戸田恵梨香の起用から制作裏話まで…細木数子の生涯を描く『地獄に堕ちるわよ』瀧本智行監督が語る魅力
「彼女のレギュラー番組が嫌いだったんです。テレビに映ったらすぐにチャンネルを変えるくらい。だからオファーを頂いた時も『俺には無理だよ』って心境でした」
苦笑しながら語り始めたのは、映画『脳男』や『グラスホッパー』で知られる鬼才・瀧本智行監督(59)だ。今回、彼が挑んだのは’21年に世を去った“最強の占い師” 細木数子(享年83)の半生。4月27日からNetflixで世界独占配信される『地獄に堕ちるわよ』は、平成のテレビ界を席巻した細木数子の光と影を、かつてないスケールで描き出している。
〈地獄に堕ちるわよ!〉
強烈な決め台詞で視聴者をクギ付けにした細木数子。しかし、本作が映し出すのは、我々がテレビを通して見ていた姿だけではない。瀧本氏は語る(以下、「」内の発言はすべて瀧本氏)。
「細木さんの自伝『女の履歴書』(廣済堂出版)と、彼女の裏の顔を暴いた溝口敦さんの評伝『魔女の履歴書』(講談社)。この表と裏の履歴書をベースに彼女の人生を再構築しました。ドラマの現在軸は’05〜’06年。キャリアの頂点にありながら、週刊誌の連載によって過去が暴かれ、奇しくも細木自身が提唱した六星占術の大殺界へと突入していく時期です。そこがドラマの始点として相応しいと考えました」
リサーチを進める中で、瀧本氏の「嫌悪感」は興味へと変わっていったという。
「彼女はまさに戦後日本を象徴する人物の一人。焼け跡の闇市から這い上がり、銀座でクラブを成功させ、現在価値で10億円もの借金を背負いながら占いに目覚めていく。その過程は視聴者が『続きを見たい』と思える圧倒的なパワーに満ちています」
本作の脚本には監督の意見も反映されており、細木の負の側面についても、容赦なく描かれている。
「裏側を描くことに臆することは一切なかった。暴力団との関係も、地上波なら『勘弁してください』と言われる内容かもしれないですが、Netflixは『行きましょう』と言ってくれた。ただ、いくらフィクションでもここまでは見たくないだろうという線引きはしました。あまりにダークすぎるエピソードは取捨選択し、ドラマとして彼女を愛せるキャラクターにするために昇華させています」
劇中では、物語の鍵を握る大物歌手・島倉千代子(享年75)も実名で登場する。当初は仮名にする案もあったが、瀧本氏は「仮名にしたらドラマが台無しになる」として、遺族の許可を得ることで実現させた。そうした覚悟により、島倉と細木の複雑な関係も明け透けに描かれる。
キャスティング発表時、話題になったのが主演・戸田恵梨香(37)との容姿の乖離だ。細身の戸田が、ふくよかな細木をどう演じるのか。
「特殊メイクで太く見せる選択肢もありましたが、着ぐるみのようになるとお客さんの気が散る。僕は、彼女が細木数子の精神性を演じれば、容姿の違いなど2話も見れば気にならなくなると信じていました。結果、その判断は正しかった。戸田さんの演技は、僕の想像の上をいく素晴らしさでした」
瀧本氏は、戸田の爆発力に圧倒されたと振り返る。
「繊細なシーンでの芝居の細やかさ、感情を剥き出しにするシーンでのギアの入れ方。細木数子を演じられるのは、世界で戸田恵梨香しかいなかったと本心から思わされました。次々に現れる豪華な男性陣との共演も楽しんでいたようです。一人の俳優との撮影が終わるたびに名残惜しそうにしながらも、次の“男”が登場すれば、新鮮に役者として火花を散らしていました。
現場では、戸田さんと通常の作品作りより、かなり話をしましたね。シーンを演じる前に腑に落ちるまでコミュニケーションを重ね、ひとたび腹が決まれば、彼女はカメラの前で文字通り魔女へと変貌したんです」
制作費も破格だ。昭和20年代の新橋から高度経済成長期の銀座、赤坂を再現するため、街ごと巨大なセットを作り上げた。
「戦後の焼け野原や、昭和の街並みを再現しただけで、小さな映画が一本撮れてしまうほどのお金がかかっています。それぞれの時代ごとにおよそ30台もの当時の車両を用意し、エキストラ約100人の髪型も時代の流行に合わせて一人ひとりセットした。映るものに嘘が入ると、しらけてしまいますから」
そこまでして瀧本氏が描きたかったものとは何か。
「僕は校内暴力全盛に育った世代ですから、正直、彼女のような権威は大嫌い。でも、自分の欲望に忠実に、人を騙し、貶めてでも生き抜いてやるという生命力は、すごいと言わざるを得ない。毀誉褒貶(きよほうへん)ある人物ですが、これほどのエネルギーを持った女性がかつていたことを、みなさんにどう受け止めてもらえるか。楽しみですね」
欲望と地獄。伝説の占い師の真実に、我々は叩きのめされることになる。
