「騙しやがって!」…30代女性社長「社名『勝電設』無断使用され苦情殺到」詐欺グループ逮捕への執念
「修理費が高すぎるだろ!」
「人を騙しやがって!」
神奈川県茅ヶ崎市にある電気工事会社『勝電設』に苦情電話が殺到したのは、昨年春のことだ。身に覚えのない社長の勝愛美さん(32)は当初、「かけ間違いではありませんか」と相手をなだめていた。勝社長が振り返る。
「苦情電話をかけてくる方々への請求書には、確かに『勝電設』と書かれていたそうです。しかし、住所が異なり、工事をしたという名前の作業員もウチには在籍していませんでした。それでも、多い時には一日に10件近いクレームがくる。業務に支障をきたすので調べてみると『マッハ電気修理』という会社が工事を請け負い、現場で作業員が『勝電設』を名乗っていたことがわかりました」
今年4月9日、警視庁暴力団対策課は工事代名目で現金を騙し取ろうとしたとして職業不詳の松本健人容疑者(31)ら男4人を逮捕した。
松本容疑者らは『マッハ電気修理』の社名でインターネットサイトを運営。被害者が同社に工事を依頼すると「ブレーカーを交換しないと火事になる」などとウソをつかれ、高額な金額を請求されたという。被害件数は246件に及び、請求額は約4700万円にのぼる。
『まさるでんせつ』と『かつでんせつ』
前述の『勝電設』は、松本容疑者らの詐欺グループが運営する『マッハ電気修理』に無断で社名を使用されていたのだ。勝社長が続ける(以下、コメントは勝社長)。
「どういう経緯で社名が使われたのかはわかりません。電気工事会社には珍しく、社長が30代の女性だったから目立ったのか……。ただ、詐欺グループが名乗っていたのは『まさるでんせつ』。私たちは『かつでんせつ』で読み方が違っていました」
勝社長は昨年5月から、同じ社名を名乗る詐欺が頻発しているとホームページで注意喚起。苦情電話をかけてきた被害者には事情を説明し、無料で点検や復旧工事に応じた。
「被害に遭われたのですから、できるだけのことはしたいと思ったんです。電話をかけてきた50代男性の都内にあるマンションにうかがったときは驚きました。コンセントの交換と説明されたそうですが、壁に大きな穴があけられ、そのままになっていたんです。これではお怒りになるのも当然でしょう。
詐欺グループが行った工事はどれもメチャクチャでした。配線が間違っていたり、分電盤の回路がデタラメだったり……。復旧工事には1件数万円かかるものもあり、無料での対応は正直、痛かった。それでも、大半の電気工事会社は安心安全な作業をしていると知ってほしかったのです」
「異常がある」
被害者への見積書や請求書に書かれた金額は50万円近くになるものもあり、どれも高額だった(関連画像)。一概には言えないが、勝社長は「ウチなら半額以下でできる」と感じたという。
勝社長は実態を確かめるために行動に出る。客を装い『マッハ電気修理』に分電盤の点検をお願いしたのだ。
「事務所に来たのは20代前半と思われる若い男性で、白っぽい作業着に黒いズボンという姿。違和感を覚えましたね。通常、私たちは腰に作業用ベルトを巻いて多くの工具を入れますが、妙に身軽なんです。しかも正常な分電盤を見て『異常がある』『見積もりを出したい』と言い始めました。
おかしいと感じた私が『電気工事士の免状を見せて』と言うと、作業員は『今、持っていない』としどろもどろに。車の運転免許証と同じで、作業する場合には必ず免状を携帯しなければなりません。
さらに私が問い詰めると『資格はない』とニセの作業員だと認めたため、110番通報。警察が来るまで彼は『借金があってこういうこと(詐欺)をしないといけなかった』『報酬は8割、社長に取られている』と憔悴して話していました」
勝社長が110番通報した後、作業員は警察から事情聴取を受けた。今年に入り、『マッハ電気修理』を運営していた容疑者らが逮捕されたのは前述のとおりだ。
「私たちは、社員数人でマジメに働いている小さな会社です。その社名を悪用し、詐欺行為が行われていたのは非常に悔しい。でも、この事件をバネに誇りを持って仕事に取り組みたいです。一般の方でも『怪しい』と思ったら対応策はあります。いきなり『免状を見せてください』と聞くのは勇気がいるかもしれません。複数の業者から見積書をもらって、比べてみるのも有効です」
国民生活センターによると、’25年度の電気などの点検詐欺相談件数は6088件にのぼり、’23年度から150倍に激増している。今回、勝社長の執念が詐欺グループ逮捕につながった。
