東出昌大が選ぶ“司馬遼太郎ベスト3”「歴史嫌いだった自分の目を開いてくれた」父の書棚で出会った“ダイナミックなドラマ”〉から続く

 映画『関ヶ原』で小早川秀秋を、『峠 最後のサムライ』で徳川慶喜を演じた東出昌大氏。司馬作品の愛読者である俳優は、歴史上の人物を演じる喜びと、司馬遼太郎から受け取った人生観をどのように語ったのか。お笑いコンビ・Aマッソの加納愛子氏と出演した文藝春秋PLUSの対談から、その言葉を追う。(全2回の2回目/はじめから読む)

【動画を見る】「竜馬になりたい、ああいう大志を抱くんだ」東出昌大が愛する司馬遼太郎『関ヶ原』『峠』を演じた俳優が受け取った人生観とは

(初出:「文藝春秋PLUS」2026年4月4日配信)

「竜馬になりたい、ああいう大志を抱くんだ」

 文藝春秋PLUSの動画シリーズ「司馬遼太郎『未来』という街角から」で、東出昌大氏は10代で司馬作品を読んだ日々をこう振り返った。

「若くてがむしゃらだった当時の私は、『竜馬になりたい、ああいう大志を抱くんだ』と思って『竜馬がゆく』を読んでいました」

 英雄英傑に憧れる熱量を若いうちに浴びられたことは「非常にいい読書体験だった」と言い、30代後半の今読み返すと「自分が失ってしまったものもあると感じつつ、また魂を震わされるような情熱も感じられます」と語った。

俳優として司馬作品を演じること

 東出氏は映画『関ヶ原』で小早川秀秋を、『峠 最後のサムライ』では徳川慶喜を演じている。司馬作品を原作とする役に臨む心境を問われると、「嬉しさはありますが、ファンが非常に多いので、その心理を裏切らないようにとは考えます」と率直に述べた。


東出昌大氏

 一方で、他の原作映画化とは異なる利点もあるという。「『今度これをやります』といわれたものが司馬作品だったら、『え、司馬遼太郎ですか! 大好きなんです』と、すぐに入り込めるのが嬉しい」。作品への事前理解がすでに血肉となっているからこそ、「ファンのエッセンスを抽出しよう」という作業を省略でき、すぐに役に入れると話した。

 『関ヶ原』での小早川秀秋役については、原田眞人監督の意向で「愚鈍な君主ではなく、聡明な人物だったという演出にしました」と明かした。司馬が後世の小早川像をかなり決定づけたことを踏まえつつ、「単に愚かだったのではなく、懊悩していたという描写で人物像が立体的になり、非常にやりがいがありました」と振り返った。

あなたは太くあっていい。一本の大木になれるのだから

 対談の終盤、東出氏は現代を生きる若者に向けてメッセージを求められた。その言葉は、情報があふれる時代への危機感から始まった。

「目に飛び込んでくる扇情的なニュースやタイトル、SNSで友人があげる『インスタ映え』する写真。そういった何かの思惑を含んだ情報が氾濫する中にいると、心が疲れて『自分は何がしたかったんだっけ』と分からなくなり、アップアップしてしまうように思います」

 そのうえで東出氏は、司馬作品の持つ力をこう表現した。

「いわば人間の木の幹のようなもの。『あなたは太くあっていい。いずれ一本の大木になれるのだから』と、自分が大きな器であることを青年期に教えてくれます」

 損得に流される世の中への警鐘を鳴らし続けた司馬が説いた「静かに燃える青い火」のような志を、今の時代に持ちにくくなっているからこそ、「『自分の人生はもっと豊かにできるかもしれない』と、心の中の揺らめく炎を思い出させてくれるのが、司馬作品の魅力です」と述べた。

「若い子が読んだら人生が豊かになると率直に思います」。そう言った直後、東出氏は自ら笑って付け加えた。「なんて言うと、一気に年を取ったなと感じますね。でも、突き詰めれば『読んだらマジで面白いから!』と言いたいです」。

(「文春オンライン」編集部)