「ATOK」がAIで加速する? 月額制で最強の日本語入力システムはどう進化するのか

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ATOK(エイトック)」は、ジャストシステムが開発した日本語入力システムだ。
これまでは
・パッケージ版
・サブスクリプション版(ATOK Passport)
・一太郎とのセット
この3つの形態で提供されてきた。

しかし2018年2月1日からは、「ATOK Passport」に一本化されることになった。

これは、誕生から35年が経過したATOKにとって、大きなターニングポイントになりそうだ。

日本語入力の最強ツール「ATOK」が月額制に一本化
ATOKは、ジャストシステムが開発した有料の日本語入力システム。
・Windowsに付属する「MS-IME」
・Googleが無料で提供している「Google日本語入力
などと同じジャンルのアプリケーションで、パソコンやスマートフォンで日本語を入力するには不可欠な製品である。


ジャストシステムの日本語入力システム「ATOK」。画面は一太郎2018に付属する「ATOK for Windows 一太郎2018 Limited」による変換例。


ほとんどのユーザーは、日本語入力のために、わざわざ有料製品を購入することなど考えられないだろう。
なぜなら、タダで「MS-IME」や「Google日本語入力」が使えるからだ。
たしかに、それも無理はない。

しかし、毎日、大量の文章やデータを入力するユーザーにとっては、話しが違ってくる。
たとえばライターや記者、編集者、研究者、教員、弁理士……等々。
こうした職業に携わる人々にとっては、ATOK
「お金を払ってでも使いたい」
「なくてはならない」
ツールとして定着しており、広く使われているのだ。

文章を書くプロ達にそれだけ支持されている理由は、どこにあるのか?
それは、
・変換効率の高さ
・辞書の充実
日本語入力に関わるちょっとした付帯機能の多さ
である。

大量の文章やデータを入力するうえでは、こうしたちょっとした機能の違いが、
・トータルの入力時間を短くできる
・文字入力が効率よくできる
・疲労感がすくない
など、生産性に大きい影響を与えるのだ。

MS-IMEやGoogle日本語入力が、普通の自家用車だとしたら、ATOKは四駆のジープのようなものだと個人的には思っている。

スーパーの買い物に使えるが、いざとなれば長時間の酷使にも耐える。
道なき道でも、どんどん進む高い走破性も備えているのだ。

そんなATOKは、これまでパッケージ版、サブスクリプション版(ATOK Passport)、ワープロの一太郎との組み合わせという3つの形態で提供されてきた。

しかし、2018年2月1日からは、その提供形態が「ATOK Passport」に一本化される。
前バージョンのATOK 2017は、引き続きパッケージとしても販売されるが、それ以上に進化することはない。
バージョンアップを繰り返し、開発が継続されるのは、「ATOK Passport」で提供されるATOKのみとなるわけだ。

●ベーシック(月額286円)とプレミアム(月額476円)の2本立て
ATOK Passportでは、「ベーシック」と「プレミアム」の2つのプランが提供される。月額料金は次のとおりだ。

ATOK Passport(ベーシック) 286円(税別)
ATOK Passport(プレミアム) 476円(税別)

いずれも、Windows、Mac、Android搭載のデバイス10台までにATOKをインストールして利用できる。

また、
・複数の環境で辞書などの利用環境を同期する「ATOK Sync AP」
・自分の入力ミスの傾向を把握できる「ATOKマンスリーレポート」
というサービスが利用できる。

「ベーシック」と「プレミアム」の違いは、利用できるクラウドサービスの種類だ。
たとえば、プレミアムでは文章を校正したり翻訳したりするサービス、クラウド上の「広辞苑」「大辞林」「ウィズダム英和辞典」などの電子辞典が利用できる。

「ベーシック」と「プレミアム」の違いは、記事末にリンクを貼ったジャストシステムのページに詳しいので、そちらを参照してほしい。

●最大のメリットはATOK進化のスピードアップ
2月1日から提供されるATOKでは、
人工知能(AI)技術を使った「ATOKディープコレクト」による入力ミスの自動修正が搭載される。
これが最大の強化ポイントとなる。


ディープコレクトによる自動修復の例。ローマ字入力で[S][H][O][U][R][A][H][I][A]とキーを押して「しょうらひあ」と読みが入力された状態で変換すると、自動的に「将来は(しょうらいは)」に修正される。


それ以上に、むしろ重要なのは、
月額制に統一したことで、今後の機能強化がスピードアップすることだろう。

これまでのATOKは、毎年1回、一太郎とともに新バージョンをリリースして進化してきた。
しかし、今後は、必要に応じて、随時、機能が強化されていくことになる。

現在、ATOKの変換エンジンには、AIの要素技術であるディープラーニングを採用した「ATOKディープコアエンジン」が搭載されている。
現在のAIの進化速度を考えると、1年に1回のバージョンアップで不十分なのは明らかだ。

ぜひ、変換効率の改善などの最もベーシックなところも含めて、最新の技術を取り入れて進化していってほしい。

●毎年、一太郎を購入しているユーザーは要注意
今回の月額制への移行にともなって、一太郎に付属するATOKにも変更がある。これまでは、最新の一太郎を購入すれば、もれなく最新のATOKが付いてきたが、2018年2月に発売される一太郎 2018からはそれが変わる。

具体的には、一太郎2018に搭載されるのは、「ATOK for Windows 一太郎2018 Limited」という一太郎専用のATOKとなる。日本語入力はまったく問題なくできるが、ATOK Passportで提供されるATOKのように、随時の機能強化は行われない。したがって、つねに最新のATOKを利用するなら、ATOK Passportが不可欠ということになる。

●新しいATOKユーザー獲得のきっかけになるか?
長年、ATOKを利用してきたユーザーの一人としては、正直、変換効率という点では、ここ数年のATOKに、あまり進化を感じなかった。

現行の技術で、ほぼ行けるところまで到達した印象もあったので、あえて最新のATOKを利用しなくても、それほど困ることはなかったからだ。

しかし、最近のAIの進化はめざましい。それを活用すれば、我々が思いもよらないような変革が、日本語入力システムにも訪れるのではないかと期待したい。

もちろん、月に数百円で10台のマシンでATOKを利用できるのも大歓迎だ。
複数台のWindowsマシン、Mac、Android端末を使い分けているユーザーは、すべての環境で同じATOKが利用できることになる。

さらに期待したいのは、新しいユーザーの増加だ。
冒頭にも述べたように、一般的なユーザーは、日本語入力システムにわざわざお金を払ったりしない。

しかし、月額数百円なら、ちょっと試してみようかというユーザーも少なくないだろう。

ATOKのよさは、実際に試して、しばらく使い込んでみないとなかなかわからない。
だからこそ、今回のATOK Passportへの一本化をきっかけに、ぜひ多くのユーザーにATOKに触れてほしいと思う。

ATOK誕生から約35年が経過したが、それだけ長い間、生き残り、使われ続けているのには、それなりの理由があるのである。

ATOK Passportのページ


井上健語(フリーランスライター)