研究の概要(写真:九州大学の発表資料より)

写真拡大

 ヒトにとって不可欠な生理的現象である睡眠。哺乳類だけでなく、魚類などの動物でも観察されている。九州大学は12日、脳を持たない刺胞動物のヒドラに睡眠が存在することを突き止めたと発表した。睡眠を制御する因子はほかの動物と共通しているという。

【こちらも】睡眠時間と甘いものへの欲求には関連がある アメリカの研究

■脳と切り離せないと信じられてきた睡眠

 睡眠は、哺乳類や魚類、昆虫等で確認されている。こうした動物種はいずれも脳を持つだけでなく、脳機能と睡眠とのあいだに密接な関係があると一般的に考えられてきた。脳にある視交叉上核(しこうさじょうかく)が睡眠など生理的現象の概日リズム(体内時計)を支配しており、この概日リズムは時計遺伝子によって作られていることが判明している。

 こうした脳と睡眠との関係に疑問を突きつけたのが、九州大学と韓国・蔚山科学技術大学校の研究者らから構成される国際共同グループだ。九州大学の研究グループは2019年に、サンゴやクラゲの仲間であるヒドラが持つ概日リズムの起源の解明を試みており、ヒドラは時計遺伝子を持たないにもかかわらず、約24時間の概日リズムを持っていることが判明した。

■脳に先立ち動物が獲得した睡眠

 国際共同グループは今回、ヒドラが睡眠現象を持つかどうかを検証した。同グループが開発した解析システムでヒドラの行動を調べた結果、ヒドラが睡眠していることが確認された。

 研究グループはまた、ヒドラとほかの動物との睡眠メカニズムを比較。生理作用を起こさせる物質をヒドラに投与し睡眠の長さの変化を調べたところ、睡眠薬にも使われるメラトニンや覚醒させる物質として知られるドーパミンでも、睡眠が促進されることが判明した。

 さらに、断眠させたヒドラの遺伝子発現を解析したところ、マウスやショウジョウバエ、線虫などのモデル動物で確認されている睡眠制御が、ヒドラにおいても関わっていることが明らかになった。ヒドラの睡眠に関連する遺伝子に相当するショウジョウバエの遺伝子が、自身の睡眠を調節しているのだという。

 研究グループは、動物が脳を獲得する以前から睡眠を獲得していた可能性があるとみている。

 研究の詳細は、米科学誌Science Advancesに7日付で掲載されている。