全日本女子硬式選手権の1回戦に出場したGOOD・JOBの加藤優【写真:川村虎大】

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「結果が伴わなかった時期はとてもしんどかった」引退後に明かした苦しみ

 大泣きするチームメートの姿を見れば、どれだけ慕われてきたかが分かる。松山市の坊っちゃんスタジアムで開かれている全日本女子硬式野球選手権大会。女子球界の“アイコン”としての役割を担ってきた功労者が、現役のユニホームを脱いだ。「美しすぎる女子野球選手」と呼ばれた苦悩と使命。細身の体に背負い込んできた加藤優外野手は、晴れやかな表情で最後の試合を終えた。【川村虎大】

「かっこいい野球選手のままで終わりたかった。できたかどうかはわかりませんけど」

 所属するクラブチーム「GOOD・JOB」は、神村学園高(鹿児島)との1回戦に2-3で敗戦。区切りの大会での戦いを終え、自然と自らの野球人生を振り返る。2016年に女子プロ野球のトライアウトに合格し、埼玉アストライアに入団。その容姿からつけられた“美しすぎる”という肩書は、名刺代わりにもなる一方で、重圧にもなった。

「ありがたいことに、様々なメディアに出演させてもらう機会がありました。ただ、結果が伴わない時期は、とてもしんどかったです」

 入団当初、まだ結果が出ていないにも関わらず、イベントには引っ張りだこ。注目に見合った活躍ができないと、SNS上には心ない言葉も並んだ。イメージの一人歩きに悩みながらも、自らにできることはひとつ。「結果を求めることだけを考えていました」。がむしゃらな練習は裏切ることなく、徐々に結果もついてくるようになった。

 2019年に埼玉アストライアを退団。1年間チームに所属せずに練習してきたが、選手としての限界や、モチベーション維持の難しさを感じた。そんな中、地元・神奈川の「GOOD・JOB」から声をかけられて入団。自身の胸の内では、1度は決めていた引退を“翻意”する形での加入だった。

プロからアマチュアは「モチベーション維持が難しかった」

 2020年12月に行われた女子野球ワールドカップの日本代表を決めるトライアウトで落選。ベストな状態で迎えたはずだった。「自分の力を出し切って受かることができなかったので。その時に引退というのは考えました」。選手としてプレーした今季も、1度感じた限界を超えることは難しかった。

「みっともない姿を見せたくなかった。憧れられるような選手のままで終わりたかったです。プロからアマチュアに行って、結果だけを考えなくてもいい部分もあったんですけど、お客さんに見せなきゃいけないというものもなくなった。私の中で、モチベーションの維持が難しかった原因かもしれません」

 奇しくも“美しすぎる”と視線を浴び続けてきたことが、自らの活力になっていたことにも気づいた。それでも、この半年間で視野も広がった。「野球を楽しむということができたと思います。それはプロで活動していた時とはまるっきり違いました。今回も初の全国大会で結果としては、負けてしまったんですが、チームとしては楽しんでできていたと思います」。試合中は「緊張したらコーラ抜きだぞ!」などと、チームメートからワイワイと声が飛ぶ。結果としては初戦敗退となったが、その雰囲気は試合後も変わらなかった。

 後輩たちが、背中を見てきたのも知っている。主将を務める岡田桃香外野手が女子プロ野球に合格した際には、面識がなかったにも関わらず「何でも相談してね」とSNSでダイレクトメッセージを送った。岡田にとっては「気配りの人で、人間性も素晴らしく憧れ」。誰もが認める“気配りの人”。この日も、詰めかけたファンひとりずつ丁寧に写真やサインに対応し、1時間以上も笑顔を絶やさなかった。

 選手としては一区切り。ただ、球界で培ってきた経験は、生かしていく責務がある。DeNAの「ベースボールスクール」のコーチを続けつつ、スポーツキャスターなどへの挑戦にも意欲を抱く。「新しいことに挑戦していって、色々な形で女子野球を盛り上げていきたい」。ニコリと笑い、26歳は第2の人生を歩み出す。(川村虎大 / Kodai Kawamura)