【ホープフルS】レガレイラが牡馬を一蹴!才女が女王に変わる瞬間

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2023ホープフルS 牝馬のレガレイラが優勝 写真:東京スポーツ/アフロ

「あれ、35秒0だったの?」――

レガレイラの上がり3ハロンの時計を見て、筆者は思わず、こうつぶやいてしまった。

上がり3ハロンの時計がメンバー最速なのは間違いないし、冬の中山の芝で2歳馬が記録する時計としては速い部類だが、体感では33秒台の時計が出ていたような......そう感じてしまうほど、抜群の切れ味だった。

レガレイラの末脚が切れることは知っていた。デビュー戦でも中団から上がり3ハロン34秒3の末脚で突き差して快勝し、3着に敗れたといえ2戦目のアイビーSではメンバー最速の32秒7を記録。

これほどの脚が使える馬なので、牡馬相手のホープフルSでも好勝負をすると思われたが、その実力は想像以上のものだった。

レース前日にサンライズアース、そして当日にゴンバデカーブースがアクシデントで出走を取り消すなど、戦前から混戦模様の気配が漂っていた今年のホープフルS。

デビュー間もない2歳馬のレースだけにパドックでも落ち着いて周回している馬の方が少ないくらいで、どの馬が勝ってもおかしくなかった。

その中で堂々たる周回を見せていたのが、シンエンペラー。

凱旋門賞馬ソットサスを兄に持つ国際的な良血馬らしいオーラをまとった栗毛の馬体は冬晴れの中山でもキラキラと輝き、どこか落ち着きのなかった京都2歳Sの時とは大きく違い、成長を感じさせた。

「やっぱり、この馬で決まりかな......」そう思った時、パドックに現れたレガレイラを見て、その考えを変えた。

馬体は454キロの馬体重以上に大きく見え、30キロ近く重いシンエンペラーの方が小さく見えるほど。

出走唯一の牝馬でも全く動じる様子もなく、堂々と周回する姿は女王の風格すら漂い、見る見るうちに単勝オッズは下がり、最終的にはシンエンペラーと並んだ。

今思えば、この時点で勝負は決していたのかもしれない。

タリフラインが立ち上がるなど、ややガチャガチャした中でレースがスタートすると、ヴェロキラプトルとアンモシエラがハナを争い、そのすぐ後ろにシンエンペラーとサンライズジパングが付けていく形になった。

前半600mの通過タイムはGⅠ昇格以来、最速となる35秒4。そうした流れの中でレガレイラは後ろから3頭目という位置に。

小回りのコースレイアウト、さらにこの日は内の先行馬がよく伸びる馬場コンディションという中山競馬場のことを考えると届かないかもしれないという不安があったが、クリストフ・ルメールの手綱に導かれるようにレガレイラはポジションを上げていき、そして最後の直線に入った。

直線に入った際、先に動いたのはシンエンペラーだった。

前を行くヴェロキラプトルをあっさりと交わして先頭に立ち、後続馬の追撃を受けて立つという姿勢を見せた。まさに横綱相撲、皇帝の名に恥じない堂々たるレース運びを見せた。

後続を離しにかかるシンエンペラーに対し、他の馬たちは速いペースが災いしたのか、差を詰めるどころかますます離されていく形に。

このまま無敗の2歳王者が誕生するかと思われたが、外から飛んでくる馬がいた。

それが、レガレイラだった。

追い上げていく際、4コーナーで外に振られるというアクシデントがあったが、誰もいない外に回ったことで持ち前の末脚が活きる形になり、のびのびとした走りで1頭、また1頭と先行する馬たちを交わしていき、まるで爆風のようなスピードで中山の急坂を駆け上がっていった。

残り100m。レガレイラは内で粘り込みを図るシンエンペラーを捕まえた。

シンエンペラーも最後まで抵抗するが、外から勢いに乗ったレガレイラは並ぶ間もなく差し切り、そのまま3/4馬身差を付けてゴール。

最後はルメールが手綱を抑えるほどの余裕のある走りで牡馬を従えて、ホープフルSを制覇。牝馬がこのレースを制したのはGⅠ昇格以来、史上初の快挙となった。

「手ごたえはよかったけれど、2歳戦なのでみんなフラフラしていたからどこから行くか考えたけれど、大外からいい脚を使えた」――レース後のインタビューでルメールは笑顔でこう答えた。

これがJRAGⅠ年間5勝目、通算でも50勝目という節目の勝利を飾った男はデビュー戦から乗ってきた才女に対し、最大の賛辞を送り満足げな様子がうかがえた。その様子は2023年、何度も見てきたように思える。

それもそうだ。レガレイラの騎手のルメールとレガレイラを管理する木村哲也と言えば、今年の競馬界を席巻したイクイノックスと全く同じ組み合わせ。

わずか12日前に引退式を挙げたばかりの先輩の後を追いかけるようにレガレイラが女王となり、2024年の競馬界を引っ張る存在として名乗りを上げたのだから、ルメールも満足げな表情を浮かべたのだろう。

「3歳になって、『こうあるものだ』というローテーションにはしない方がいいと思っている」と、レース後に木村調教師はこう語った。

牡馬を蹴散らし、女王となったレガレイラは来たる2024年、先輩が果たせなかったクラシック制覇を達成するのか、あるいは――才女の輝かしい未来が楽しみでならない。


■文/福嶌弘