ラグジュアリーブランドが経済的に余裕のある年齢層の高い消費者から25歳以下の消費者へと焦点を移行するなか、多くのブランドが新たなオーディエンスの信頼を得るためにストリートウェアの象徴的な存在を活用するようになっている。

8月末、ティファニー(Tiffany & Co.)はインスタグラムで、ビヨンセ氏とジェイ・Z氏を起用した初のキャンペーンのティーザーを公開した。グッチ(Gucci)は昨年9月にタイラー・ザ・クリエイター氏と契約、シャネル(Chanel)はファレル氏との長年の関係を維持するなど、すでにほかのハイブランドも同様の動きを見せている。これらのセレブリティはいずれもヒップホップ文化と強いつながりがあり、もちろんストリートウェアの誕生においても重要な役割を果たしている。

これまでとは異なるZ世代にどう訴求する?



Z世代市場は急速に無視できない規模へなりつつある。コンサルティング会社のベイン・アンド・カンパニー(Bain & Company)の調査によると、2019年から2025年にかけて、5歳から25歳の消費者が市場全体に占める割合は8%から20%へと2倍以上になることが予測されている。リテールコンサルタント会社スコーリングリテール(Scaling Retail)のオーナーであるシャマ・マーハー氏によると、これらの若い消費者は過去の世代とは異なるようだ。「この世代は100万ドル(約1億1000万円)を暗号化して所有しているかもしれないが、銀行口座には50ドル(約5500円)しかない」とマーハー氏は言う。「ではどうやって、この新しい富にアクセスするのか? それこそが、ラグジュアリーブランドが今日問うべき問題である」。

ストリートウェアの本物志向



『Free Stylin’: How Hip-Hop Changed the Fashion Industry(フリースタイル:ヒップホップはいかにしてファッション業界を変えたか)』の著者でニューヨーク州立ファッション工科大学(FIT)のエレナ・ロメロ教授によると、これらのパートナーシップには、Z世代にとってラグジュアリーな製品がより本物らしく感じられるようにする意図があるという。本物志向は、ヒップホップのDIY的な美学から生まれたストリートウェア文化の特徴でもある。ロメロ教授が言うように「ファッションはヒップホップ文化の非公式な要素」なのだ。それというのもヒップホップが台頭し始めた80年代には「デザイナーズブランドは、黒人やラテン系コミュニティには対応していなかった」からだ。ヒップホップが世界中に広まるにつれ、「これまでハイブランドの眼中になかった人々、あるいはロデオドライブのハイソな店舗から締め出されていたような人々が、現在まさにハイブランドが対応している人々なのである」。ロメロ教授はFITで開催される展覧会『Fresh, Fly, and Fabulous:Fifty Years of Hip-Hop Style(ヒップホップスタイルの50年)』において、こうしたテーマを探求する予定だ。

Z世代にリーチするには「(ブランドのパートナーとなる)セレブリティが誰を代表しているか、そしてどんなことを信じているのか、またその信条はラグジュアリーブランドの信条と同じでなくてはならない」という点が重要だとロメロ教授は言う。ラグジュアリーブランドは、多様性や公平性、インクルージョンの問題に社会が注目するにつれ、自らの価値観を進化させてきたと彼女は言う。文化の流用について学んで育った世代にとってストリートウェアは本物のスタイルを重視しているため、この世界でもっとも影響力を持つ人々はレガシーブランドを紹介するための完璧なアンバサダーとなっている。

伝統とポップカルチャーのバランス



ティファニーの最新キャンペーンは時代の流れを感じさせる。ビヨンセは映画『ティファニーで朝食を』のオードリー・ヘプバーン氏の印象的なドレスにオマージュを捧げたルックで、伝統とモダンをミックスしたイメージとなっている。その背景にはジャン=ミシェル・バスキア氏による未公開の絵画が飾られており、偶然にもそれはブランドのアイコンであるブルーで描かれている。このキャンペーンに合わせて、ティファニーはザ・カーターズ(ビヨンセとジェイ・Zによるデュオ)と共同で、歴史的に黒人の多いカレッジや大学に200万ドル(約2億2200万円)を寄付することを約束した。

ただしこうしたコラボレーションは、ブランドが次世代にアピールするためにすべての製品を変えるということではないとマーハー氏は指摘している。むしろ「メディアでは、よりポップカルチャー的なもの、Z世代的なもの、編集されたものが優先される」ことをブランドは熟知しており、それに合わせて行動しているのだ。

マーハー氏がかつてバイヤーとして働いていたグッチは、今でも定評のある製品ラインに重点を置いている。「伝統的なラグジュアリーブランドの核となる品揃えと、誰も避けて通ることができない文化的な関連性を維持しようとする能力との間には、絶妙なバランスが要求される」。ティファニーが最近行ったZ世代にフォーカスしたキャンペーンがコアな顧客層からの反発を招いたことで、その賭けの代償は高くなっている。

デジタル市場で存在感を高める



ラグジュアリーブランドがそうしたメッセージやそれを伝える人選で成功したとしても、顧客が実際にいる場所で顧客と出会うことが重要だ。Z世代にとって、その場所はデジタルを意味する。「現在ティファニーがデジタルを重視して何かをローンチするポジションにあるとは思えない。なぜなら現時点で消費者はZ世代に集中しているが、ティファニーにはそのような顧客基盤がないからだ」とマーハー氏は言う。

今年初めにモエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトン(LVMH)に買収された後、アレクサンドル・アルノー氏がティファニーの新エグゼクティブバイスプレジデントに就任した。ヴァージル・アブロー氏やキム・ジョーンズ氏など、ミレニアル世代に人気のあるデザイナーを起用したコラボレーションで知られるアルノー氏は、ブランドのデジタルプレゼンスを拡大することが期待されている。

マーハー氏によると、ティファニーがセレブリティやミュージシャンと今後も続けて提携することは、若い消費者を惹きつけるためのカギとなり「その結果、デジタルコマース市場での存在感を高めることができるだろう」。

ラグジュアリーブランドが成長を続けるためには、製品だけではなく、コミュニティを提供する必要があるとマーハー氏は言う。「ロブロックス(Roblox)」や「どうぶつの森」シリーズのような大規模なオープンワールドのゲームはデジタルグッズの最先端をいっており、NFT(非代替性トークン)が次のフロンティアになるかもしれない。「暗号通貨の新興ミリオネアは、40代半ばの年配の白人男性ではない」と彼女は指摘する。「18歳以下の若い子供たちなのだ。つまりデジタルラグジュアリー市場全体にはふたつの側面があるということだ。従来のラグジュアリーな消費者だけ(が市場を動かしているの)ではなく、そこにはまったく新しいタイプの生活者がいるのである」。

Photo by: Mason Poole

[原文:Why luxury brands are targeting Gen-Z with streetwear icons]

LARISSA GOMES(翻訳:Maya Kishida、編集:山岸祐加子)