水はどのくらいのペースで、どのくらいの量を飲むのが正解なのか。医師の谷口英喜さんの書籍『いのちを守る水分補給』(評言社)より、適切な水分補給についての解説をお届けする――。

■水の飲み過ぎで「水中毒」になる

「水中毒」という言葉をご存知でしょうか。

水分補給には水が適しているのですが、水だけをたくさん飲んでいると水中毒という病気になる危険性があります。

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水の飲み過ぎで「水中毒」になる(※写真はイメージです) - 写真=iStock.com/fizkes

水中毒とは、もともとは精神疾患を有した患者が水を大量に(5〜10リットル程度)飲水することにより生じる「希釈性低ナトリウム血症」の症状のことです。

食事をとらずに水ばかり飲んでいると、体液が薄まってしまい、危険な状態になるのです。いわゆる水飲みダイエットでも起きることがあります。

体液が薄まると、塩分(ナトリウムイオン)濃度も薄まり、意識がもうろうとしたり、けいれんを起こしたりする水中毒と呼ばれる状態になります。

重症化すると脳浮腫、肺水腫および心不全を起こし、死に至ることもあるのです。

■1時間に1リットル以上の水を飲んではいけない

理論的には、人間の腎臓がもつ最大の利尿速度は毎分16ミリリットル(1時間に960ミリリットル)であるため、これを超える速度で水分を摂取すると体液希釈が起きるとされています。

出所=『いのちを守る水分補給』

よく見られるシチュエーションとしては、以下があります。

?スポーツで大汗をかいたのに真水ばかりを大量に摂取
?ダイエットの空腹を紛らわすために真水を大量に摂取(水飲みダイエット)
?下痢や嘔吐の水分補給に真水ばかりを大量に摂取

■塩分摂取で防ぐことができる

水分補給として、真水ばかりを大量に(1時間に1リットル以上)摂取することは避けるべきです。

水中毒は、塩分が含まれた食事や飲料を摂取することで防ぐことができます。

水中毒の治療は、軽症ならば塩分を投与したり、経口補水液を摂取したりすることでも改善されます。

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塩分摂取で防ぐことができる(※写真はイメージです) - 写真=iStock.com/Aygul Bulte

意識障害や血圧低下などがある場合には、専門医療機関での治療が必要です。利尿薬と輸液療法の併用、場合によっては透析が必要なこともあります。

・1時間に1リットルの真水だけをとるのは避けよう。
・水分補給=大量の飲水と短絡的に考えるのは大変危険。水中毒で、いのちを失うことも。

■水分補給の基本は「食事からとる」

よく「経口補水液とかスポーツドリンクをふだんから水分補給として飲んだほうがよいのでしょうか?」という質問をされます。

その答えは「健常時なら水やお茶でも十分な水分補給になります」となります。

ただし、水ばかり飲んでいると、前述のようにいわゆる水中毒になる危険があります。

「水分補給の基本は食事からとりましょう」というのが大原則です。

食事をしっかりとっていれば、1日に必要な水分量の半分を水分としてとります。だから水分の種類については、水やお茶で十分と考えてください。

■スポーツドリンク・経口補水液は必要ない

食事をしっかりとれていれば、食事中に含まれている電解質や糖分で十分に必要成分をまかなえます。

経口補水液やスポーツドリンクにはたくさんの電解質や糖分が含まれているので、食事に加えて摂取すると塩分や糖分の過剰摂取をまねきます。

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スポーツドリンク・経口補水液は必要ない(※写真はイメージです) - 写真=iStock.com/leonori

その結果、血糖値が上昇したり、塩分過多で血圧が上昇したりする危険性が増します。

理想的な水分補給方法は、栄養価の高い食事を十分にとって、合間に水やお茶で水分補給することです。

■子どもの熱中症対策も「食事」

夏になると保護者の皆さんは、子ども達の水筒に何を入れるか迷うことでしょう。その答えも「水かお茶」で大丈夫なのです。

スポーツドリンクを入れたくなる気持ちもわかります。しかし、糖分濃度が高い飲料はむし歯の原因になったり、血糖値を上昇させたりする危険性があります。

特に、熱中症対策にとって不利になるのは、血糖値上昇による食欲の低下です。食欲が低下して食事からの水分をとれなくなるのは本末転倒です。

必要水分量の半分以上は食事から摂取すべきです。

経口補水液を水筒に入れるのもやめてください。食塩過剰摂取になるだけです。

子ども達への熱中症対策のための食生活の指導は、以下のようにするのがよいでしょう。決して、塩分を余分に摂取する必要はありません。

?朝ご飯をしっかり食べる。夜に失った水・電解質を補給する。
?水筒の中身は水またはお茶。カフェインに弱い場合はカフェインレスで。
?お弁当・給食を十分にとる。午前中に失った水・電解質を補給する。
?休み時間だけではなく、授業中にも自由に水分摂取ができる環境を。

■「カフェイン入り飲料」を飲んでもいい

ちょっとした水分補給の知識がある人なら、誰しもが異口同音に言うのが「カフェイン入り飲料は水分補給にはなりません」というフレーズです。

一見、正しいフレーズと思いきや、これは科学的根拠に基づいたものではありません。

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「カフェイン入り飲料」を飲んでもいい(※写真はイメージです) - 写真=iStock.com/kuppa_rock

カフェインはコーヒー豆、マテ茶を含む茶葉、カカオ豆、ガラナなどに天然に含まれている食品成分の1つです。

カフェインの1日あたりの摂取量と主要摂取源は国や食生活により異なりますが、コーヒーと茶の2つが最も突出した摂取源とされています。

当然ですが、カフェイン入り飲料に含まれるカフェイン量は飲料により異なります。いくつか例を挙げてみましょう。

コーヒー、紅茶、緑茶、ウーロン茶、エナジードリンクなどさまざまな飲料がありますが、厚生労働省の食品安全委員会から公表されているファクトシートにある各種飲料に含まれるカフェイン量は、次の表のとおりです。

出所=『いのちを守る水分補給』

カフェインには、適量摂取することにより頭が冴え、眠気を覚ます効果があるのは事実です。

ただし、過剰に摂取した場合には、めまいや心拍数の増加、興奮、不安、震え、不眠症、下痢、吐き気をもたらすこともあるので“適量”を心がけましょう。

■からだがカフェインに慣れてしまっている

ご存知のように、カフェインには利尿作用があります。

私たちは、カフェイン入り飲料を飲むと尿意をもよおし、排尿によりからだの水分が奪われてしまいます。これが、カフェイン入り飲料は水分補給には適さないとされる理由です。

日頃からコーヒーや緑茶を主な水分として摂取している人は多いと思いますが、果たして、そういう人はみなさん、尿意が近くなっているのでしょうか。

じつは、そうでもないのです。その答えが、カフェインの利尿作用は人によって感受性が異なる、という事実です。

さらには、カフェインには耐性が付きやすいということも知っておきたい知識です。

例えば、緑茶やコーヒーを毎日のように摂取している人は、カフェインに対する利尿作用の感受性が低下している、つまり尿意をもよおしにくいのです。

からだがだんだんとカフェインに慣れてきて、適量に摂取しても尿意をもよおしにくくなるのです。

■脱水症状がある場合は控えたほうがいい

最近の研究によれば、「健常者では、カフェイン含有飲料も、1日に必要な水分量の補給に有用である」と結論づけられています。

谷口英喜『いのちを守る水分補給』(評言社)

また、全米アスレティックトレーナーズ協会ポジションステートメントによれば、安静時にカフェインによる利尿が誘発されやすい人でも、運動時には誘発されないので、運動前の多少のカフェイン含有飲料の摂取は許容されるとしています。

カフェイン入り飲料をとるタイミングは、あくまでも日頃の水分摂取としてです。治療的な飲料の摂取が必要なとき、つまり脱水症状があるような場合には摂取を控えたほうがよいでしょう。

なぜなら、ただでさえからだに水分が少ない状況において、さらに多少なりとも利尿作用が加わることは脱水症の治療に不利になるからです。

以上に挙げた注意点を守ったうえで、カフェイン入り飲料も水分補給として日常的に摂取することは問題ありません。飲料のバリエーションも増えるので、楽しんで水分補給するとよいでしょう。

これは、私が老健施設の職員から聞いた話です。

毎日、緑茶を飲まれるのを楽しみにしていた高齢男性の入所者さんがおりました。ある日、テレビで「カフェイン入り飲料である緑茶は水分補給には適さない」という話を耳にしました。

その日以来、その入所者さんは、緑茶の摂取を控え、お水や麦茶を飲むように心がけていました。

しかし、冷たい飲み物はあまり口に合わず、摂取は進まず、水分補給量が不十分になり、脱水症を呈してしまったそうです。

このように、カフェイン入り飲料の摂取を頭から否定してしまうと、日頃から摂取していた人は、飲める飲料がなくなってしまうのです。

・カフェイン入り飲料でも水分補給は可能。
・ただし、過剰摂取は控え、脱水症状があるときや感受性が高い人は控える。

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谷口 英喜(たにぐち・ひでき)
医学博士、済生会横浜市東部病院患者支援センター長
1991年福島県立医科大学医学部卒業。その後、横浜市立大学医学部麻酔科に入局。2011年神奈川県立保健福祉大学保健福祉学部教授。2016年済生会横浜市東部病院患者支援センター長。現在、東京医療保健大学大学院客員教授、慶應義塾大学麻酔科学教室非常勤講師を兼任。熱中症・脱水症に関する報道でマスコミに多数出演。専門は、麻酔学・集中治療学・周術期管理・栄養管理・経口補水療法・脱水症対策など。臨床栄養の生涯教育サイト谷口ゼミを開塾し、医療従事者の生涯教育に邁進中。
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(医学博士、済生会横浜市東部病院患者支援センター長 谷口 英喜)