西武渋谷店

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20年間の話し合い

 若者でごった返す東京・渋谷駅前のスクランブル交差点を渡ると、空中廊下でつながれた古いデパートが見えてくる。「そごう・西武」が、9月末をもって西武渋谷店の営業を終了すると発表したのは3月25日のことである。

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「今回、閉店するのは大通り(公園通り)に面したA館、B館とパーキング館の三つになります。理由は地主さんが進める再開発計画に参加させてもらえなかったこと。話し合いは20年間続けてきましたが、先方から交渉を打ち切ってきたのです。もっとも渋谷西武は、ほかにもロフト館、無印良品などが入るモヴィーダ館があり、この2館については自社物件であることから、引き続き営業いたします」(そごう・西武の広報担当者)

 若い世代はピンとこないかもしれないが、かつての渋谷西武は、日本でもっともイケてるデパートだった。セゾングループ元代表の堤清二氏が有名コピーライターを起用し、金にあかして〈おいしい生活。〉〈不思議、大好き。〉などの宣伝を打ち、それが社会現象のように大流行したものだ。

西武渋谷店

エルメスやイブ・サンローランを……

 元西武百貨店常務で渋谷店長を務めた牧山圭男氏が振り返る。

「私が西武に入ったきっかけは、義父の白洲次郎さんが堤さんと知り合いで、入社を勧められたことでした。もともと渋谷は東急の牙城で、東急グループ総帥の五島慶太さんの了解を得て、西武が渋谷店を出せたという経緯があります。ですから、渋谷における西武の存在感は小さかった」

 しかし、堤氏の天性のセンスと人脈が弱小百貨店を生まれ変わらせる。

「百貨店は主にアパレルを売るところです。堤さんの妹は邦子さんという天才バイヤーで、フランスからエルメス、イヴ・サンローランといった高級ブランドを次々持ち込んでは大当たりさせた。エルメスなどは、わずか2年で初期投資を回収したほどでした」(同)

レジが壊れるほどの盛況

 さらに西武は、雑貨部門でも東急グループに正面対決を仕掛ける。

「堤さんから直接“東急ハンズ(現・ハンズ)のような店を作ってくれ”と指示を受け、私が店を立ち上げることになったのです。それが『渋谷ロフト』。開店初日は、堤さんも心配になって視察に来ましたが、結果はレジが壊れるほどの大盛況。普段は感情を表に出さない堤さんが大喜びしたのを覚えています」(牧山氏)

 だがバブル崩壊後、セゾングループは解体。西武百貨店もそごうと合併し、外資投資ファンドの傘下に入ったのはご存じの通り。閉店の発表後、渋谷西武を訪ねてみた。週末だというのに閑散としていて、一瞬だがフロアに客が一人もいない時間もある。

 西武が消えることで、渋谷にはデパートが一軒もなくなることになった。

「週刊新潮」2026年4月9日号 掲載