(※写真はイメージです/PIXTA)

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体調不良や離婚、退職など、さまざまな理由から成人した子が一度家を出た後に実家へ戻り、親と再び同居するケースは珍しくありません。金銭面でも精神面でも大きな支えとなる実家は、“一時的な休息所”としては心強い存在です。しかし、同居が長期化すると、最悪の場合「親子共倒れ」に発展しかねません。69歳の父親と35歳の娘の事例をもとに、高齢の親と成人した子の同居が抱えるリスクと対策をみていきましょう。

溺愛する娘が実家に出戻り

とある地方都市で妻と暮らすマサヒコさん(仮名・69歳)は高校を卒業後、地元の消防署に就職。たたき上げで消防署長を務めた人物です。3,000万円の退職金を受け取り、60歳で退職。65歳以降は、夫婦で月25万円ほどの年金を受け取りながら、穏やかな日々を送っています。贅沢もしておらず、退職金はいまだほぼ手つかずです。

ある日、そんなマサヒコさん夫婦のもとに、東京で働いていた一人娘のアヤカさん(仮名・35歳)から電話が。聞くと、「異動先の部署になじめず退職した。しばらく実家で暮らしたい」とのことでした。

マサヒコさんは娘を溺愛していることもあり、「無理することはない。しばらく休みなさい」と二つ返事で承諾。夫婦は再び娘との三人暮らしをスタートさせます。

愛する娘を“生まれてはじめて叱った”ワケ

立ち直るまで生活を支えて見守るのが親の役目だと、娘からは一銭も受け取らず実家に迎え入れたマサヒコさん夫婦。

アヤカさんはそんな親の厚意に甘え、いつまで経っても家事を手伝わず、就活をする気配もありません。それどころか、地元の友人たちと頻繁に遊びに出かけるように。そのお小遣いまでも要求する始末です。

夫婦は自由気ままな娘の態度に、しだいに不安を覚えるようになりました。

同居開始から半年が過ぎたころ、「そろそろ将来のことを考えたらどうだ?」と切り出すと、娘は悪びれた様子もなく「貯金もなくなりそうだし、このまま実家にいようかな。追い出すなら引越し費用や生活費はパパが出してよ」と言い出す始末です。

「甘えるのもいい加減にしろ! 親はお前のATMじゃないんだぞ!」

マサヒコさんが娘を本気で叱ったのは、これが初めてでした。

親の支援が依存に変わる…「8050問題」の危険性

働き盛りの子どもが長期間にわたって実家に依存する状況は、いわゆる「8050問題」の予備軍といっても過言ではありません。

8050問題とは、80代になった親が50代の無職の子を支え、世帯全体が経済的にも精神的にも行き詰まってしまう社会問題を指します。

いまは娘を養える家計であっても、退職金は介護費や自宅修繕などで少しずつ目減りしていき、親が亡くなれば年金収入も途絶えます。マサヒコさんの一喝は、「自分のお金がなくなっても、親の資産に頼ればいつまでも暮らせる」という娘の幻想を打ち砕く親心だったといえるでしょう。

ただし、環境の変化などで一時的に働けなくなることは、誰にでも起こり得ることです。子の再出発に向けてサポートすること自体は悪いことではありません。

だからこそ、同じ金銭援助でも工夫が必要です。たとえば、実家で過ごすあいだは毎月一定額を家に入れさせ、その一部を親がこっそり積み立てておき、タイミングをみて引越し費用や当面の生活費の足しとして渡すという方法が考えられます。

単なる「甘やかし」は依存を助長するだけで、自立支援とはいえません。

人生100年時代、30代は十分やり直し可能

マサヒコさんによると、アヤカさんは「年齢や自身が置かれた環境を周りと比べると、いまから頑張ってもどうにもならないと考えて自暴自棄になっていた」ということでした。

アヤカさんの気持ちも分かりますが、人生100年時代において、30代は十分やり直しのきく年代です。ただ、離職期間が長くなるほど再就職時の賃金水準が下がりやすく、厚生年金の加入期間が短くなれば、将来受け取る年金額にも影響します。こうした現実に目をつぶってはいけません。

実家暮らしは当面の出費を抑えられますが、将来の不安を和らげるには、再び働き始めて資産形成の土台をつくり直す必要があります。退職後は、まず雇用保険の基本手当(失業給付)の受給要件を確認し、それと並行して、ハローワークが案内する「ハロートレーニング」を活用するのも有効です。

ハロートレーニングには、雇用保険受給者向けの「公共職業訓練」に加え、受給資格がない人向けの「求職者支援訓練」もあります。事務、IT、介護、Web関連など幅広い分野が用意されており、後者では一定の収入・資産要件を満たせば「職業訓練受講給付金」を受け取りながら学べる場合もあるため確認しておきましょう。

目を背けがちな「将来の不安」を解消する具体的な策

その後、再就職が叶い収入が安定してきたら、給料日に一定額を先に貯蓄・投資へ回す「先取り貯蓄」を習慣化し、NISAやiDeCoといった税制優遇制度の活用も検討するといいでしょう。30代であれば、時間を味方につけられる点が大きな強みになります。

さらに、長期的な見通しを立てるには、「キャッシュフロー表」が役立ちます。結婚や住み替え、老後などのライフイベントごとの支出を見積もり、不足額から逆算して現在の貯蓄目標を設定する方法です。家計を“見える化”することで、漠然とした不安が具体的な課題に変わり不安が軽減されるはずです。

あわせて、「親の介護費用を親自身の資産で賄えるのか」といった不安があれば家族で共有して早めに話し合っておくと、将来のすれ違いを防ぎやすくなります。

人生の「選べる自由」を手にするために

自分の収入で生活基盤を築くことは「人生の選択肢」を増やし、「選べる自由」を手に入れることにもつながります。それは将来に向けて大きな安心材料となるでしょう。

親が子を思う気持ちは何歳になっても変わりません。だからこそ、愛情をはき違えて子どもの自立の機会を奪わないよう、ときには厳しい言葉で背中を押す勇気が必要です。

山原美起子
株式会社FAMORE
ファイナンシャル・プランナー