イーロン・マスク氏のXに220億円罰金、「青バッジ」が詐欺的設計と断定…身元確認なしで本人認証
今や生活に密着したツールとなったX。
そのXで名前の横に表示される青バッジ(マーク)を見て、「この人は信頼できる本物だ」と思ったことがあるはずだ。
有名人の名前、公的機関の名前、専門家の肩書き。青バッジがついていれば、なんとなく信じてしまう。それが人間というものだ。
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しかし、実のところこのマークには価値がない。あの青バッジは月8ドル払えば誰でも買えるものだからだ。著名人かどうか、信頼できる人物かどうか、そういった確認は一切ない。なりすましでも詐欺師でも、金さえ払えば「認証済み」になれる。
もともと青バッジは、Xが自ら身元を確認した著名人や公的機関だけに与えるものだった。本人確認の証明、いわば「お墨付き」だ。ところがイーロン・マスク氏の買収後、その意味が丸ごと変わった。月額8ドルを払えば取得できる有料サービス「X Premium」の特典になったのだ。身元確認のプロセスはない。誰でも申し込める。「認証済み」という言葉だけが残り、中身が消えた。
そうした実態に、EUがついに動いた。
欧州委員会は2025年12月、この設計を「欺瞞(ぎまん)的」と断定した。DSA(デジタルサービス法、EU版のインターネット規制法)違反として、Xに1億2000万ユーロ、日本円にして約220億円の制裁金を科した。この法律の施行後、プラットフォームへの制裁金が出たのは初めてのことだ。「お金を払えば本人確認済みと誤認させる仕組みは、利用者への裏切りだ」というのがEUの認定だった。
欧州のSNS政策を研究する研究者はこう話す。
「青バッジを悪用した投資詐欺や著名人へのなりすましは、バッジが有料化されて以降、報告件数が明らかに増えています。信頼のシグナルがお金で買えると知られた瞬間、それはむしろ詐欺師のツールになってしまいます」(欧州在住研究者)。
イーロン・マスクの反撃
これに対し、マスク氏は激怒した。「言論の自由への攻撃だ」とXに投稿し、欧州委員会のアカウントへの広告枠を即日閉鎖。EUの「お客様」でありながら、EUの公式アカウントを追い出すという荒業に出た。
トランプ政権も黙っていなかった。米国務長官マルコ・ルビオが「すべてのアメリカのテクノロジープラットフォームへの攻撃だ」と声明を出し、同月末にはDSAの設計者とされる元EU委員ティエリー・ブルトン氏ら5名のアメリカ入国を禁止した。「検閲の黒幕」というらく印を押された形だ。
ブルトン氏は「マッカーシーの魔女狩りが戻ってきたのか」と反論。EU・フランス・ドイツが一斉に抗議声明を出し、青バッジをめぐる罰金騒動は米欧の外交問題にまで発展したのである。
SNSの「認証マーク」一つが、いつの間にか米欧の外交戦争になっていた。「規制か、自由か」世界のスマホの中で、その争いの舞台が繰り広げられているわけだ。
日本は大幅に出遅れ感
翻って日本はどうか。
2025年4月、情報流通プラットフォーム対処法(情プラ法)が施行された。SNS上の誹謗(ひぼう)中傷など「権利侵害情報」に対し、大規模プラットフォームに7日以内の対応を義務付けるものだ。Google・Meta・X・TikTokなど9社が指定され、ようやく日本も動き始めた……とは言える。
しかし、やはり出遅れ感は否めない。EUのDSAが問題にしたのは「認証マークという設計そのものが利用者を欺いているかどうか」という透明性の問題だ。情プラ法の射程はそこには届いていない。青バッジが身元確認を伴っているかどうかを日本の法制度が問うことはできず、制裁金の上限も最大1億円と、220億円とは桁が違う。
先の研究者はこうも指摘する。「日本の情プラ法は誹謗中傷への対処としては意味がありますが、プラットフォームの設計そのものが利用者を誤認させているかどうかを問う仕組みではありません。EUが今回やったのはそこへの踏み込みで、日本にはその発想がまだないと思います」(前同)。
「タイムラインに流れてくる"認証済み"アカウントが、実際には誰なのか」
それを問う仕組みが、日本にはまだない。EUが220億円をかけて切り開いた問いに、日本がいつ答えるのかが問われている。
文/昼間たかし 内外タイムス
