【ネタバレ】『海に眠るダイヤモンド』いづみの正体が判明 相関図に“名字”がなかった理由
人が口を閉ざすのには理由がある。言葉を発しないことで、守られるものがある。日曜劇場『海に眠るダイヤモンド』(TBS系)第4話では、いつも賑やかな端島の人々たちの口には出せない言葉たちが描かれた。それも、これまでのように現代を生きるいづみ(宮本信子)から話されるのではなく、鉄平(神木隆之介)の日記を玲央(神木隆之介・一人二役)が目を通すという形で。その構図に、端島の人々の沈黙が守られ続けているように思えた。
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ときは、1958年7月。すっかり島に馴染んだリナ(池田エライザ)だったが、いまだに理解できないことがあった。それは百合子(土屋太鳳)の朝子(杉咲花)への意地悪な態度だ。ひょっとしたら、恋人・賢将(清水尋也)の本当に好きな人が朝子であるという事実が気に食わないのかなとも思った。しかし、彼女たちの間にはもっと複雑な事情があったのだ。
長崎に原爆が落とされた、あの日。百合子は母と姉と浦上天主堂に向かうことになっていた。だが、乗り気のしなかった百合子は、幼なじみたちと遊びながら身を隠すことに。すると、朝子がちょっとしたイタズラ心から百合子の母と姉に声をかけてしまう。見つかった百合子は、そのまま端島から長崎へと向かった。
なんてことのない日常のひとコマ。ともすれば、思い出にすら残らないような、ささいなやり取りで終わるはずだった。だが、百合子にとっては一生忘れられない場面になってしまった。あのとき朝子が母たちに声をかけなければ、あの日時に、あの場所にいることはなかったかもしれない。姉が死ぬことも、母が重症を追うことも、そして何より百合子自身が喪失の日々に苦しむこともなかったかもしれない。そう何度も何度も思い返さずにはいられない場面になってしまった。
もちろん朝子に悪気はなかったし、彼女を責めたところで何も事態は好転しないとはわかっている。それに、百合子にとって朝子が大事な幼なじみのひとりであることは変わらない。だから、百合子は朝子に思いの丈をぶつけることはしなかった。しかし、“許せない相手”に変えられてしまったことに対して、すべてを飲み込めるほど大人でもなかった。
毎年、同じ場所でかき氷を売る朝子に「羨ましいわ、単純で」と嫌味を言った百合子。それは決して皮肉などではなく、子どものころのまま何も“変えられることなく”生きている朝子を心から羨ましく思っての言葉だったのではないだろうか。純粋で、無垢で、悩むことなく小さな世界で生きている朝子が、妬ましかったのだろう。
あの日、一緒にいた鉄平(神木隆之介)と賢将(清水尋也)も、百合子がそうした葛藤を抱えていることを知っているものの、2人にどう声をかけたらいいのかわからないでいた。あの日から、10年以上経ってもなお、言葉にならない思いを各々が胸に秘め、努めて明るく日常を過ごしてきたのだと知る。
それは、百合子たちだけではない。鉄平の両親もまた戦争で亡くした我が子たちについて、ずっと心を痛め続けてきた。国民として名誉なことだと思って息子を戦場に送り出した。飢えさせるよりはと思って親戚のもとへ娘たちを疎開させた。しかし、結果として我が子を死なせることになってしまった。
鉄平の父・一平(國村隼)は苦悶する。賢将の父で炭鉱長・辰雄(沢村一樹)は、あの戦争で子どもを1人も死なせることはなかったと聞いている。辰雄のように自分にもっと学があれば、息子や娘たちを生かす道を見つけられたのかもしれない、と。
悲劇に見舞われたとき、誰もが考えずにはいられない。もし、あのとき違う判断をしていたら、今とは異なる未来があったのではないか。もっとできることがあったのではないか……。人は、そのときどきで最善を尽くして生きているはずだ。だが、振り返ってみると、「あのときが望まない結末への分岐点だった」と思わずにはいられない瞬間がある。
ひとりでは背負いきれない厳しい現実。きっと苦しい思いをそのまま吐露して、誰かに「間違ってない」「正しかった」と言ってもらえたら、少しは心が軽くなるだろう。だが、言葉は発した途端に、波となって世界に影響を及ぼす。誰かの心に押し寄せ、時には飲み込んでしまうことも。だから、沈黙することで自分自身が防波堤になる。大事な人の心を守るために。凪いでいる今を壊さないために。そして、自分自身の罪と向き合い続けるために。
あの戦争で何を見たのか。どうやって生きて帰ってきたのか。鉄平の兄・進平(斎藤工)は何も語らないという。それは、話すことで聞く相手の心を乱す話しかないということだからではないかと察する。人生には話せない過去を背負い続ける覚悟も必要になる場合があるということ。そうしなければ生きていくことが難しいくらい過酷な出来事が起こるということ。それを知っているからこそ、進平はリナの背景も詮索しなかったのかもしれない。
隠し持っていた大金や銃を見れば、リナが端島にやってきた事情が穏やかではないことは想像がつく。慌てて取り繕おうとするリナに対して、進平は静かに銃を手に取り、年式を言い当てながら慣れた手つきで操作する。その姿を見せるだけで、同じような境遇をくぐり抜けて生き繋いできた仲間なのだと、言葉なしに語りかけているように思えた。
はっきりと言葉にはしなくとも、その心情が伝わってくることもある。母の形見となったペンダントが見つかって号泣する百合子の前にさり気なく立った賢将に、彼女の涙をそっと隠そうという気遣いが見えた。朝子が百合子の着付けた浴衣に身を包んで肩にもたれかかったのは、長年の意地悪に語られない理由があったことを察して、許しているという気持ちの表れだろう。
そして精霊船のお供えを進平がリナに、鉄平が朝子に、賢将が百合子にそれぞれ手渡していたシーンは、今の彼らの気持ちが誰に向かっているのかが見えるようだった。特に、島を出ていこうとしていたリナに、進平が「端島の掟」として「端島のお供えを食べたら来年返さなきゃ」と言って暗に引き止めるシーンには痺れた。
そんな端島の人々の思いに文字を通じて触れた玲央は、何を思ったのだろうか。どうやら玲央は、母親とは疎遠になっており、父親に関しては名前も顔も知らないという。自分のルーツもよくわからない彼にとって、いづみが語る端島の歴史はどこか遠い世界の話で、ピンとこなかったかもしれない。だが、自分がいづみの隠し孫かもしれないと言われると話は大きく変わる。
もしかしたら、いづみの忘れられない人である鉄平と自分は他人の空似などではないのかもしれない。だとしたら、端島の人々の思いは今の自分にも託されているものだとしたら……。その真実を知ることが玲央にとって正解になるのか。あるいは、望まぬ未来への分岐点になっているのだろうか。それは進んでみなければわからないのが、また運命の意地悪なところだ。
(文=佐藤結衣)

