●「四方田誠が佐藤二朗すぎる」
2016年放送の『毒島ゆり子のせきらら日記』で初のテレビドラマ脚本を手掛け、第35回向田邦子賞を受賞した脚本家・矢島弘一氏。劇団「東京マハロ」の主宰でもあり、舞台でも映像でも活躍する矢島氏が脚本を務めるのが、佐藤二朗・橋本愛W主演のフジテレビ系ドラマ『夫婦別姓刑事』(毎週火曜21:00〜 ※FODで全話配信中)だ。

佐藤と橋本演じる夫婦の軽妙なやり取りが話題で、SNSでは「四方田誠が佐藤二朗すぎる」「全部アドリブ?」などの声で話題になるほど。実際、どこまでがアドリブか、それとも矢島脚本の“佐藤二朗解像度”が高すぎるのか。矢島氏本人に直撃した――。

(左から)橋本愛、佐藤二朗 (C)フジテレビ

警察には「夫婦は同じ部署に所属してはならない」という暗黙のルールが存在し、それが明るみに出れば、どちらかが異動。すなわち刑事課を追われる──? そこで、刑事課でバディとして活躍する四方田誠(佐藤)と鈴木明日香(橋本)が出した答えは、「別姓(明日香は旧姓使用のまま)刑事を続けること」。

同作は、そんな“夫婦別姓”刑事が、仲間に夫婦であることをバレないよう努力しながら、さまざまな事件を解決するコメディ色の強い刑事ドラマだ。第6話で所属する沼袋警察署全員にバレてしまったが、5月26日放送の第7話で2人は無事、同課内に残ることに。晴れて職場公認となり、改めて管内で起こる事件へと立ち向かっていく。果たして、世間を騒がせ続ける「消しゴム事件」も解決するのか…?

○佐藤二朗は基本、脚本通り

──佐藤二朗さんとは、長年の交流があるとお聞きしています。

そうですね。二朗さんには何度も僕の舞台を観に来てくださったり、僕自身も二朗さんの舞台を観に行ったりと、普段から交流がありまして。実は僕、これまで時代劇と刑事ものは自分の書くジャンルではないと思っていたので、これまでも断ってきたんですよ。そんななか、公私ともにお世話になっております秋元(康、本作の企画・原案)さんから今回の企画を頂いたのですが、企画書をめくった時に、主演・佐藤二朗と名前があったんです。

これまで断ってきた刑事もの、でも二朗さんとはお仕事がしたい…そう1週間ぐらい考えまして、秋元さんからも最初の打ち合わせで、推理ものではなく人間模様を描くドラマにしたいというお話を頂いたので、受けることにしました。でも、なんだろう。もう二朗さんのお名前を見た瞬間に、やりたくてしょうがなくなったというのもありますね(笑)

──佐藤二朗さんが決め手だったんですね! じゃあ、最初から当て書きを?

最初から当て書きさせていただきました。ただ、準備稿の本読み(※撮影に入る前に脚本を実際に声だけで演じる会議)の段階で、実際に二朗さんが声で演じられるのを聞いて、さらに寄せていきました。

──SNSでは、「佐藤二朗さんのアドリブか、脚本通りなのか分からない!」なんて声もあります。

いえ。基本、本通りに演じてもらっています。もちろん現場での多少のアレンジはあるでしょうけど…。それに脚本家って、やっぱりアドリブされるのはあまりうれしくないんです。やはり自分が考え抜いたセリフを勝手に変えられるのは、嫌な気持ちになるものです。

確かに、二朗さんのアドリブっぽく見える面もあるのでしょうが、実は二朗さんは、一つひとつ提案、相談してくださる方なんです。「これをこう言っていいのか」とか、「監督経由で矢島くんに許可を取ってほしい」とか、「この『……』では、僕に何を求めているのか」とか。そうやって、誠という人物が作られていったので、結果的に、視聴者の皆さんから、アドリブのようだといった声も上がったのではないでしょうか。

(C)フジテレビ

○想像をはるかに超えたコメディエンヌ・橋本愛

──妻役の橋本愛さんについてなのですが、これまで橋本さんに、あまりコメディのイメージはありませんでした。

そうですね。基本的に民放ドラマというよりはスクリーンでお見かけするイメージがあり、おっしゃる通りコメディをどう演じられるのか、最初は正直、全く想像ができませんでした。でも、だから書けないということはもちろん、ありません。橋本さんには、どこか“強い”印象がありましたので、ボケまくる二朗さん演じる誠と真反対の、凸凹夫婦/バディというところからキャラを膨らませていきました。

──なるほど。実際ご覧になって、コメディエンヌとしての橋本さんはどうでしたか?

これはもう正直に、想像をはるかに超える巧みぶりでした。さすがと言うべきか…。さらに二朗さんとの掛け合いもバッチリで、僕が書いた脚本をさらに跳ねさせていただいたようにも感じています。だって、僕自身が、僕が書いた脚本なのに、一視聴者として楽しませてもらっているぐらいですので(笑)。本当に素敵な女優さんだなと改めて思いました。

(C)フジテレビ

──夫婦の軽妙なやり取りも話題です。アメリカンドッグのカリカリ部分の論争とか、ああいったクスっと笑える小ネタのようなものは、どのように考えていらっしゃるのでしょう。

あれはですね(笑)、頭の片隅にずっとあったのだと思います。そういった小ネタは、いつも頭のストックにあり、いつ使うかは思い出した時というタイミングですね。アメリカンドッグに関しては、ある日スーパーへ行った時に置いてあったのを見て、思い出して入れましたね(笑)

──ちなみに矢島さんは、カリカリは肯定派? 否定派?

僕は、好きです(笑)

●『夫婦別姓刑事』というタイトルへの全スタッフ共通認識
矢島弘一氏

──「夫婦別姓」という制度については賛否あり、ドラマ発表当初はタイトルが先行してしまい、正直、SNSではハレーションもあったと思います。ですが、矢島さんは、「社会的なテーマを説教臭くなく物語に溶かす」手法がお得意で、ドラマを観れば、そんな政治色はないということが明確になります。このあたりについてはどう思われていましたか。

これについては、心配していませんでした。全スタッフの共通認識として、政治に対する想いというよりは、人間模様や家族について、誠や明日香、そして第7話から(亡くなった前妻との)娘の音花というキャラに語らせているだけでして、制度そのものについては、ご覧になる皆さん次第だと思っております。そしておっしゃっていただいた通り、説教臭いのは僕の作風ではなく、単なる家族間の話としてセリフや物語作りをしています。

──「家族」といえば、東京マハロの20周年記念公演舞台『可もなく不可もない戦争』(6月2日まで、東京・本多劇場)も「家族」を題材にされていますね。

そうですね(笑)。実は舞台の方は、私の家族がモデルなんです。僕の人生で起きた家族の壮絶なる5年間の出来事を、2時間に短縮した舞台で、ご覧になる方は信じられないでしょうけど、本当に起きた実話を基にしています。戦争というものは今も世界のどこかで行われていますが、東京の片隅のたった5人の家族の中でも、とんでもない戦争が起きているよといったお話でして。たまたま『家族』というテーマで『夫婦別姓刑事』とかぶってしまっていますね(笑)

──実話だったんですね(笑)。では、『夫婦別姓刑事』のほうの「家族」は今後、どうなっていくのでしょうか? そして、縦軸にある「消しゴム事件」の行方は?

これは秋元さんとも話していたのですが、1話から7話まではコメディでいきたいと。そして8話からガラッと雰囲気が変わります。8話では、明日香の過去が描かれますし、音花が一緒に住み始めましたが、当然うまく行くわけがないんです。それがどう再生し、また別れて、そこからどうまた再生していくか、といった家族のあり方みたいなところが描かれていきます。

また「消しゴム事件」に関しましては、それほどでもないのですが、セリフでも少し伏線があったりして。さらに監督が狙って、伏線めいた仕掛けもしていらっしゃいます。

──では、FODなどでもう一度、全話見直すと、考察もできる…?

そうしていただくのもうれしいですね(笑)。とにかく、今後8話からガラリと変わる雰囲気、そこから一気にラストへ向かっていく物語を楽しんでご覧いただけますと、うれしく思います。









(C)フジテレビ

衣輪晋一 きぬわ しんいち メディア研究家。インドネシアでボランティア後に帰国。雑誌「TVガイド」「メンズナックル」など、「マイナビニュース」「ORICON NEWS」「週刊女性PRIME」など、カンテレ公式HP、メルマガ「JEN」、書籍「見てしまった人の怖い話」「さすがといわせる東京選抜グルメ2014」「アジアのいかしたTシャツ」(ネタ提供)、制作会社でのドラマ企画アドバイザーなど幅広く活動中。 この著者の記事一覧はこちら