フジテレビ

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半分は共同テレビ

 視聴率低迷が続くフジテレビのドラマが変わり始めている。事実上の支配者だった日枝久元会長(88)の退陣から丸1年が過ぎ、新スキーム(枠組み)が本格的に動き出しているからだ。【高堀冬彦/放送コラムニスト、ジャーナリスト】

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 フジのドラマ制作に大きな変化がある。系列制作会社の共同テレビが、プライム帯(午後7〜同11時)に4本ある連続ドラマのうち、2本をつくり始めた。今年の冬ドラマ(1月期)からだ。

 同社の社長は昨年6月に就任した石原隆氏(65)。田村正和さんの「古畑任三郎」(1994年)や木村拓哉(53)の「HERO」(2001年)などを手掛けた民放界屈指のヒットメーカーである。しかし、フジが日枝氏の支配下にあった21年からCS局を運営する日本映画放送の社長を命じられ、ドラマから離れていた。

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 石原氏の共同テレビの社長就任は、昨年1月末にフジ社長に就いた清水賢治氏(65)が主導して決まった。石原氏は1984年入社で、清水氏の1期下。ともに編成部育ちということもあり、強い信頼関係で結ばれているという。

 プライム帯に4本あるフジの連ドラとは「月9」(月曜午後9時)、「火9ドラマ」(火曜同9時)、「水10ドラマ」(水曜同10時)、「木曜劇場」(木曜同10時)。ほかに月曜同10時台にも連ドラがあるが、系列局の関西テレビが担当している。

 うち共同テレビが制作に関わった冬ドラマは月9の「ヤンドク!」と火9ドラマ「東京P.D.警視庁広報2係」。前者はプロデューサーとチーフ演出家が同社に所属。後者は同社が制作を完全に請け負った。

「ヤンドク」は批判も多かったが、視聴率的には成功した。テレビ界の標準値である個人視聴率の平均値は約3.5%(世帯5.8%)。15本あった冬ドラマの中でベスト5に入った。 

 批判の主な理由はリアリティに欠けていたところ。だが、橋本環奈(27)が演じるヤンキー医師を中心としたパラレルワールド(別世界)の物語だと割り切ると、愉快に観られたのが高視聴率の一因ではないか。

 同じく冬ドラマ「東京P.D.警視庁広報2係」の平均値は個人2.3%(世帯4.1%)。同じ時間帯のテレビ朝日「再会〜Silent Truth〜」の同3.7%(同6.5%)には及ばなかったものの、コアなファンを獲得した。

 警視庁の広報課を舞台にしたシリアスな警察ドラマだった。笑いも恋愛も排除した。硬派ドラマのファンには堪えられなかったのではないか。やはり警察の広報を舞台とする傑作映画「64(ロクヨン)」(2015年)を思い出させた。

 このドラマのSeason2は7日からフジ系の配信動画・FODで独占配信中。なるほど、動画に向く作品だ。1人でも多くの人に観てもらうことを目指す地上波のドラマとは違い、配信はカネを払ってでも観たいというコアなファンが一定数以上いれば良い。

佐藤二朗がカギ

 現在の春ドラマ(4月期)で共同テレビが制作に関わっているのは、まず火9ドラマの「夫婦別姓刑事」。同社のプロデューサー、演出家が制作者陣に加わっている。

 このドラマは刑事役・佐藤二朗(56)の一人舞台に近い。前妻を何者かに殺されており、その犯人探しに執念を燃やす。犯人と思しき人物を見つけると、感情むき出しの目茶苦茶な取り調べをする。

 さすがはヒット映画「爆弾」(2025年)で、常軌を逸した謎の人物・スズキタゴサク役を熱演した佐藤である。やはり主演の橋本愛(30)と刑事同士で秘かに結婚する物語という触れ込みだったので、ほのぼのとしたライトコメディかと思っていたら、違った。

 14日放送の第1回の個人視聴率は2.1%(世帯3.9%)。中程度の数字だ。ただし、同じ時間帯でやはり第1回が放送された高橋一生(45)主演のテレビ朝日「リボーン 〜最後のヒーロー〜」は個人3.3%(世帯6.1%)だったから、かなり下回った。逆転するとすれば、カギを握るのは佐藤だ。

 もう1本は木曜劇場「今夜、秘密のキッチンで」。こちらは共同テレビが制作を請け負っている。元スター女優(木南晴夏)が望まれて子供のいる会社社長(中村俊介)と結婚するところから物語は始まった。

 この社長がとんでもなく横暴だった。孤立する元女優は台所での飲酒に走る。そこへ謎の男(高杉真宙)が現れ、親しくなった。男は元女優にしか姿が見えない。

 9日に放送された第1回は個人視聴率が2.1%(世帯3.9%)だったが、16日放送の第2回は個人1.7%(世帯3.3%)に落ち、苦しい。現実離れしているためか。

 ただしプロデューサーはフジ「フリーター、家を買う。」(2010年)や同「マルモのおきて」(11年)をつくった腕利きの橋本芙美氏(46)だから、このままでは終わらせないだろう。

 民放のスキーム変更による変化が目に見えて表れるまでには約10か月から1年かかる。ドラマの新作を企画してから放送するまでには約10か月から1年はかかるからだ。出演交渉や脚本のシノプシス(骨子)の作成はすぐには終わらない。清水氏、石原氏の考えが実現するのも今年から、あるいは4月からなのだ。

日枝氏支配下との変化

 日枝氏支配下時代のドラマはフジ単独での制作が中心だった。「ドラマのフジ」という過去の栄光が捨てられなかったのが大きな理由ではないか。ただし、それでは視野狭窄に陥りやすく、失敗を招きやすい。

 局の単独制作での典型的な失敗例は日枝氏支配下時代に企画された昨年の秋ドラマ(10月期)「もしもこの世が舞台なら、楽屋はどこにあるのだろう」だろう。1984年の東京・渋谷を再現する巨大セットを数千万円かけてつくり、キャストはオールスターでありながら、酷評にさらされた。視聴率的にも惨敗した。

 1984年の時代相を知らないと楽しみにくかったから、50代半ば以下の人には観るのがきつかったのだろう。小演劇が題材だったので、演劇に無関心の人にも厳しかったはず。女性のダンサーが登場するシーンを批判する女性視聴者もいた。

 これらの難点は事前に分かったはず。それなのに制作陣は疑問を抱かなかったようだ。視野狭窄にほかならない。ちなみにドラマ部門以外のフジ関係者、他局の制作者は第1回の放送が済んだ段階から辛辣な評価を下していた。

 今のフジのドラマは視野狭窄になりにくくなっている。共同テレビと組んでいるだけではないからだ。北村匠海(28)が水産高校の教師に扮している月9「サバ缶、宇宙へ行く」は、オフィスクレッシェンドが演出面などで制作協力している。

 同社はTBS「SPEC〜警視庁公安部公安第五課 未詳事件特別対策係事件簿〜」(2010年)などを成功させた。日枝氏支配下のころはフジとの縁が薄かった。

 月9についてはフジにとって朗報があった。「ヤンドク!」までのスポンサーは花王、SUNTORY、エステー、フジパン、大和証券グループの5社だったが、「サバ缶――」からは日産自動車が加わり、6社体制になった。

 もともと月9のスポンサーは6社体制だった。うち1社は人権侵害問題を受け、昨年1月に外れた。日産の新規参入は売り上げ面と信用面で極めて大きい。

 もう1本の春ドラマはディーン・フジオカ(45)が主演中の木曜劇場「LOVED ONE」。こちらはAOI Pro.がやはり演出面で協力している。同社は河合優実(25)が主演したNHK「家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった」(2023年)を制作した。家族愛をテーマにした同作品は評価が高く、ドラマ各賞を受賞した。今後、フジのドラマ制作に厚みが加わるはずだ。

 最後にTBSについて書きたい。火曜ドラマ「時すでにおスシ!?」(火曜午後10時)のことである。主演が永作博美(55)であるのは極めて異例。言うまでもなく名優で、主演を務めることなど余裕だろうが、恋愛ドラマが中心の火曜ドラマは2020年以降、40代以上の主演女優がほとんど存在しなかったのだ。

 これまでの火曜ドラマの主演はほとんどが20代から30代前半の女優。今回は作風も従来の作品とは大きく異なり、目下のところ恋愛色は薄い。鮨教室に集まる、年齢も立場も違う生徒たちと講師の人間模様が描かれている。

 人生賛歌である。調べた限り、鮨教室がプライム帯のドラマの舞台になるのも初めて。火曜ドラマは7月期も40代女優の主演が決まっている。 

 3年前にマッチングアプリ会社が火曜ドラマのスポンサーから外れたことも作風の変化に関係しているのか。ただし、TBSらしいドラマではある。かつて同局は「冬の運動会」(1977年)や「野々村病院物語」(81年)などの人生賛歌を得意としていた。名作ぞろいだった。  

 個人視聴率は7日の第1回が3.7%(世帯5.9%)、14日の第2回が2.7%(世帯4.9%)と上々。「恋愛離れ」と言われる時代だから、多くの視聴者も人生賛歌を望んでいたのかも知れない。

高堀冬彦(たかほり・ふゆひこ)
放送コラムニスト、ジャーナリスト。1990年にスポーツニッポン新聞社に入社し、放送担当記者、専門委員。2015年に毎日新聞出版社に入社し、サンデー毎日編集次長。2019年に独立。前放送批評懇談会出版編集委員。

デイリー新潮編集部