広告業界とAIの相性が抜群にいいという

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「将来、AIに奪われる職種は何か?」という議論が交わされるようになって久しい。そうしたなか、出版業界とりわけネットニュース界隈では、既にAIはなくてはならないものになりつつある。日々量産されるウェブ記事の中には最後に「この記事はAIで生成したうえで、編集部が最後にチェックを入れています」という注意書きがなされることも。【ネットニュース編集者・中川淳一郎】

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「オレの存在意義はなくなった」

 私自身も原稿を書き終えた後、AIに「この原稿を読んでファクトチェックと校正をしてください」と入れることがある。すると「ここで言う『場所に紐づいたSNS』とはPinterestではなく、Foursquareではありませんか?」などと、細かく指摘をしてくれる。

広告業界とAIの相性が抜群にいいという

 また、サッカーのイタリア代表が3大会連続でW杯進出を逃したことに関する記事を作る際も、かつてイタリアが強かった1992〜2006年までのグループリーグ第1戦のスタメンを大会ごとに教えてもらった。それをベースにイタリアサッカーが過去にいかに強かったか、という振り返りをしていくのだ。原稿には、AIやネットではカバーできない、私が記憶している、当時、サッカー通と議論したイタリア代表の強さに関する内容なども加え、原稿を紡いでゆく。AIと人間の共同作業だ。

 このように、文筆業界でもAIはなくてはならないものになりつつあるが、最近、「広告業界の方がその度合いは激しい」と関係者から立て続けに聞いた。「AIのせいでオレの存在意義はなくなった」とまで言う人もいる。というのも、広告の場合、最後のアウトプットに至るまでに膨大な準備と企画書・書類の作成が必要で、この作業は極めてAIとの相性がいいのだ。

 文筆業、特に自分の署名原稿を出すような人間は、AIを使った形跡がバレると当然のごとく糾弾される。一方、広告の企画はあくまでも内部資料であり、外部に出すものではない。だからこそ、準備段階でAIが力を発揮するのだ。

 具体的に企画を提案するにあたっては以下が必要になってくる。

(1)現代の時代背景分析
(2)ターゲット像の設定
(3)当該商品は(1)と(2)にどのように合っているか
(4)競合分析
(5)当該商品の競合に対する優位性はどこにあるか
(6)それをアピールするにあたって、適切な表現方法・露出場所はどこになるか
(7)類似の企画で過去の成功事例/失敗事例/炎上事例
(8)SNSでの拡散見込みと、記事化促進のために必要なキーワードの設定
(9)こうした企画の中で「松竹梅」の3種類を出すことが多い

AIをうまく使える人材がよりフィーをもらえるようになるビジネスモデル

 これらは全て、“なんとなくのフィーリング”でクライアントにプレゼンすることはできない。「何が根拠で」「何が出典で」「過去の似たような企画の効果はいかほどだったか?」に加えて、「パクリ」と言われないためにも他社の表現を徹底的に確認する必要が出てくる。松竹梅とは「松=お金がかかるもの、ないしは尖った冒険心のある企画」、「竹=中庸でそこそこ尖っているが、安心感も兼ね備えた企画」「梅=金額が安く石橋を叩いた確実な企画」といったところだが、これもAIに考えてもらえばいい。

 定年間近の人と話をすると「AIはよく分からん! まぁ、オレはそんなに使わないでもなんとか逃げ切れそうだがな!」と妙に嬉しそうだった。一方、広告会社との会議を定期的に行っているが、若手は上記(1)〜(9)の仕事をするのに手間がかからなくなったという。

 さらに、これらに時間がかからなくなったため、残業時間は減り、さらには、外注費用が減ったという。というのも、もともと、広告ビジネスは大手広告会社がアイディアは出すものの、制作会社に様々な書類やコンテ、イベントの進行台本等を発注し、「進行管理費」を払う商習慣があったのだ。だが、この若手氏曰く「AIをうまく使える人材がよりフィーをもらえるようになるビジネスモデルになるかもしれない」と語った。

AI以前の時代に起きた「東京五輪エンブレム騒動」

 そして、昭和から平成にかけ、糸井重里氏や仲畑貴志氏、佐藤雅彦氏といった、スターコピーライターやCMプランナーは多数誕生したが、今後はそうした人々は輩出されにくくなるかもしれない。昨今の広告業界では、キャンペーン全体を構築できたり、大拡散するクリエーターのスターは存在するが、AIの活用はその流れを強くしていくかもしれない。商品コンセプトやパッケージに始まり、広告やキャンペーン全体を、AIを駆使して組み立てていくようなスーパープロデューサーである。

 こうした時代になると、返す返すも2015年の「東京五輪エンブレム騒動」の時代にAIがあったら……と思ってしまう。一旦採用されたエンブレムに「パクリ疑惑」が勃発し、撤回に追い詰められた件だ。あの時、「全く違うデザインを見つけることは難しい」などと広告業界の人々は擁護したが、AIがあればより厳密なチェックができたかもしれない。ただ、あのエンブレムはAからZまですべての文字が綿密に作られているため、私自身はオリジナリティがあったとは思っているが……。

 しかし、あの時デザイナー氏がダメージを負ったのは、同氏デザイントートバッグのキャンペーンで30種類中8種類に剽窃疑惑が出たことである。これもAIを使っていれば、回避できたかもしれない。さらには、プレゼン資料で、羽田空港の写真が登場したが、これはとある外国人観光客の撮影した写真を流用したもの。内部資料ではよくやることではあるものの、さすがに五輪という公過ぎる場では相応しくないとこれも糾弾された。だが、AIでこの画像を作れる時代だったならば……と今となっては思ってしまうのである。

ネットニュース編集者・中川淳一郎

デイリー新潮編集部