女の人生、その勝敗はいつ決まるのかー?

それは就職・結婚・出産など、20代で下した決断に大きく左右される。

昔からその分岐点において、全く異なる選択をする2人がいた。その2人とは福岡出身の幼馴染、塩田ミキと佐藤菜々子。

2019年、28歳のミキは派遣社員だったはずの菜々子の”玉の輿婚”を突然知る。

菜々子は、どういう経緯で“玉の輿婚”に至ったのだろうか?今回、その真相が明らかになる―。

その出会いは菜々子が27歳のとき、東京で初めて好きになった弁護士・正樹と別れたあとのことだった…。

前回の菜々子のストーリーはこちらから>>




ー今日からこの街で暮らすんだな……。

弁護士の正樹と別れた日から4ヶ月が経ち、春を迎えた頃、菜々子は松戸から御茶ノ水に引っ越した。

正社員になり金銭的な余裕ができたこともあったが、いまだに消えない正樹への気持ちを、住む場所を変えて断ち切りたかったのだ。

菜々子は、窓の外に広がる東京の景色を眺める。ふいに最初の派遣先だった不動産会社の内見立会で見た、赤坂のタワーマンションからの景色を思い出した。

新居は5階で、確か23階だったあの部屋からの眺めには到底かなわない。見えるのは路地と、遠くを遮るビルたち。それでも菜々子は満たされていた。

春の暖かさが混じり始めた風を受けながら、幸せは自分の感じ方次第なのだと、そんなことを思っていた。


運命を変える、同級生との偶然の再会。同窓会はハイスペの宝庫?




引っ越してほどなくした週末の日曜日、自宅近くのカフェに入ると、急に懐かしい声で呼びかけられた。

「……菜々子?」

振り返るとそこにいたのは高校時代の友人・瞳だった。

「すごい偶然……!なかなか連絡くれないから、心配してて。もう福岡に帰ったのかと思ってた」

瞳は医学部に進学し、現在は研修医として忙しい毎日を送っているのだという。大学を出てから、彼女ともしばらく疎遠になっていた。

連絡せずにいたことを詫びると、瞳は無事でよかったと、にこやかに笑う。彼女はおおらかな性格で、いつも人に囲まれていた。菜々子はその表情に救われる思いがした。

「ねえ、来週、今までも何度か誘ってた、高校の卒業生が集まる同窓会がまた東京であるの。みんな福岡から出てきて東京で活躍してるわけだし、いい刺激になると思う。よかったら行かない?」

”私なんかが……”いつも真っ先に浮かんでいたはずの言葉が、今日は頭をかすめなかった。菜々子はふたつ返事で答える。

「菜々子、なんか雰囲気変わったよね」

去り際の瞳に指摘され、照れるように笑った。そういう瞳も、以前は全く履いていなかったハイヒールをばっちりと履きこなしている。

菜々子は、東京で変わっていく自分や瞳に、寂しさよりも逞しさを感じていた。


運命の同窓会


同窓会当日、菜々子は1人で会場へ向かっていた。瞳は急な仕事が入り、来れなくなってしまったのだ。心細さを抱えながら、会場であるホテルへ足を踏み入れる。

この同窓会は年齢問わず、その高校の出身者ならば誰もが参加できるものだ。菜々子の出身校はその地域では一番の進学校なだけあって、一目で富裕層だとわかる人も多い。瞳は「大企業の役員とかも来ると思う」と言っていた。

「今日は初めてなんですか?」

所在無げに立っていた菜々子に20代後半くらいの男性2人組が声をかけてきてくれ、ざっと自己紹介をし合った。2人は3期上の卒業生で、1人は医療系の仕事をしており、もう1人はメーカー勤務で、海外出張から帰ってきたばかりだという。




瞳の言っていた「大企業の役員」とはまるで違う若い2人に菜々子は親近感を持ち、ドイツから帰ってきたというメーカー勤務・悟の話に耳を傾けていた。

時折混ざる福岡弁が懐かしさを増していく。ミキが大学時代、留学から帰ってきた時のことをふと思い出した。

ー思えばミキが留学してから、すれ違っていったな…。この2人みたいにミキと関係を続けていられたらよかったのに……。

そんなことを考えていた時、”戸田直弥”と名乗った、医療系の仕事をしていると語った男の携帯がなった。

「ごめん、仕事だ。行かなきゃいけない」

直弥はそれほど驚くこともなく、ありふれた出来事といった様子で出る準備をする。グラスを悟に手渡し、菜々子を一瞥した。

「また今度ゆっくり話せたら」

どこか、社交辞令とも言えないような口調だった。

去っていく直弥の背中を見ながら、残った悟がそっとつぶやく。

「医者は大変ですよね。僕も彼も、将来家業を継がなきゃいけない身なので、色々分かり合える部分は多いんですけど」

ーお医者さん…。しかも2人とも家業を継ぐ身なんだ。

親近感を勝手に感じていたことを少し恥ずかしく思ったが、悟からLINEを交換しようと言われ、菜々子はスマホを取り出した。


積極的な直弥に、菜々子の気持ちはどう動く?


新たな恋の予感


悟が3人のグループラインを作った数日後、直弥から個別にLINEが届き、その後お互い忙しい合間を縫って、3回ほど2人で食事に出かけた。

直弥が自分を誘ってくることが不思議でならなかったが、いつも爽やかな笑顔で迎えてくれた。初対面の時から、その屈託のない感じが、どこか正樹を彷彿とさせるので、その笑顔に少しだけ切ない気持ちになる。

「菜々子ちゃんは、東京何年目なんだっけ?」

直弥は2回目の食事で敬語を完全にやめた。もう名前で呼ぶようにもなっている。菜々子のことをずっと苗字で呼んでいた正樹との違いを一つ一つ探そうとしてしまうのは、同じ結果になることが怖いからかもしれない。

「大学の時からなので、もう8年目です」

「こっちに友だちは多いの?」

「ほとんどいなくて。みんな福岡に帰ってしまったから。だから初めて会った時、悟さんと仲良く話してて、ちょっと羨ましかったです」

お酒が入ったのもあって、菜々子は少し饒舌になる。

「……本当は幼馴染みが東京にいて。でも派遣社員になった時に、もう別々の場所にいる気がして、疎遠になってしまったんです。あの時、妙なプライドを持ってなかったら今も一緒にいられたのかな、なんて思ったりもするんですけど」

「自分の仕事に自信を持てなくなったりだとか、肩書きで判断されるような気がして不安になる気持ちは、僕もわかるよ」

いつも割と陽気な彼が真剣な口調で打ち明けたので、そのギャップに少しドキッとした。

「……だからいつも、なんとなく職業を濁しちゃうんだけど、本当は医者をやってるんだ」

「……ごめんなさい、実は知ってました。同窓会で帰っていったとき、悟さんが『医者は大変だな』って言ってたから」

直弥が「秘密にしてるつもりだったのは僕だけかぁ」と笑ったので、場が和んだ。

そこから距離が縮まったように親しくなって、4回目に東京タワーへ行くことにした。

東京タワーの入り口で菜々子が事前に買っておいたチケットを差し出すと、直弥は驚いた顔で菜々子を見つめた。

「ずっとご馳走してもらってたから、お礼です。だいぶ割に合わないですけど」

菜々子は直弥の笑顔を見たとき、自分の気持ちが明確になった気がした。



2人はディナーの後、ザ・プリンス パークタワー東京33階の『スカイラウンジ ステラガーデン』を訪れた。




普段は訪れないような空間でも、直弥といると緊張しない。彼の隣が心地よかった。福岡で、すれ違ってもおかしくない距離にいた2人が、こうして東京で出会っていることに、どことなく運命を感じ始めている。

夜も更け始め、そろそろ店を出ようかとなった時、チケットのお礼、といって直弥が会計を持った。

「エンドレスですね」

冗談めかしてそう言うと、直弥は照れくさそうに笑った。

ー本当にこの関係がずっと続けばいいな……。

菜々子はまだ、過去の記憶に少しだけ引っ張られていた。

レストランを出て、菜々子は彼の半歩後ろを歩く。

「佐藤さん」

振り返った彼が、久しぶりに苗字で呼びかけたので、菜々子はつい「はい」とかしこまって返事をした。目が合うと、直弥は一度視線を外した。

「付き合ってくれませんか……。結婚を前提に」

麻布の裏路地は静かだった。直弥の声だけが聞こえてきた。

今度はゆっくりと、頷きながら応えた。直弥が菜々子の手を取る。正樹とは違って、彼が取ったのは左手だった。

「帰ろうか」

「うん」

菜々子は敬語をやめた。今度はちゃんと同じ場所に帰ることができるのだと、ようやく確信を持つことができた。

▶︎Next : 6月18日 火曜更新予定
次週ついに最終回。29歳の2人はもう一度巡り会うことができるのか?