日本社会が長らく思い込んでいた「反省」で問題が解決されるという幻想
7人に1人、日本に約1700万人いるとされる「境界知能」の人たち。
言語化が苦手、仕事の段取りを覚えられない、行動がワンテンポ遅い、対人関係の距離感が極端、金銭管理ができない、ダマされやすい……困っているのに気づかれなかった人々の実態とは?
発売即重版が決まった話題書『境界知能の人たち』では、当事者を見てきた第一人者の医師が、全体像をわかりやすく解説する。
(本記事は、古荘純一『境界知能の人たち』の一部を抜粋・編集しています)
反省では解決しないからこそ
就労支援および社会復帰について、一般就労が見込まれる人に対しては、ビルハウスクリーニング科などのプログラムが、福祉的就労が見込まれるものは就労実務科の職業訓練が行われ、出所に向けて職場体験や外部通勤作業を実施しています。
社会復帰支援の課題は、本人や家族の障害の受け止め方と、療育手帳や精神障害者保健福祉手帳の取得にあるとのことでした。境界知能の受刑者は、併存症がないと手帳の取得に至らず、出所ができたとしても、就労や社会復帰の壁にあたることになります。
施設を見学して、このプログラムと生活指導が、境界知能児の支援にきわめて有用だと感じました。
個々の特性に応じた処遇が、司法関係者だけでなく、心理、教育、福祉、就労支援、医療者の多職種が連携し、科学的知見に基づいて考えられていること、起床から睡眠時まで24時間一貫した方針を複数の担任とすべてのスタッフで支えていること、授業や職場(就労訓練)に限らず、生活場面で生じうる困りごとや困難さを随時把握できて、速やかに助言や対応ができることです。
これらの取り組みは受刑者同士のトラブルの防止・減少にも寄与し、暴力に起因する規律違反が一度も生じていないそうです。また、達成感の乏しさ、低い自己肯定感、時間や健康の管理ができないなど、境界知能の人に2次的に生じやすい困難さも未然に防ぐことができています。
日本では長らく、問題が生じたら「反省」し、それでよしとする教育方針をとってきましたが、こうした旧来の手法に疑問を感じることがあります。
問題解決能力の乏しい境界知能の人に、反省という抽象的な概念は難しいものでしょう。他者の指示で過去を振り返るよりは、将来に向けた計画を立てられるように、具体的に過去の失敗をふまえた周囲の助言を生かして、自分で考える力を身につけなければいけません。
市原青年矯正センターのプログラムはまさに、そのことにも照準のあった理想的なものであり、普遍的なプログラムとなりうると考えます。
事実、施設開設以来、さまざまな分野の専門家・支援者、特に地元の教育就労関係者の見学が多数あり、2024年度では2006名にも上ったとのことです。この取り組みがさまざまな分野で広がっていくことを期待しています。
さらに「日本に1700万人いるとされる「境界知能」の人たち…当事者を見てきた医師が明かす「その実態」」では、7人に1人いるとされ、知的障害と平均値のボーダーにある境界知能の実態に迫っていく。
