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世帯年収2,000万円超のパワーカップルがペアローンを組めば、平均的な所得の家庭では手が出ない高額な不動産も購入可能です。しかし、もし離婚という事態になったら大変です。高所得者ならではの問題が噴出するからです。パワーカップルの離婚に伴うペアローンのリスクと、その後に続く債務整理の問題を見ていきます。司法書士法人永田町事務所の加陽麻里布氏が解説します。

合理的に見えたペアローンも、離婚となれば「大問題」に

共働き世帯の増加と都心部不動産価格の高騰を背景に、いわゆるパワーカップルによる高額物件購入が増えています。特に近年は、世帯年収2,000万円超の夫婦が、1億円を軽く上回るタワーマンションをペアローンで購入するケースも珍しくありません。

しかし、住宅購入時には合理的に見えたペアローンも「離婚」という重大局面を迎えた途端、シリアスな問題へと発展します。離婚して他人となった元配偶者との間に、ペアローンによる返済義務が残ってしまうからです。

物件を売却しても借金が残り(オーバーローン)、借り換えもできず、最終的に債務整理に至るケースは多いのです。

ペアローンのメリット・デメリット

ペアローンとは、夫婦それぞれが住宅ローン契約を締結し、1つの不動産を共同で購入する仕組みです。例えば、夫6,000万円・妻4,000万円という形で、それぞれが債務者となり、合計1億円の物件を購入する、といったケースなどです。

ペアローンには、借入可能額が増える、双方が住宅ローン控除を利用できる、借入額が大きくなるため希望エリアの高額物件を購入しやすい、といったメリットがあります。

しかし、上述の通り「夫婦関係が破綻しても、住宅ローン契約が残る」という実務上のリスクがあります。

住宅ローンは通常、35年前後という長期間にわたる契約です。しかし、金融機関はあくまで契約時点の夫婦関係と収入を前提に審査を行います。そのため、産休・育休・転職・独立・収入減少・離婚といった将来の変化までは織り込まれていないケースも多いのです。

特にパワーカップルの場合、「今の収入なら問題なく払える」という感覚から、借入額が大きくなりやすい傾向があります。しかし、住宅ローンは「今払えるかどうか」よりも「数十年間、環境が変わっても返済を継続できるか」が重要です。

離婚したらペアローンはどうなる?

離婚しても、住宅ローン契約は変わりません。妻と子どもが自宅に住み続け、夫が退去するようなケースでも、夫側のローン債務はそのまま残ります。

もし離婚協議で「今後のローンはすべて夫が支払う」等と取り決めたとしても、それは夫婦間の約束に過ぎず、金融機関との関係では、契約どおり双方に責任が残り続けます。

さらに、ペアローンではお互いが連帯保証人となっているケースも多く、一方が返済できなくなれば、別れたもう一方へ請求が及ぶリスクがあります。心の底から「ペアローンなんて組まなければよかった」と後悔する状況ではないでしょうか。

「売れば終わる」とは限らない…オーバーローン問題

「離婚したら、自宅を売却して清算すればいいのでは?」と考える方もいるでしょう。しかし、ここで問題となるのが「オーバーローン」です。オーバーローンとは、住宅の売却価格より、ローン残高のほうが多い状態をいいます。例えば、ローン残高が1億2,000万円で売却価格が9,000万円という場合、売却後も3,000万円の借金が残ります。

近年は、不動産価格の高騰を背景に、フルローンによる購入・諸費用込みの融資等も増えており、購入直後はオーバーローン状態となるケースもあります。

さらに問題なのが離婚後の借り換えです。例えば、物件に住み続けたい妻が夫をローンから外したいと考えても、単独年収で審査が通らないというケースは珍しくなく、それ以外にも、養育費負担の問題やその他の債務の影響等を理由に借り換えできないこともあります。

これらの結果、離婚後も元夫婦が高額なローンを共有し続けるという事態が起こるのです。

事態を複雑化させる「債務」と「感情」の併存

離婚に伴って生じるペアローンの問題は、物件、住宅ローン、連帯保証等をどうするかという実務的な話に、感情の対立が絡むことで、事態が複雑化する点にあると思います。物件の売却・清算を希望する夫と、このまま住み続けたい妻と子どもという対立が典型例です。

共有名義不動産は、原則として双方の同意がなければ売却できません。そのため、売りたいのに売れず、粛々とローン返済が続くこともよくあります。それだけでなく、離婚後の住まいの家賃、教育費、養育費、自動車ローン、クレジット債務といった金銭的な負担が重なることで、住宅ローン以外の部分まで破綻することもあるのです。

特に高所得者層は「自分たちはまだ大丈夫」という感覚から相談が遅れ、問題が深刻化しやすい傾向があります。

離婚後、債務整理を選択すべきケース

離婚後、返済継続が困難となった場合には、債務整理も選択肢として検討する必要があります。オーバーローンで売却できない、ほかの借入返済まで苦しくなっている、教育費や養育費負担が重い、元配偶者が返済しない、毎月の返済が生活を圧迫しているといった状況では、問題を放置することでさらに状況が悪化する可能性があります。

具体的な方法としては、下記があります。

●個人再生

子どもの学区を変えたくない、自宅を維持したい、社会的信用への影響を最小限にしたい、といったケースでは、「個人再生」が有力な選択肢となる場合があります。

【個人再生とは】

債務の支払が困難となった個人が利用する民事再生手続のことです。返済総額を少なくし、その少なくなった後の金額を原則3年間で分割して返済する再生計画を立て、債権者の意見を聞いたうえで裁判所が認めれば、その計画どおりの返済をすることによって、残りの債務(養育費・税金など一部の債務を除く)などが免除されるという手続です(ただし、養育費・税金など一部の債務は免除されません)。

出所:法テラスウェブサイトより

個人再生では、住宅ローン特則を利用することで、住宅ローンを維持しながら、その他の借金を大幅に減額できる可能性があります。

そのため、カードローン・リボ払い・事業性借入・教育ローンなどの負担を整理しつつ、自宅維持を目指せるケースがあります。

●任意整理

住宅ローン自体は支払えているものの、その他債務が重い場合には「任意整理」によって返済負担を軽減するケースもあります。

【任意整理とは】

裁判所などの公的機関を利用せず、当事者が私的に話合いをして、支払額や支払方法について合意をする手続です。自己破産などと異なり、支払をしていくことが必要な債務整理手続ですので、そのための原資の確保や家計管理が必要です。

出所:法テラスウェブサイトより

●任意売却

返済継続が困難な場合は、金融機関と協議しながら「任意売却」を進めるケースもあります。任意売却は、競売より柔軟な条件で売却できる可能性があり、残債務の整理について協議できる場合もあります。

【自宅の任意売却とは】

裁判所の競売手続によらずに、通常の不動産取引として住宅を売却する手続のことです。売却代金は、住宅ローンの残額に充てられますが、競売手続よりも高い金額での取引が期待できるため、抵当権者も応じてくれる場合があります。

出所:法テラスウェブサイトより

債務問題は早期の対応が重要

ペアローンは、パワーカップルにとって高額物件購入を可能にする便利な仕組みです。

しかし一方で、離婚してもローン契約は残り、元配偶者との債務関係が続きます。また、オーバーローンで売却できず借り換えもできないといった深刻な問題を抱える可能性があります。

そして問題が深刻化すると、単なる住宅ローン問題ではなく、生活全体を圧迫する債務問題へ発展していきます。特に高所得者層では、「まだ大丈夫」「収入があるから何とかなる」と考えてしまい、相談が遅れるケースも少なくありません。

しかし、債務問題は早期に対応するほど選択肢が広がります。家を守るのか、生活を立て直すのか。

離婚後のペアローン問題では、感情論だけではなく、将来を見据えた冷静な判断が重要になります。

加陽 麻里布

司法書士法人永田町事務所 代表司法書士