後藤田正純知事(時事通信フォト)と会見を開いた建築家の石上純也氏

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 ヴェネツィア・ビエンナーレ国際建築展金獅子賞など国内外で数々の賞を受賞している国際的な建築家・石上純也氏が、6月1日に困惑のなか会見を開いた。同日から開催される予定だった「石上純也展」に徳島県が横槍を入れ、中止に追い込まれたからだ。会見には社会学者で日大芸術学部客員教授の古市憲寿氏が飛び入り参加するなど、大きな話題となっている。石上氏は同日の会見でこう訴えた。

【写真】後藤田知事と会見を開いた建築家・石上純也氏

「僕は、海外の様々な国で色々プロジェクトをやっています。当然、その国の社会的な状況などもあって、そういう中では表現の自由に対して言論統制とか情報規制とか、そういうものが普通に行なわれている国も見ることがあります。

 しかし、こういうことが現在の日本で起こるということは全く想像してなかったので、 今回、僕たちの展覧会がこのような形で県の要請で中止せざるを得ないことに関してはす ごく疑問を持っています」

併存する2つのホール計画

 一体、何が起きているのか。ことの発端は徳島県が進めていた「徳島文化芸術ホール」の建設計画に後藤田正純・知事がストップをかけたことだ。徳島県内には座席数1500以上のホールがなく、中高生の吹奏楽コンクールの県大会などを隣の香川県善通寺市のホールで開催している状態。大規模ホールの建設は県民の"悲願"とされ、過去30年にわたってホール建設が議論されてきた経緯がある。

 そこで県は徳島文化芸術ホールの建設を計画、石上氏を中心とする設計者チームが1800席の大ホールや小ホール(300席)を備えた設計を考案し、県は2021年に熊谷組などのJVと約194億円で建設する基本協定を結んだ。その結果、実施設計は終わり、見積もりもとり工務店も決まっている状態で、2027年3月開館の予定だった。協定は今なお継続中で、プロジェクトはなくなっていない。

 ところが、2023年の徳島県知事選で「1800席・200億円のホールは高すぎる」「工事費を半分に抑え、アリーナや室内50mプールをつくる」と訴えた後藤田氏が当選すると、石上氏らの協定が継続中の中、並行して、計画見直しに着手したが、そう簡単にはいかなかった。

 県は2024年に建設予定地を変更して「1500席」の新ホールの計画案をまとめ、2025年に事業費約162億円を上限に設計と施工を一括して担う事業者の公募を2回行なった。ところが、参加する事業者がなかった。後藤田知事は「建設資材や人件費の高騰、深刻な人手不足にあらがえなかった」(昨年12月の県議会)と説明して事業費を見直し。今年2月の県議会で「現時点での工事費が200億円に及ぶ」との想定を明らかにした。

 現在、徳島県はホールの設計業務を優先するプロポーザル方式に変更して3回目の公募を行ない、審査中だ。「1800席・200億円のホールは高すぎる」と訴えた後藤田知事が打ち出したのが、建設予定地を藍場浜公園に移したうえで「1500席、約200億円」の新ホール計画となったことに県民からは強い批判が上がっている。

 しかも、現在も徳島県と熊谷組JVとの基本協定は解消されていないため、「石上案」と「後藤田案」の2つのホール計画があることになる。

開催直前に突然…

 今回の「石上純也展」はまさにその徳島文化芸術ホールが主要テーマ。日本建築家協会徳島地域会の主催で石上氏らの約2000枚の実施設計図面をもとに作成された同ホールの詳細な模型やドローイングをはじめ、石上氏が手がけた他のプロジェクトなどの内容が展示される予定だった。

 いわば県民が「石上案」をフェアな視点で知ることができる場となる予定だった。その上で「後藤田案」と比較し、選択できる貴重な機会だったともいえる。だが、展示会の会場が県有地に立つ倉庫だったという理由で、石上氏ではなく、倉庫の運営会社に県から中止要請がなされたという。会見で石上氏は展示会について事前に県と協議していたとこう主張した。

「今回の展覧会の趣旨は、県民の方に徳島の未来について考えてもらいたいということでした。展示内容に関しては、県に著作権があるものについては県への確認や色々と協議をしながら進めてきた。それにもかかわらず、このような中止の要請が県から、どうして開催の直前になってきたのかというのは、まだ僕の中でも理解できない。

 僕たちと県との協定はまだ残っていて、プロポーザルが始まっている案と、公平に比較ができるようなものを県民の方たちに見てもらいたいということで(6月1日から展覧会を)やるつもりでした。県からの中止の理由については、県の目指す街づくりの方針にそぐわないということでしたが、県との協定はいまだに続いているという意味では、県の中でもいまだに僕たちの案件は存在しているという状況だと思っています。

 僕たち設計者としては当然仕事として図面を書いていますが、それだけではなくて、やっぱり建築家として徳島の未来がどうかとか、徳島にどういう施設が出来上がったら多くの人が訪れるようになるかとか、もしくはその徳島の今までなかった風景として作っていけるのかというところを考えてやってました。

 そういう意味ではかなり僕も思い入れのあるプロジェクトで、設計が終わって工務店も工事がすぐにでも始められるような状況ですが、それにもかかわらず、藍場浜への変更案が同時に始まっているということにまだ僕も理解できない。

 僕個人の思いとしては、比較したいというだけではなくて、深い思いがあってこう書き上げてきた図面を、誰の目にも触れずに誰にも知られずに葬り去られてしまうのはとても悲しくて苦しい。県が許す限りの情報においては、できる限り多くの人たちに見て欲しいっていう思いで展覧会をやることにしました」

予算も大きくなり、工期も長くなった

 さらに後藤田案の新ホール計画についてはこんな苦言を呈した。

「今開催されているプロポーザルの予算は200億円以上になっていて、それはその当時の価格ではありますが、僕たちのプロジェクトの194億円をもうすでに上回っている。工期に関しても僕たちが今プロジェクトを続けていれば、今年の9月にはオープンできる予定でした。

 予算も大きくなり、工期も長くなっているように、新しい建設計画は曖昧になってきているんじゃないかという風に思います。どちらがいいかという話ではなくて、冷静に、どちらのプランをこれから進めたほうがいいのか、1回の立ち止まりがあってもいいんじゃないかと思い、そのきっかけとしてこの展覧会ができればいいかなという風に考えていました」

 知事選で「1800席・200億円のホールは高すぎる」と主張しながら、結局、「1500席、200億円」の金額は同じでスケールダウンしたホール建設を進めようとしている後藤田知事としては、「石上純也展」の開催で県民の多くが「石上案」の詳細を知ってしまい、「後藤田案」と比較されるとが觥合が悪いと考えて中止させたのではないかという疑念の声もある。記者会見に参加した古市憲寿氏も質疑応答で石上氏にその点を質問した。

「古市憲寿です。本当は展覧会に来ようと思ったんだけど、中止ってことで記者会見来ちゃったんです。徳島県やばいと思ったんですけど、せっかくだからこういう公の場所で聞いたほうが後から調べてもらえるかなと思って敢えて聞くんですが、5月の頭に(後藤田)知事が建築士事務所協会に来て、こういうイベントが困るっていう趣旨の発言をして、展覧会中止の圧力をかけたって話を今日聞いたんですけど、それって本当か石上さんはどう認識されてますか?」

 石上氏はこう答えた。

「僕もそういう噂は確かに間接的に聞いたことがあるんですが、事実に関しては、真相については分からない」

展示会を中止させた徳島県の回答は

 果たして、後藤田知事、徳島県はどういう理由で展示会を中止させたのか。徳島県に聞くと、こう回答した。

「会場は港の中の倉庫であり、倉庫として以外にも、ここを賑わい作りの場にも使っています。県の『にぎわいづくり構想』に基づくものです。そこでの目的は、地域活性化と観光振興を図ることを目的とし、『人が集い、交流が生まれる』港にぎわい空間を創出するというものです。これに沿ったものかを判断して使うことになっています。

 倉庫の土地は県のものですが、倉庫は民間のものです。倉庫を所有する民間業者と県は、使用に関する覚書を交わしています。今回の件は、倉庫を所有する民間の方に申し込みがあり、それを受け付け、その後で倉庫のほうから県に連絡があり、そこで県のほうで、目的に沿っていないと判断し、使用中止の判断をしました。

 判断の理由は2つあります。1つは、今回の展示は街づくりという観点からの、和やかな雰囲気になじまないと判断しました。街のブランド価値の低下を招く恐れが懸念されると 考えました。 2つめとして、県と市が連携してホール建設計画を進めているさなかであり、その中で情報発信地でこの展開(企画)を行なうことは、県からの情報発信と誤解されかねないと考えました。目指す街づくりとは違うということです。

 また、倉庫貸し出しの窓口は、所有者の方になっています。主催者(石上氏側)が口頭で申し込み、倉庫のほうで趣旨を把握した上で、5月25日に港湾政策課に連絡があり、当課が把握しました。その上で、上記の理由から、貸し出しは認めないという判断をし、倉庫の所有者にその旨を5月29日に伝え、所有者の方から主催者(石上氏)に伝えたという経緯になります」(県土整備部港湾政策課)

 また、現在の「後藤田案」について、予算が大きくなり、工期も延びていることについては、こう答えた。

「前計画におけるコストや工期は令和5年度の実施設計段階のものであり、新計画とは単純に比較できるものではないと考えています。なおその時点でのオープン予定は令和8年9月ではありませんでした。新ホール整備に向けては、議会で予算を認めていただくとともに、新たな県市協定にもとづき、適切な行政プロセスを経ながら、確実に取り組んでいるところです」(交流拠点戦略課)

 この回答に県民は納得するのか。今後の動きを注視したい。