200メートル決勝後、会場の外で記念撮影した(左から)父・正雄さん、母・絵美さん、清水空跳、姉・優奈さん【写真:荒川祐史】

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父は金沢「あかめ寿司」店主で陸上一家 まだまだ続く清水家の“陸上物語”

 陸上インターハイ(ホットスタッフフィールド広島)男子100メートルで10秒00(追い風1.7メートル)の日本高校新記録を記録し、200メートルとの2冠を達成した星稜の清水空跳(2年)。100メートルは桐生祥秀の従来記録(10秒01)を12年ぶりに塗り替え、200メートルでは追い風参考ながらサニブラウン・ハキームが持つ高校記録(20秒34)まで0秒05に迫った。一躍、時の人となった16歳。石川・金沢から応援に駆け付けた家族がその素顔を明かした。(取材・文=THE ANSWER編集部・山野邊 佳穂)

 西日を浴びて喜ぶ末っ子の笑顔は、客席の家族からも輝いて見えた。

 タイムレース形式となった男子100メートル決勝3組。全体1番目のリアクションタイムで抜群のスタートを切った清水は一気に加速。ライバルを置き去りにした50メートル地点で、客席から見守った父・正雄さん(48)、母・絵美さん(48)、姉・優奈さん(22)の3人は早くも興奮状態に。ゴール後、電光掲示板が「10.00」で静止すると、会場の歓声を独り占めする清水を横目に、家族も喜びを爆発させた。直後に「(世界陸上の)参加標準、切ってるんじゃない?」と気が付き思わずキョトン。感情が揺さぶられた数分間だった。

 筋金入りの陸上一家だ。父・正雄さんは走り高跳びで国体4位の実績を持ち、母・絵美さんも100メートル障害で日本選手権や国体に出場。姉・優奈さんも400メートル障害で全国大会出場という経歴を持つ。面倒見の良い優奈さんの後を追い、清水は小学4年時に地元のクラブチームで競技を始めた。長田中3年時には200メートルで全中制覇、星稜高では1年時から100メートルでインターハイ準優勝。2年生となった7月上旬の日本選手権では桐生が持っていた高2記録10秒19に並び、高校生で唯一準決勝に進出するなど、実績を積み上げた。支えになっているのが、今も同居する家族の存在だった。

 正雄さんは創業50年を迎えた寿司屋「あかめ寿司」の2代目。JR金沢駅から徒歩5分に店を構える。大会前には父が握る寿司を食べて景気づけするのが清水のルーティンだ。好きなネタは「マグロかトロ」と笑顔で話す。正雄さんによると「学校の進路の話でも『最後は寿司屋をやる』と伝えているみたい」と3代目を継ぐ意思があるというが、「陸上を全うしてほしい」と愛息の将来を思いやる。

9月の東京世界陸上も現実味 家族も大混乱「チケットも…」

 店を臨時休業して、家族3人で駆け付けた今大会。100メートルの決勝前には競技場の外で清水とバッタリ遭遇した。伝えられたのは「3桁(9秒台)を狙う」という言葉。思わぬ一言に驚いたが、「力むなよ」「楽しんでこい」とハイタッチで送り出した。1000分の1秒単位では「9秒995」。タイムは繰り上げとなるため、夢の大台は距離にして「あと5センチ」でお預けとなったが、日本高校新のほかにも今季日本最速、日本歴代5位、U18世界記録……と記録ずくめの快走。目標を共有し、一丸で戦ってきた清水家にとって大きな1歩になった。

 9月に開幕する東京世界陸上。出場も現実味を帯びてきた。清水は「自分でも受け止め切れてはいない。(大会は)観客として観に行こうと思っていた」と驚いたが、それは家族も同様。正雄さんが「ハイジャン(走り高跳び)の日はチケットを取っている。(息子の出場は)全然頭になかったから」と話せば、絵美さんも「チケットもどうなっているか分からないから帰ったら調べないと」と笑顔を見せる。想像を超える息子の急成長と活躍で、嬉しい悩みが増えるばかりだ。

 正雄さん、絵美さんは「明るくて負けん気が強い。ちょっと律儀な一面があったり……」と素顔を明かす。今大会の最終レースとなった200メートル決勝後、清水は集まった報道陣に「お姉ちゃんがもう帰っちゃうので」と言い、向かった先は家族のもとだった。母にトロフィーを渡し、4人並んで記念撮影。そこではあどけない末っ子の顔に戻っていた。

 夢は9秒台スプリンターとオリンピック出場。清水家の“陸上物語”はまだまだ続いていく。

(THE ANSWER編集部・山野邊 佳穂 / Kaho Yamanobe)