「お客の心を開く」コミットメント話法
営業とは、人と話すこと。だからこそ、ごく小さな会話力の差が成績を分ける。各営業のトップセールスにそのコツを聞いた。
旅行業最大手のJTBグループで研修や団体旅行など法人向けサービスを提供するのがJTBコーポレートセールス。優秀な営業マンがそろうなかでも、顧客からの信頼が厚く数々の社内アワードを受賞しているのが、霞が関第二事業部で研修ビジネスを担当する広瀬啓太氏だ。
入社後すぐに配属されたJTB神保町支店時代からの上司で、営業推進本部グループリーダーの石川知弥氏によると、広瀬氏は「新入社員の頃から落ち着きがあり、話術に長けていた」。法人営業担当として、毎日50〜60件の飛び込み営業を行っていた新人時代、広瀬氏はお客さんに好かれ、頼りにされて、大口の仕事をどんどんとってきたという。その理由を広瀬氏自身はこう分析する。
「大学2年のときに、父が脱サラして焼き鳥屋を立ち上げ、しばらく私も店に出ていました。このときの経験が私の商売の根底にあります。父のカウンター越しのお客さんとの会話を通して、お客さんとの接し方、交わす言葉の選び方からお客さんの心のつかみ方まで、いまの仕事に必要なものを体得していたのだと思います」
もともと社交的な性格で、人と話すのが好きだったという広瀬氏だが、セールススキルを社会に出る前にすでに備えていたという自覚は、セールスの仕事に就くうえで大きなアドバンテージとなったといえよう。
現在の担当分野は企業研修で、企業の人事、採用、教育の部署に新規飛び込み営業を行うのが中心業務である。ただでさえ難しいとされる飛び込み営業だが、広瀬氏が相手にするのは「人を見るプロ」。考えていることを容易には顔に出さない。
だからこそ、ちょっとしたサインを見逃さず、細心の注意を払って言葉を選ぶ。セールスの際に自分に許された持ち時間もサインで読み取る。
「眉をこすったら『2分くらいが限界かな』とか、身を前に乗り出してくれたら 『あと10分くらいはいけるかな』と」
初回の面談では需要自体があるかどうかを引き出したら、長居せず、最低限の情報を持ち帰って具体的な提案は2回目以降の訪問で行う。決して「押しつけない」のが広瀬氏の鉄則。「お客様にとって価値あるものを提供できるという自信があるので、押し売りはしませんし、過剰な説明もしません」。
では、どうやって顧客を得ているのか。前出の石川氏はいう。
「彼の強みは『コミュニケーション』と『コミットメント』。自分のプライベートな話もどんどんして、お客様の心を開くのが実に上手い。そして、無理をしてでもお客様との約束を守る、という姿勢を貫いています」
顧客、とくに社長からトップダウンでくる要求の中には、「さすがにそれは無理だろう」と思われる突拍子のないものも少なくない。ほかの営業パーソンが「それはできません」とその場で断るものを、広瀬氏は持ち帰り、どうすれば実現できるかと考える。
「固定観念にとらわれず、頭をまっさらにして、できない理由をひとつずつ挙げ、それをひとつずつ解決していく。すると一見不可能と思えることでも、できることがあるのです」
広瀬氏の仕事はリピート率が高いと評判だが、それはこうした水面下の努力にも支えられているのである。
(野崎稚恵=文 永井 浩=撮影)
