このように、公式の発表文のみを見てもなにやら わくわくする、もとい  不穏な雰囲気が感じられます。


さて、ここからはアップルが正式に発表した情報ではなく、また認める性質の話でもありませんが、今回のフォーストール退社については、いわゆるアップル系の情報サイトはもとより、追加リンク先 Wall Street Journal のような経済紙まで、いわゆる「詳しい筋の証言」で賑わっています。

どこでも一致しているのは、フォーストールの退社は本人の意思というよりクックほかの経営陣に強いられたもので、背景にはジョブズ亡き後のフォーストールとほか幹部の不和と、直接的には例の iOS 6 マップの醜態が引き金となったとされていること。


フォーストールと他の幹部の不和については、ソフトウェアやUIデザイン哲学の対立や、あるいは仕事のスタイルやコミュニケーションなどいわゆる性格の問題まで、退任の以前からアップル系のゴシップとしては長らく伝えられてきました。


あくまで背景としてデザインの話に寄り道すれば、iOSや OS X の各所に現れる奇妙に写実的でアナログの道具を真似たようなUI要素、たとえば iBooks の書架の木目や iCalの「糸で綴じた革調」タイトルなど、いわゆる 「skeuomorphic」なデザインを推していたのがフォーストールだとされています。

(skeumorph (すきゅーもーふ) は、より広い意味では、技術の進歩などで不要になっても飾りやお約束として残るデザイン上の要素。デジタルカメラに残る「(銀塩時代の)カメラらしい飾り」や、実際は樹脂製なのに木や金属で手作りのふりをしたデザインなど。UIにおいては、わざわざアナログ文具を模した電話帳やメモ、マウスで「ツマミ」を回させようとする音楽ソフトなど。)

このスタイルを好まない側の言い分は、現実のオブジェクトとコンピュータの(たとえば堅いタッチパネルの)動作は違う以上、メタファーとして理解を助ける範囲を超えた過剰な写実や対応しない真似は逆にユーザーエクスペリエンスを損なうというものでした。

(蛇足ながら、この逆を行った例の代表として挙げられるのがマイクロソフトの (旧称) Metro スタイル。Windows 8 や Windows Phone 8、Xbox 360のタイルに代表されるアレです。マイクロソフトが社内や開発向けに伝えるマントラでは " Authentically Digital "、真にデジタル。影や奥行きはあくまで視覚的な手がかりとして使いつつ、デジタルなのだから意味もなく紙ノートや木の質感を真似しない、ミニマルなデザインをうたっています。そういえば「はためき」も半透明もなくなった Windows 8 ロゴもこれを体現しています。)

フォーストールが去った後、ハードウェアだけでなくソフトウェアも含むアップル製品全体のヒューマンインタフェースデザイン担当に昇格したサー・ジョニーは、アップル社内でもこの" skeuomorphic " デザインに異議を唱える立場だったとされています。実際にインタビューでも直接的な批判を避けつつ、「その部分にはわたしはタッチしていない」と述べたりしていました。

アイブはじめアップル社内で力のある幹部が好んでいなかったのになぜ頻繁に使われていたのかといえば、理由はジョブズその人がこのスタイルを好んでいたため。Game Center の背景が木とフェルトのカジノテーブルになっている(どころか、UI部品もカジノ風の独自デザインでどれが押せるのか分からない)のもジョブズのこだわりとされ、実際に iCal のタイトルにある革の縫い目は、ジョブズがアップルから報酬として与えられたプライベートジェットの内装そのままであることが知られています。(ジョブズのプライベートジェットと内装については伝記に詳しい)。