入社4年目テレビ局員によるエッセイ連載「テレビぺろぺろ」/第13回「横浜出身者に忍び寄る“野暮”を思う」

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テレビ東京入社4年目局員・牧島による、連載エッセイ。「新しくて面白いコンテンツ」を生み出すため、大好きなお笑いライブに日参し、企画書作成に奮闘する。これはそんな日常の記録――。
こんにちは。
テレビ東京の牧島俊介です。さて…。
横浜に疲れた。出身地を聞かれるのが、本当に怖くてしょうがない。
初対面のシチュエーションにて。三杯目のビールが届く頃、あなたは何気ない調子で尋ねてくる。
忍び寄る野暮の気配が不安を掻き立てる。床を這うホコリの巣を探す。あなたの脚が小刻みに揺れている。覚悟を決めて答えるしかない。
「…横浜です」
あなたの目はほんの少し光る。眉が上がる。口元が綻ぶ。その表情の変化を、私は何度も見てきた。
「やっぱり横浜の人って、神奈川じゃなくて横浜って答えるんだね」
あなたは得意げに笑っていた。ウィットに富んだ一言で、心の距離を一気に縮めたと思っていそうだ。
私は悶える。せっかく打ち解けたばかりのあなたの、野暮すぎる一面に気づきたくなかった。横浜出身者は、幾度となく浴びせられてきた定型句にうんざりしきっているのだ。
初めて「横浜いじり」を目の当たりにしたのは、とあるテレビ番組だった。「横浜市民プライド高すぎ問題」と題した、街頭インタビュー中心のワンコーナー。出身地を聞かれた横浜生まれは、誰一人「神奈川」とは答えない。こぞって「横浜」と答える。
この番組は全くもって、野暮ではない。放送当時は、まだ広く言語化されていない現象だったから、新鮮だったのだ。
それから10年以上、そのユーモアは無数の人々の口から吐き出され続け、腐った野暮になった。
悲しみを押し殺して、私は横浜ピエロになる。
「そりゃ横浜出身じゃないって思われたら困るんで。神奈川でひとまとめに括らないでください」
野暮サイドを喜ばせるには、これが手っ取り早いと経験則で知っている。
では、出身地を聞かれたときに「神奈川です」と答えればどうか。それでも野暮は炙り出される。会話が進んで横浜出身だと判明すれば、「なんだ、横浜って言わないんだ」と裏返しの野暮が待ち受けている。
野暮とは、無邪気なサービス精神の空回りである。無個性、無計画、無神経、その全てを無邪気にのせてぶつけてくる。あなたは私を楽しませようとしてくれるけど、私は楽しくない。それに気づいてくれない切なさ。
野暮なあなたはきっと言う。恐怖の飲み会が終わりに差し掛かった頃。
「お会計は、男気じゃんけんで決めましょうか」
私は嫌だ。テレビの有名なノリを真似て盛り上がる大人の姿は、やっぱりだらしない。
あなたは、あどけない笑顔で畳み掛ける。
「じゃんけんは強い方ですか?」
強くも弱くもない。運である。なんで野暮な人って、じゃんけんが能力で決まると思っているんだろう。さらに野暮ぶりが極まっていると、「まずは、一回練習で」と時間を食うだけの提案をしてくる場合もある。
「男気じゃんけん、じゃんけんほい」
私よりも声が小さい。
「よっしゃー」
握り拳を中途半端に上げて喜ぶ、お前。せめて照れずにやり切ってくれ。
店を出て雨が降っていれば、お前の野暮はスパークする。
「だれが雨男なんですかね?」
私にも、お前にも、天気はコントロールできない。
「私は晴れ男で、地元で有名だったんですよ」
とか言ってくる。雨男晴れ男論争は、決着がついたことがない。やたら長引く。生きていないみたいな気持ちになる。
我々横浜生まれだって、目の前の人が野暮かどうかなんて、知りたくない。できれば、その人の素敵な一面だけを見ていたい。だが、出身地を答えた瞬間、自動的に野暮判定装置は作動してしまう。
野暮は、怖い。だが、野暮と思われるのも恐ろしい。
私は今、番組やエッセイを通じて、無数の野暮判定装置に晒されている。気づかぬうちに、誰かにとっての野暮をやってしまっているのだろうか。想像を巡らせれば、正気でいられるはずがない。
世の中にコンテンツを発信するとはそういうことだ。
…と締めくくるのはあまりに野暮だ。想定内のありふれた展開すぎる。
日頃、番組制作において野暮と思われないために気をつけていることを綴るべきか。
…偉そうに語れるほどの立場にない。野暮である。
新鮮なユーモアを発信するテレビ番組を作り、将来の野暮を生み出したい。
…と決意しても野暮だ。青すぎる。
こうして幾多の野暮を頭の中で打ち消した先に残った、最も野暮らしくない選択肢が私の表現であるということに、少しは自信を持ちたい。
「やっぱり横浜の人って、神奈川じゃなくて横浜って答えるんだね」
と言ったあなたも、たった一つの野暮を打ち消しそびれただけだ。だから、我々横浜生まれは、あなたを責めない。ピエロの仮面の下、涙ながらに許している。
牧島俊介●テレビ東京入社4年目を迎えた現役テレビ局員。高校時代に、お笑いコンビ「虹の黄昏」に出会い、衝撃を受ける。自ら企画した番組は、柴田理恵・マユリカ中谷出演のバラエティ番組『ナキヨメ』、有田哲平主演、Snow Man深澤辰哉、空気階段鈴木もぐら、ロングコートダディ兎共演のシチュエーションコメディ『アリフォルニア』など。
