女優・杏が日本とフランスで子育てして実感…日本で「良かったこと」と「生きづらかったこと」

写真拡大 (全3枚)

2022年8月に日本とフランスの二拠点生活を開始した女優の杏さんは、現在、双子である長女・次女、年子の長男を育て、そして二匹の犬を飼っている。移住後すぐに始めたInstagramやYoutubeでパリでの日常を発信し続け、多くのファンを魅了している。

そして、2026年3月18日に『杏のパリ細うで繁盛記』(新潮社)、『杏のとことこパリ子連れ旅』(ポプラ社)を同時販売。3月22日にパリでは初となる出版記念イベントも、チケットが即完売するほどの人気ぶりを見せた。

本の中では、日本とフランスのどちらでも育児の経験をもとにしたエッセイも収録されている。今回は二ヵ国の育児環境の比較と、三児と二匹との日々を乗り切るコツについて、話を聞いた。

あん/1986年4月14日生まれ、東京都出身。俳優・モデル。2001年にモデルとしてデビューし、その後、雑誌、映画、ドラマなどで幅広く活躍。2022年より日本とフランスで二拠点生活をスタート。2026年4月5日放送・配信のWOWOW日本×フィンランド共同製作ドラマ「連続ドラマW BLOOD & SWEAT」にて主演を務める。著書に『杏のパリ細うで繁盛記』『杏のとことこパリ子連れ旅』『杏の気分ほろほろ』『杏のふむふむ』。

子どもといて楽しい街

―『杏のパリ細うで繁盛記』を書かれたきっかけを教えてください。

日本に住んでいたころ、当時の愛犬・ヤマトが旅立ってしまいました。その時の気持ちを、どうしてもアウトプットしたくて、「ヤマト記」という文章を書いたんです。

それをヤマトが生前お世話になった方たちに読んでほしくて、お菓子屋さんにヤマトのイメージのクッキーを作ってもらい、一緒に配りました。

配った方の中に、新潮社の編集者さんがいて、「これ『波』に載せない?」と言っていただいて。そこから連載に繋がりました。(ヤマト記は本編巻末に収録)

―初めてパリに来たのはいつでしたか?

十代の頃にファッションウィークで来ました。事務所から送られてくるオーディション先の住所が、一日に10〜15箇所くらいあるんです。

当時はスマホがなかったから、開いている時間と住所を見比べて「どの順番で回ろう?」と紙の地図とにらめっこしていました。ポートフォリオとハイヒールをカバンに詰めて、メトロを乗り継いで、駆け回っていました。

―当時のことを思い出して印象深かったことはありますか?

よく登場するようなおしゃれなカフェとは無縁でした(笑)夜に急にフィッティングに呼ばれたり、受かってショーの本番が入ると3〜4時間身動きがとれなかったりしました。お金も時間もない中で、頭を占めていたのは「どう効率よくまわれるか」ということだけです。

でも、そのおかげで、パリの地理にはだいぶ詳しくなりました。その後に子どもたちを連れて旅行に行って、「土地勘もあるし」と、移住を決めたんです。もし、紙の地図を持って走り回っていたのが違う街だったら、今は別の国に住んでいたかもしれません。

―実際に住んでみてギャップはありましたか?

子どもと一緒にいて、こんなに楽しい街なんだな、と。エスカレーターやエレベーターがあんまりなくて大変ですが、その分、子どもを3人も連れていても、周りから嫌な顔をされることはありません。

あとは、美術館の子ども向けイベントが多いのと、誕生日会のプランがたくさんあります。オペラ座では「オペラ座の謎をとけ!」というミステリーツアーとバースデーパーティーを兼ねたプランを見かけました。

日本では見かけないような「テアトル(演劇)」のような習い事がたくさんあることにも驚きました。有名なショコラティエが「親子クラス」を開催していて、私は子ども3人と親ひとりで挑戦する勇気がないから、まだ申し込めていませんが……。

―危険な目にあったり、治安が悪いなと感じたことは?

子供が小学生のうちは、送り迎えや外出には大人が絶対に付き添わなきゃいけませんが、その分安心ではありますね。大人は大変ですが…。

治安については、小学校で子どもの上着がなくなったことがありました。担任の先生に相談したら「それは私の管轄じゃないから」と。周りの保護者たちも「誰か間違えて持って帰っちゃったんじゃない?」「なくなったら仕方ない」とあっさりしていて。「じゃあ他の子の上着を持って帰れば?」という先生もいました(笑)

料理と裁縫が手厚い日本

―フランスは日本に比べて出生率が高いです。これはなぜだと思いますか?

社会保障や産休育休のシステムは日本にもあるので、必ずしも制度の差というわけではないような気がします。

最近ではだいぶ変わってきてるとはいえ、日本では母親が子育てして当たり前、家のことは女の人がやって当然という考えがまだまだ根強い。

フランスは男女差や役割で判断されることがかなり少ないのではないでしょうか。朝の送りはシッターさんがしている家庭も多いです。小学校の保護者会では、参加者の半分がお父さんでした。「子供のことはママ。パパは家のことは分からないのが当たり前」という空気はないですね。

―日本のほうが良かったと思うことはありますか?

便利グッズは、日本のほうが多いですよね。あとは、時間が読みやすい。郵便と宅配が日時通りに来てくれるのは、日本ならではのことでした。

ヨーロッパは遅れることもあるし、その場合は来るまで待たなきゃいけません。そもそも来ないことも。今日も、頼んだものが届いていなくて、管理人さんに相談しに行ったばかりです。こういった急な時間変更は本当に多くて、子どもの習い事も、突然メールが来て「今日はありません」と言われることが、しょっちゅうあります。

入学式・卒業式・運動会・文化祭といった行事がないのも、親としてはさみしいですね。始業式や終業式もなく、唐突に新しい学年が始まるのは楽ですが、「卒業式くらいは、あってもいいんじゃないの?」と思っちゃいます。

あと、小学校では基本的に座学で、体育、美術、技術、家庭科は「家でお好きにどうぞ」という方針です。

―杏さんはYouTube で料理を発信されているので、お子さんにとって家庭科がわりになりそうです。

子どもたちと一緒に料理をすることはあるけど、あくまで「私のやり方」でしか教えられないので。私が習った三十年前の知識のままだから、アップデートされてないんです。

日本の小学校では、体系的に習うことができますよね。「人参は先生はああやって乱切りしていたけど、お母さんはこうやって切るんだな」というのを見た上で、自分でどっちにするかチョイスすることができます。裁縫にしても、玉止めのやり方ひとつとっても同じ。料理と裁縫は日本の方が手広くて、手厚かったんじゃないかな。

仕事と育児を両立するコツは「人を頼る」体制

―本編では、シッターさんやご友人に頼っている姿が印象的でした。これはフランスに来てからですか?

子どもが生まれる前からシッターさんは探していました。なので、日本にいた頃からですね。そうじゃないと何もできないので。

仕事に行くときには「ごめんね」でなくて「ありがとう」と言うようにしています。子どもたちの「さみしい」という気持ちは否定しないけど、お母さんは悪いことをしているわけじゃない。「また旅行にいくために必要なんだよね!」と、ポジティブに転換しています。

―お子さんたちは「さみしい」と、よく言ったりしますか。

最近では、口うるさいお母さんと離れることができて嬉しいみたい(笑) 友だちの家にお泊りできるときなんて、すごくはしゃいでいますね。3人の子どもたちは一緒にいるので「さみしい」と思う機会は少ないかもしれません。

―ご友人と子連れで過ごす際に気を付けていることはありますか?

どんなに親しくても、ある程度節度を持って頼むようにしています。「見てもらっている間に、かかったお金は全部払うから」と約束しておいたり、日中に預かってもらったら、夕食は一緒に食べたり。友だちだから当たり前と思わず、かたちに残るお礼をするようにしています。

―「人に迷惑をかけるな」と教えられてきたため、頼ることが苦手なママが多いですよね。頼るコツを教えてください。

お願いしたい時だけ連絡するという付き合いをしていると「そういう役割なんだな」と思われちゃいますよね。そうならないように、友だちとは、お互いに近況が分かるような体制にしています。そんな打算的な感じじゃなくて、普通に連絡を取りたいから取っているんですけどね。

―それぞれの本をどんな人に読んでほしいと思っていますか?

『杏のとことこパリ子連れ旅』はガイドブックの要素が強いので、旅行気分を味わいたい人や、子連れで旅行に行こうと思っている人にはぜひ見てもらいたいです。

『杏のパリ細うで繁盛記』は、女優然としたエッセイでは全くなくて、パリでの暮らしぶり、日常のトラブル、オタクな趣味などを綴っています。フィンランドの章では、女優業の裏側ものぞけるようになっていますが、特定の作品を観ていないと楽しめない、というわけじゃない。たとえ『杏』という人物に興味がない人にも、ひとつの読み物として楽しんでもらえたら嬉しいです。

後編を読む『「自分を滅してこそ美徳な日本」「自分も楽しみたいフランス」女優・杏が2拠点生活で感じた価値観の違い』

【つづきを読む】「自分を滅してこそ美徳な日本」「自分も楽しみたいフランス」女優・杏が2拠点生活で感じた価値観の違い