り詰められていると聞いています。Netflixの1話あたりの制作費は1億円以上と言われていますから雲泥の差ですよね……。
代表的なコストカットの例でいえば、橋本環奈さん主演の『ヤンドク!』でしょう。本格的な医療シーンにアニメーションを用いたり、病院内のシーンを極力減らして、フジの湾岸スタジオや本社の廊下で撮影したりしていた。
また、出演者のギャラが抑えられていた…との話も聞きます。現場はもちろん、出演者のモチベーションもかなり下がっていた。これでは良い作品を作ることは無理でしょう」
“楽しくなければテレビじゃない”というキャッチコピーはどこへやら……。現在のフジテレビから聞こえてくるのは嘆きばかりのようだ。
大御所に忖度…?
また、制作会社で民放ドラマのディレクターを務めるB氏は、三谷幸喜や古沢良太といった大物脚本家のドラマが低迷した理由について見解を述べた。
「三谷さんや古沢さんの才能が枯渇したわけではない。問題は、フジテレビ側の大御所に対する忖度とイエスマン気質にあると思います。
本来、ドラマ作りは脚本家とプロデューサーが対等に意見をぶつけ合い、時代に合ったチューニングをしていく。しかしフジテレビには大御所脚本家に対して『今の視聴者には受けない』『この展開で物語を進めていくと単調になる』といった苦言を呈せるプロデューサーが限りなく少ない。脚本家のご機嫌を取るために、言いなりになっているのが実態です。
三谷さんの『もしがく』も古沢さんの『ラムネモンキー』も1980年代の熱気を描こうとしながら、どちらも内輪受けのノスタルジーに終始してしまって、ストーリー展開も単調だった。きっと“昭和を描けばヒットする”というオーダーだけを聞いて、本人主体で企画を構築したのでしょう。
確かに昨今のドラマ視聴者は中高年層ではありますが、『もしがく』で描かれていた小劇場界隈の葛藤や『ラムネモンキー』で登場した映画やサブカルチャーの知識に深く共感できる人は少なかったのでは? どちらも本人の趣味や嗜好に特化しすぎていた。昭和ネタがヒットするのはあくまで作品の内容次第ですよ。
もちろん、プロデューサーも理解していたとは思います。理想としては『不適切にもほどがある!』(TBS)のようなコメディ要素やテンポ感を望んでいたはず。でも、それを言えなかったのでは」
一方で、日曜9時枠でヒットを連発しているTBSや『相棒』といった盤石のシリーズを持つテレビ朝日は違う。
「TBSの福澤克雄監督やテレ朝のベテランプロデューサーは、相手がどれほどの大御所脚本家であろうと『このセリフは面白くない』『視聴者はここで離脱する』と平気でダメ出しをします。
作品を良くするためなら、何度でも書き直しを要求する。時には激しい口論になって途中降板してしまう作家もいたそうですが……。ただ、それぐらいの熱量でぶつからないと時代に合ったドラマは作れませんから」(前出のB氏)
後編記事『エース級有能クリエイター社員が“逃走中”…【天下のフジテレビドラマ】のいま』では、フジの危機的状況をより加速させるクリエイターの退社事情についてお届けする。
