【燃料備蓄が枯渇し国民生活は破綻】トランプが目論む「ベネズエラと同じ方法」は成功するのか 「キューバ体制転換」を巡るアメリカの「成功と失敗の歴史」
米トランプ政権のベネズエラ攻撃以降、原油の移送を阻止されたキューバでは燃料が枯渇。食糧不足や全土で数十時間にわたる停電が続くなど国民生活が危機に直面している。数か月にわたりイラン攻撃を続けるトランプ政権が、さらにキューバへの圧力を強める狙いは何か。60年以上前に米ソ核戦争の一歩手前まで至った「キューバ危機」を振り返りつつ、国際政治学者の舛添要一氏が解説する。
【写真】停電が続くキューバの首都ハバナの様子、1962年のキューバ危機で海上封鎖命令を出すケネディ大統領ほか
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アメリカは、5月20日、キューバのラウル・カストロ元国家評議会議長(94歳)を起訴したと発表した。1996年にフロリダ州とキューバの間を飛行していたキューバ系アメリカ人の団体の航空機がキューバに撃墜された事件の責任を問うとの理由である。米空母ニミッツがカリブ海に入っており、軍事介入の可能性もある。ベネズエラ攻撃と同じパターンである。
今年の1月3日未明、米軍はベネズエラを急襲し、マドゥロ大統領夫妻を拘束し、ニューヨークに移送した。麻薬密輸などに関与したとして刑事訴追するという。
今回は、キューバに対して同様の処置をとろうとしているようである。しかし、現職大統領のマドゥロと違って、高齢で引退した身のカストロを拘束しても、体制転換にまで繋がるかどうかは不明である。
キューバの国民生活を破綻させたトランプの「新帝国主義」
独裁に反対する民主主義の立場から見ても、ベネズエラに対する軍事行動は国際法違反であり、主権国家に対する侵害である。マドゥロ逮捕後、トランプは、アメリカの裏庭に位置するコロンビア、メキシコ、キューバにも同様な軍事行動を起こす可能性を示唆し、イランの体制を転覆することなどを表明しした。
そして現実に、2月28日、アメリカは、イスラエルと共にイランを奇襲攻撃し、今も戦争を続けている。
さらには、トランプは、グリーンランドを領有する意欲を示している。法の支配よりも軍事力による支配を優先させる帝国主義の再来である。まさに、トランプ版のモンロー主義、「ドンロー主義」が顕著になっており、トランプの「新帝国主義」が展開されている。
ベネズエラのマドゥロ体制が崩壊し、アメリカが油田を管理することになったため、キューバには、それまで石油供給を依存していたベネズエラから石油が入ってこなくなった。そして、米海軍による海上封鎖で、海外から石油が輸送できなくなっている。そのため、電力をはじめ、生活インフラが止まり、国民生活が破綻している。
ベネズエラやイランに対する攻撃が典型的であるが、アメリカは、自らの意向に沿わない国の体制を武力で崩壊させようとする。それはトランプ政権に限ったことではない。
1989年1月20日、米大統領は、レーガンからブッシュ(父)に交代した。その年の12月にはパナマに侵攻し、翌年1月には反米の独裁者マヌエル・ノリエガを拘束した。その後パナマでは、民主主義が定着していった。
2003年3月には、イラン、イラク、北朝鮮を「悪の枢軸」と名指ししたブッシュ(子)がイラク戦争を起こし、12月にはサダム・フセインを拘束した。サダム・フセインは、2006年12月に処刑された。
キューバ革命後、カストロ政権転覆に失敗
キューバは、かつてはアメリカの保護国のような状態で、親米政権が支配していた。ところが、貧富の格差が広がり、不満を持った大衆の支持を背景に、1959年1月1日にフィデル・カストロが革命を起こし、親米のバチスタ政権を倒した。ラウル・カストロはフィデルの弟であり、一緒に革命に参加している。マルクス主義に基づく社会主義国であり、ソ連の支援を受けることになる。
この革命で、多くのキューバ人が海外、とくにアメリカに逃れていった。ルビオ国務長官の両親もそうである。
キューバ革命後、カストロに反対する亡命キューバ人1500人が、グアテマラでCIAによって訓練され、ピッグス湾から侵攻して、国内の反体制グループと協力しカストロ政権を倒す段取りを立てていた。
この作戦は、アイゼンハウアー政権下でCIAが決めていたものであり、その後のケネディ大統領も、計画の縮小を条件に、これを継続せざるをえなかった。
こうして、1961年4月15日、ニカラグアから飛び立った米軍はカストロの空軍基地を空爆した。しかし、攻撃は期待された成果を上げることができず、第二波の空爆は中止された。そして、予定通り17日に亡命キューバ人部隊はピッグス湾に上陸するが、カストロ軍に反撃されて、CIAによるカストロ政権転覆計画は失敗した。
ケネディは、あくまでもアメリカ不介入の方針を貫いた。そこで、「ケネディが十分な軍事的支援を与えなかったために、計画は失敗し、多くの亡命キューバ人の命が失われた」とタカ派の人々は非難したのである。
ケネディ暗殺犯とされているオズワルドが、マルクス主義者で、1962年にニューオリンズで、カストロに反対する亡命キューバ人と争いを起こして逮捕されたという報道があったが、当時のキューバとアメリカの関係が関連しているのかもしれない。
米ソ核戦争の一歩手前だった1962年のキューバ危機
さて、このピッグス湾侵攻作戦失敗の後も、ケネディ政権では、CIAを中心にカストロ政権を転覆させる計画が続けられていた。この動きに対抗するために、カストロはソ連に対して軍事援助を要請し、モスクワもこれに応じた。
1962年10月初め、ソ連から2万人の兵員とともに、戦車350台、軍事用航空機150機、野砲1300門、高射砲700門がキューバに陸揚げされた。それに加えて、秘かにソ連製の中距離ミサイルが運び込まれたのである。
アメリカは、10月14日にU2型偵察機の航空写真で、キューバ西部にソ連の準中距離弾道ミサイル(MRBM)、中距離弾道ミサイル(IRBM)用の基地が建設中であること、またイリューシン28爆撃機も組み立て中であることを確認した。ケネディは、自分の庭先にアメリカ全土を攻撃できるミサイルが配置されるのを容認できなかった。
そこで、10月22日、ケネディはキューバの海上封鎖を発表し、ソ連に対してミサイルの撤去を要求した。こうして、世界は、一触即発の核戦争の危機に直面することになったのである。
米ソ間の息詰まるような外交交渉の結果、フルシチョフ首相が遂に折れ、28日にミサイルを撤去することに同意した。ケネディの力の政策は功を奏し、人類は核戦争、そして第三次世界大戦の危機を回避することができたのである。
トランプ政権下でさらに強まるキューバへの圧力
キューバ危機の後も、キューバでは共産党による一党独裁が続いた。アメリカは、1982年以来、キューバをテロ支援国家に指定してきたが、オバマ政権は、2015年にはキューバと国交を回復した。しかし、第一次トランプ政権は2021年に再びキューバをテロ支援国家に指定し、その強硬姿勢は、第二次政権でも続けている。
今年になって、1月29日には、トランプは、キューバに石油供給する国からの輸入品に関税を課す大統領令に署名。5月7日には、キューバの軍関係企業グループ「ガエサ(GAESA)」に対する制裁を発動した。これらの措置の結果、5月13日には、キューバは、燃料備蓄の枯渇を発表した。同日、アメリカは、キューバに対する1億ドルの人道支援を表明した。
5月14日には、CIAのジョン・ラトクリフ長官がハバナを訪れ、キューバ政府に、中国とロシアの通信傍受施設の閉鎖と経済改革を迫った。しかし、キューバ側は、「中露の軍事関連施設は存在しない」と反論した。
業を煮やしたアメリカは、20日、カストロ元議長の起訴を発表したのである。
トランプは、今やキューバを崩壊させ、かつてのようにアメリカの保護国とする魂胆が見え見えである。ベネズエラと同じ解決策を考えているようだが、簡単に成功するわけではないだろう。
キューバはベネズエラと同じ道をたどるのか
ベネズエラでは、反米左派のウゴ・チャベスが1992年にクーデターを起こし、(失敗し投獄されたが)民衆の支持を得て1999年に大統領に就任し、アメリカや親米の隣国コロンビアとの対立が激化した。
2013年にチャベスががんで闘病後に死去し、マドゥロが後継者となったが、原油価格の下落などもあって、インフレなど経済情勢は悪化していった。政治的には、憲法を無視して独裁を強化していった。
2018年5月の大統領選では、有力な野党政治家は立候補できなくされ、マドゥロが再選された。2024年7月の大統領選挙では、野党連合はマチャドを候補としたが、マドゥロ政権はマチャドに公職就任を禁止し出馬させなかった。
マドゥロ政権は、反米、反欧州の姿勢を堅持し、ロシアや中国の支援を取り付けてきた。しかし、経済の悪化と、民主主義の抑圧に耐えかねて、730万人がベネズエラを去っている。2840万人の人口の4分の1以上が国外に脱出したのである。
マドゥロを拘束した後、トランプは、副大統領のデルシー・ロドリゲスを大統領代行に据えて、事実上のアメリカの傀儡政権を維持している。
キューバが、マドゥロによる独裁から解放されたベネズエラと同じような展開を見せるかどうかは不明である。
【プロフィール】
舛添要一(ますぞえ・よういち)/1948年、福岡県北九州市生まれ。1971 年東京大学法学部政治学科卒業。パリ(フランス)、ジュネーブ(スイス)、ミュンヘン(ドイツ)でヨーロッパ外交史を研究。東京大学教養学部政治学助教授などを経て、政界へ。 2001年参議院議員(自民党)に初当選後、厚生労働大臣(安倍内閣、福田内閣、麻生内閣)、東京都知事を歴任。『都知事失格』、『ヒトラーの正体』、『ムッソリーニの正体』、『スターリンの正体』(いずれも小学館刊)など著書多数。
