東大女子図鑑:バリキャリ外銀女子が突如ゆるふわOLに転向。彼女の価値観を変えた、ある言葉
あなたはご存知だろうか。
日本国内最難関・東京大学に入学を果たした「東大女子」の生き様を。
東京大学の卒業生は毎年約3,000人。
しかしそのうち「東大女子」が占める割合は2割にも満たず、その希少性ゆえ彼女たちの実態はベールに包まれている。
偏差値70オーバーを誇る才女たちは卒業後、どのような人生を歩んでいるのか。
これまでには隠れにゃんにゃんOLや向上心の塊のような才色兼備、愛人枠に甘んじる文学少女、量産型女子を演じる理三卒女医、夫に内緒で別宅を構えるバリキャリが登場。

<今週の東大女子>
氏名:奥永理恵
年齢:27歳
職業:専門系市場調査会社勤務
学部:工学部
住居:根津のアパートに一人暮らし
ステータス:独身
久しぶりに、雨が降った。
街路に植えられた紫陽花は、雨露と大輪花の重さでずっしりと首をうなだれている。
東京大学本郷キャンパス内のカフェ『廚菓子くろぎ』に現れた奥永理恵は、ぱっと見では学生とも間違えられそうな若々しさ。
あどけなく見えるふっくらした頬と、ほぼすっぴんに近い薄化粧。
しかし口を開けばむしろ、年齢以上の経験をしてきたに違いない落ち着きを感じさせた。
「休みの日は、たまにこうして息抜きに大学構内を散歩しに来るんです。すぐ近くにこれだけの緑があるのって、本当に良いですよね。
前は神楽坂に住んでいたのですが、転職してからは家もこちらに引っ越してきました」
現在、専門系の市場調査会社に勤務しているという理恵。
フレックスタイム制で、平均勤務時間帯は10-18時とワークライフバランスの取れた生活を送っているそうだ。
「以前の勤務先では、朝3時近くまで当たり前のように働いていましたけど...。
それだけやり甲斐もあったしお給料も魅力的でしたが、今の生活スタイルになったら、もうこれ以前の生活は考えられないです」
彼女は昨年まで3年間、新卒入社した大手外資系投資銀行でフロントオフィスに勤めていた。
バリキャリ人生を突き進んでいたはずの彼女。しかし突如生き方を変えたのは、いったい何故だろうか?
バリキャリ人生を突き進んでいた理恵。彼女が一転、ゆるふわOLとなったきっかけは?
人生初の挫折
「私...これまでの人生で、妥協とか挫折とか...思い出せる限り経験したこと無かったんです」
静かに語る理恵の言葉に、決して驕りは感じられない。
「大体のことは、一生懸命やれば何でも人並以上に出来てきました。勉強だって、趣味だって、仕事だって…。
前の会社での仕事も、本当に順調でした。世間で激務と言われている通り、確かに労働時間は長いしプレッシャーも高かったとは思いますが、自分の性格には本当に合っていたと思います。
やればやるだけ結果が出て、そうするとますます大きな裁量を任せてもらえるのが楽しかったんですよね」
しかし淡々と語っていた理恵が、ここで少し言い淀んだ。
「でも...やっぱりピンと糸が張ったような状態って、何か一つのバランスが崩れるだけで全ておかしくなってしまうんでしょうか」

「ある時部門内で人が一気に辞めたんですよね。私の上司も、若手も。
外資系投資銀行って常に最低限の人数で仕事を回してるから、急に人が居なくなると、残った人達で同じ質と量の仕事をこなすのは不可能なんです。
それでも、何が何でも“やる”のが前職のカルチャーでした。
私自身だってそういう性格でしたから、負けん気だけで踏ん張ってたんです」
ほんの1年前のことだと言うが、彼女は遠い目をして振り返る。
その表情はいたって平坦だが、寂し気な色が目元をちらりとよぎった。
「それからです。少しずつ自分の色々がコントロール出来なくなっていきました。身体も、感情も…。
毎日寝不足なのに中々寝付けないし、ようやく眠れたと思っても何かが心配で1時間ごとにハッと飛び起きてしまうんです。
デスクでただ仕事をしているだけの時でも、いつの間にか手元がビショビショで自分が泣いていることに気付いたり。
人生で初めて、“あぁ、もう自分は駄目なんだ”と思った瞬間でしたね」
産業医の診察を受けた理恵には鬱の診断が下り、その場で即刻出勤停止になったと言う。
「正直ほっとしました。ああ、もう頑張らなくて良いんだって…でもその次に襲ってきた感情は、猛烈な劣等感でした」
鬱診断で引きこもり…そんな彼女を救った“ある一言”とは
半年間の引きこもり生活
「“出来なかったこと”が本当に苦しくて。
私以外の人ではまだ頑張っている人も居たんですよ…私が、私だけが駄目だったんだって。
“鬱で休職”だなんて、親にも言えません。今まで両親の期待に応え続けてきた自慢の娘なんですから」
理恵は手元に目を落とすが、その睫毛は微かに震えているようだった。
「仕事をしなくなって時間はできたはずですが、色々な考えがぐるぐる頭の中を回っているし、劣等感と自己嫌悪でぐったりしてしまって。気づいたら、家を一歩も出られなくなっていました。
...いわゆる引きこもりですね。
不思議ですよね。それまで1日20時間近くフルに活動していたはずなのに、一度引きこもりになってしまったら“今日は外にお昼ご飯食べに行こう”レベルのタスクひとつ出来ないで1日が終わっていくんです」
ははは、と乾いた声で笑う理恵。淡々としていても、その節々に苦い後味が残っている。
「引き籠っていたことは誰にも言っていなかったんですが、実は私の大学時代からの友人が同期にいて。
部門は違っても同じフロアで働いていたものだから、急に会社に来なくなった私を心配してある時家まで来てくれたんです。
…その時、彼女が言ってくれた言葉を、思い出さない日はありません」

救いの言葉
「理恵に何が出来るとか出来ないとか、全然気にしてない。
それより今、理恵が笑っているのか、泣いているのか、私にはそっちの方が100倍大事だよ」
『廚菓子くろぎ』名物の本蕨もちを頬張り、理恵はにっこりと頬を緩めた。
「彼女、そう言ってくれたんです。その時に、目が覚めました。
そりゃあ良い大学を出て、立派な仕事をして…そっちの方が良いかもしれませんが、私はそう言ってくれる彼女のような...私の大切な人達のために、笑っていなきゃいけないんです。
いつかまた前みたいにバリバリ働きたくなることもあるかもしれませんが...今は“ゆるふわOL”万歳ですね。
こうして休みの日に大学の緑を満喫して、わらび餅食べて。
...バリキャリに戻るかどうかは、今の生活でしか出来ない幸せを満喫しつくしてから考えようかな」
そう言うと彼女は、目尻を大きく下げて柔らかく微笑んだ。
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